21日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「子育て世代『時間貧困』~共働きの3割が確保できず 子どものケアや余暇、日本はG7最少」という記事は読者に誤解を与える内容だと感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。
夕暮れ時の熊本市内 |
【日経の記事】
時間の余裕のなさを示す「時間貧困」が6歳未満の子どもを育てる世代を苦しめている。正社員の共働き世帯の3割が、十分な育児家事や余暇の時間をとれない状況に陥っている。母子家庭では育児に充てる時間が2人親家庭の半分以下で、家族の形による育児時間の格差も広がる。国際的にも日本人の子どものケアや余暇などに充てる時間は主要7カ国(G7)で最も少ない。
慶応義塾大学の石井加代子・特任准教授らが分析した。1日24時間を(1)食事や睡眠など基礎生活に必要な時間(2)可処分時間――に分け、可処分時間から労働・通勤時間を差し引いた時間が、国の統計で示される一般的な育児・家事時間より少なければ「時間貧困」と定義した。
◎まず定義が…
「慶応義塾大学の石井加代子・特任准教授ら」の「時間貧困」の定義がまずおかしい。「育児・家事時間」が平均より少ないというだけで「時間貧困」なのか。ある世帯では「家事や育児より仕事に時間を使いたい。そのために家事代行や保育サービスを積極的に利用しよう」と考えたとしよう。この世帯は「育児・家事時間」が平均より少なくなる可能性が高い。だからと言って「時間貧困」と見るべきなのか。生活スタイルに応じて時間配分をしているだけという場合もあり得る。
この「時間貧困」の定義からは、誰もが平均的な「育児・家事時間」を確保したいはずだとの前提を感じる。しかし、そうとは限らない。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
例えば、6歳未満の子どもが1人いる世帯では、平均およそ1日8時間を家事、育児、介護、買い物に使っている。
分析の結果、6歳未満の子どもがいる正社員の共働き世帯の場合、31%が時間貧困に陥っていた。妻と夫で分けると、妻の80%が時間貧困だったのに対し、夫は17%。石井特任准教授は「夫の家事への参加時間の少なさが、働く妻の余裕をなくしている」と説明する。
◎「働く妻の余裕」を測定できる?
「時間貧困」の分析では「働く妻の余裕」を判断できない。「妻の80%が時間貧困」となるのは「片働き」「正社員+非常勤」世帯の妻の「育児・家事時間」が長いからだろう。夫の場合はどの世帯でも働き方に差が出にくいので「時間貧困」の比率が低くなる。それは当たり前の話だ。夫と妻で「時間貧困」の比率を比べても、あまり意味がない。
それを「妻の80%が時間貧困」と打ち出すと「働く妻の余裕」がないように見える。しかし、そうとは限らない。「働く妻」が「育児・家事」を積極的に外部委託している場合「働く妻の余裕」が専業主婦を超えてもおかしくない。
「夫の家事への参加時間」を増やすべきと「石井特任准教授」は考えているようだが、これはおかしな話だ。夫の「育児・家事時間」を増やして妻の「育児・家事時間」を減らすと「働く妻の余裕」は出るだろうが「育児・家事時間」が減ってしまうので「時間貧困」はさらに深刻になる。
「働く妻」の「時間貧困」を減らすには「育児・家事時間」を増やすのが効果的だ。「食事や睡眠など基礎生活に必要な時間」を減らすのは現実的ではないとすれば「労働・通勤時間」を減らすしかない。
「少子化を加速させないためにも、男性の家事参加はもちろん、働き方の見直し、家事の一層の支援が喫緊の課題となっている」と福山絵里子記者は記事を締めている。
「時間貧困」を減らしても「少子化」対策にはならないと思うが、仮になるとしよう。そうなると働く妻の「労働・通勤時間」は削るべきとの結論になる。
記事に付けたグラフを見ると、妻の「時間貧困」の割合は「正社員+非常勤」世帯で30%、「片働き」世帯で0%だ。となると「少子化を加速させないためにも女性たちは仕事を辞めて専業主婦へ」と誘導すべきだろう。
この結論を福山記者は受け入れられる?
※今回取り上げた記事「子育て世代『時間貧困』~共働きの3割が確保できず 子どものケアや余暇、日本はG7最少」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220821&ng=DGKKZO63626740R20C22A8EA2000
※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価はDで確定とする。
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