2022年1月22日土曜日

大塚耕平 参院議員のMMTに対する誤解が目立つFACTA「三耕探究⑦」

参議院議員の大塚耕平氏はMMT(現代貨幣理論)を誤解しているようだ。FACTA2月号に載った「三耕探究⑦ 日本の危機!『六重苦』で『貧しい国』の断崖」という記事からは、そう判断できる。中身を見ながら具体的に指摘したい。

中之島公園

【FACTAの記事】

故小渕首相の時代に「二兎論争」があった。財政再建と経済成長を二匹の兎に喩え、どちらの兎を追うか、両方追うか、あるいは「二兎を追う者は一兎をも獲ず」の諺(ことわざ)どおりなのか。

現在は新「二兎論争」の様相を呈している。以下、対比のために、財政健全化を追求する考え方をTMT(Traditional Monetary Theory)、伝統的金融理論と記す。

MMT派の主張のポイントは主に3点だ。

第1は、国は負債だけではなく資産も有しており、純資産(資産マイナス負債)で考えることが必要と主張する。日本の純資産はゼロ近傍(負債と資産がほぼ同額)なので問題ないと結論づけている


◎そんな主張してる?

国は負債だけではなく資産も有しており、純資産(資産マイナス負債)で考えることが必要」とMMT派は主張しているのか。MMT派の主張の全てに目を通している訳ではないので「ない」とは断言できない。だが、個人的にはそういう主張を目にしたことがない。

MMTの主唱者として知られるステファニー・ケルトン氏は著書「財政赤字の神話~MMTと国民のための経済の誕生」の中で以下のように記している。

MMTのレンズで見れば、政府は一般家庭や民間企業とはまったく違う。両者の間には、シンプルで否定できない違いがある。政府が通貨(米ドル)を『発行』するのに対し、他のすべての経済主体は通貨を『利用』するだけだ

政府の財政に関して「一般家庭や民間企業」と同じように考えることをMMTは戒めている。この考えに従えば「」の財政状況を「純資産」で見て「問題ない」とかあるとか論じること自体が無意味だ。

記事の続きを見ていこう。


【FACTAの記事】

第2は、日銀が国債を買い続けることができる(事実上の引き受けができる)ため、政府は日銀に紙幣を発行させれば財政は回り続けると主張する。いわゆる「統合政府論(アマルガメーション・アプローチ)」である。

第3は、財政赤字は拡大しているものの、現に何も起きていない、インフレも発生していない、だから大丈夫と主張する。

一方、TMT派は上記3点に関してそれぞれ次のように主張する。

第1に、国の資産と言っても、実際にそれを購入する人がいなければ資産としての価値も意味もない。純資産がゼロ近傍だから「大丈夫」なのではなく、ゼロ近傍だから「大丈夫ではない」という真逆の判断だ


◎「純資産がゼロ近傍だから『大丈夫』」?

MMTの一般的な考え方に基づけば「純資産がゼロ近傍だから『大丈夫』」とはならない。通貨主権を持つ日本の場合、政府の「純資産」はプラスでもマイナスでもゼロでも支払い能力に影響はない。政府・日銀は無から日本円を創出できる。「資産」を「購入する人」がいるかどうかは関係ない。そこは大塚氏にも理解してほしい。

さらに続きを見ていこう。


【FACTAの記事】

第2に、日銀が国債を買い続けることはできないと主張する。日銀がYCC(イールド・カーブ・コントロール)と称して長期金利を政策的に低位固定化せざるを得なくなっていることが、市場の国債消化能力が限界に達しつつあることの証左と指摘する。

日銀がYCCを止めると、国が民間金融機関に市場経由で国債を発行し、それを日銀が市場から取得するという「日銀トレード」ができなくなる。そうなれば日銀はまさしく国債を直接引き受けするしかない。その場合、投資家は国債売却、円売り、つれて日本株売りという悪循環に陥る。つまり、債券安、円安、株安のトリプル安だ。

第3に、上記第2の状況に至って急激な円安が生じると、輸入物価高を含め、制御できないインフレが発生すると主張する。

そのうえで、上記第2、第3の状況が現実化した場合、政府はその流れを止めるために財政再建策を発表しないと市場も投資家も「日本売り」を止められない。その結果、結局は伝統的な理論通りに財政再建策を発表することとなり、それはTMTが妥当であることの証左とする。これだけ真逆の主張だから、いくら議論してもMMT派とTMT派の主張の優劣について結論が出るはずがない


◎「真逆の主張」?

大塚氏が描く「TMT派の主張」には問題が多い。全てに言及すると長くなるので、ここでは1つだけ指摘しておこう。「日銀がYCCを止める」と「債券安、円安、株安のトリプル安」に陥り、さらには「制御できないインフレが発生する」と「TMT派」は主張しているらしい。だとすれば「YCCを止め」なければ済むのではないか。

YCC」を続けられなくなる理由を大塚氏は記していない。「日銀が国債を買い続けることはできない」とも「TMT派」は主張しているらしいが、なぜ「国債を買い続けることはできない」と見ているのかも謎だ。「日銀」は無から無限に日本円を創出できるのだから「国債を買い続けること」は簡単にできる。

大塚氏はそこが理解できないだろうのか。「これだけ真逆の主張だから、いくら議論してもMMT派とTMT派の主張の優劣について結論が出るはずがない」と投げ出してしまう。

そもそも「真逆の主張」だから「結論が出るはずがない」という理屈が謎だ。そっくりの「主張」ならば「優劣について結論」を出すのが難しいのは分かる。「真逆」ならば話は分かりやすい。例えば「宇宙人はいる」と「宇宙人はいない」というのは「真逆の主張」だ。だからと言って「結論が出るはずがない」と見るべきだろうか。宇宙人の存在を確認できた時には「主張の優劣について結論が出る」のではないか。

さらに言えば「真逆の主張」との見方が妥当ではない。「制御できないインフレが発生」した場合に「財政再建策を発表する」のが「TMT派の主張」らしいが、これはMMTと矛盾しない。

インフレにならない限り、財政赤字は気にしなくてよい、国債はいくら発行してもよいと主張する」のがMMTだと大塚氏も記事で解説している。裏返せば「インフレ」になると話が変わってくる。「制御できないインフレが発生」している場合、MMTに基づく政策運営でも「財政赤字」は縮小に向かう可能性が高い。「制御できないインフレ」は好ましくないという点でMMTと「TMT」は一致している。

さらに見ていこう。


【FACTAの記事】

「結論のない議論」に終始することなく「現実的な具体策」を考えてみる。

第1に、財政状況が「悪い」よりは「良い」方が望ましいことには誰もが賛同するだろう。


◎「誰もが賛同」?

財政状況が『悪い』よりは『良い』方が望ましいことには誰もが賛同するだろう」と書いてしまうのは大塚氏がMMTを理解していないからだ。

MMTのレンズに基づく財政運営では、特定の財政上の結果を目指すことは一切ない。財政赤字の増加は赤字の縮小、あるいは財政黒字と同じように許容されるべきものだ」とケルトン氏も著書の中で述べている。MMTでは「財政赤字」より「財政黒字」の方が好ましいとは考えない。

さらに見ていく。


【FACTAの記事】

第2に、だからと言って、財務次官寄稿のような内容を今すぐ実行できるはずがない。経済状況を悪くしても財政状況を改善するという対応は本末転倒だ。この論理にも多くの人が合意できると思う。

第3に、とは言え、日本は純資産がゼロ近傍だから「大丈夫」か「大丈夫ではない」かは、後者に分がある

IMFの最新統計(財政モニター<2018年10月>掲載の2016年時点データ)では、日本の資産に占める金融資産の割合は47.1%。残り52.9%は非金融資産だ。橋や道路、山林等の非金融資産は、誰かが購入しないと資産価値はない。国民が購入するとも思えず、だからと言って諸外国(中国等)に売却する訳にもいかない。

第4に、以上を踏まえると、この局面では財政出動、積極財政を維持できる工夫をしつつ、異常な金融緩和による財政ファイナンスを是正する意思表示、市場に対するメッセージを発することが必要だ。


◎明らかに「大丈夫」に分がある

政府保有資産のうち「非金融資産」は売りたくても売れないから国の「財政状況」は「大丈夫ではない」と大塚氏は言う。繰り返しになるが政府・日銀は無から日本円を創出できる。保有資産を売却して日本円を調達する必要はない。なので日本円の支払い能力に関しては「純資産がゼロ近傍」だろうが大幅なマイナスだろうが「大丈夫」だ。

「MMT派になってくれ」と大塚氏にお願いするつもりはない。大塚氏はどちらかと言えば「TMT派」に近いのだろう。それはそれでいい。ただMMTへの誤解は目に余る。

本当にMMTの主唱者たちは「国は負債だけではなく資産も有しており、純資産(資産マイナス負債)で考えることが必要」などと訴えているのか。そこだけでも調べてみてほしい。


※今回取り上げた記事「三耕探究⑦ 日本の危機!『六重苦』で『貧しい国』の断崖

https://facta.co.jp/article/202202018.html


※記事の評価はD(問題あり)

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