2022年1月11日火曜日

文藝春秋「女性首相は我慢しない」に感じたブレイディみかこ氏の誤解

文藝春秋2月号にライター・コラムニストのブレイディみかこ氏が書いた「女性首相は我慢しない」という記事には思い込みの強さを感じた。一部を見ていこう。

カモ

【文藝春秋の記事】

日本は外圧で変わる国なので、米国に女性大統領が生まれたら、日本も変わらざるを得なくなるでしょうけどね。おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合いで何とかする政治が通用しなくなりますから


◎「おじさん首脳同士」なら何とかなる?

記事には「安倍晋三、森喜朗といった『おじさん政治』を象徴する人々」との記述があるので、今回の記事での「おじさん」には60代以上の男性も含むとの前提で考えてみる。

ブレイディみかこ氏は「おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合いで何とかする政治が通用」してきたと見ているようだ。これは無理がある。

日米関係に限定しても「だったらなぜ日米開戦を止められず日本は壊滅的な敗戦を経験したのか」との疑問が湧く。戦争という事態に至ったのに「おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合い」で「何とか」なったと見るべきなのか。

少し現代史を振り返れば分かるはずだ。国の「首脳」はほとんどが「おじさん」だったが、「おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合い」で戦争を回避できた訳ではない。悲惨な戦争を人類は繰り返してきた。

続きを見ていこう。


【文藝春秋の記事】

2021年「世界ジェンダー・ギャップ報告書」によると日本は世界で120位でした。日本の上の119位はアンゴラで、その上にはギニアやガーナがランクインしています。もちろん日本はG7では最下位。しかも政治分野だけだとさらに147位まで下がります。


◎なぜアフリカの国を並べた?

日本の上の119位はアンゴラで、その上にはギニアやガーナがランクインしています」とアフリカの国を3つ並べたのはなぜか。「もちろん日本はG7では最下位」というくだりなどから推測すると「アンゴラ」や「ギニア」や「ガーナ」のような遅れた国にも負けていると訴えたかったのだろう。だが「アンゴラ」「ギニア」「ガーナ」が「負けてはマズい国」と言える根拠は示していない。こういう形で国を列挙するのは感心しない。

さらに言えばジェンダーギャップ指数(2020年)で9位はルワンダ、12位はナミビアだ。「G7」で言えばドイツが10位に入っているが、残りの6カ国は全てルワンダとナミビアより下に位置する。だからと言って「G7」各国は危機感を持つべきなのか。

男女格差はあってもいい。例えば保育士志望者の90%以上が女性だとして、採用時に男女同数を目指すべきだろうか。あるいは保育士志望の女性に「保育士なんか目指すな」と働きかけるのが望ましいのか。個人の自由な選択に任せた結果として男女格差が生じるのならば、その格差は放置でいい。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。


【文藝春秋の記事】

「生きづらい」という言葉を日本の女性からよく聞きますが、生きづらさが政治と繋がっていると意識している人は少ない印象です。自分さえ我慢すればいいんだ、とみんなが思うから、結局は何1つ改善されない。職場や家庭で女性が生きづらさを引き受け、こういうものだと諦めていれば、真の意味で女性を代弁する政治リーダーも出てこないでしょう。それらは繋がっているからです。日本も、階層を越えて女性たちが連帯し、今より生きやすくなる政治を求める時期に来ているのでは。連帯に必要なのも、階層や意見の違う女性の靴を履くエンパシーです。その中から、おじさんの「駒」じゃない女性政治指導者が出てくるだろうと思います。


◎女性はひたすら耐える存在?

先進国なのに極端に女性の政治進出が遅れている日本」の現状をブレイディみかこ氏は嘆くが、状況認識が根本的に間違っている気がする。昨年4月7日付のプレジデントオンラインの記事では男女の幸福度の差を論じている。これを基に考えたい。

世界価値観調査」で「幸福度について女性から男性を引いた値、すなわち『幸福度女性優位』のランキング」を見ると日本は2位で「前回、前々回の結果は、それぞれ、世界1位、世界11位だった」らしい。これ以外の調査結果も踏まえた上で記事では「日本の女性の幸福度が男性を上回る程度は、まず間違いなく、世界トップレベルにあるといってよいであろう」と結論付けている。

『生きづらい』という言葉を日本の女性からよく聞きます」というブレイディみかこ氏の言葉に嘘はないだろう。しかし、個人的な経験から全体像を決め付けてしまうのは危険だ。男女の比較で言えば「生きづらさ」をより強く抱えているのは男性の方と見るのが自然だ。

ここから「日本では男性に比べて女性が幸福度の面で恵まれた状況にあるので、女性の政治進出が進まないのでは」との仮説が成り立つ。「生きづらさ」があるのに「自分さえ我慢すればいいんだ、とみんなが思う」状況にあるとは考えにくい。女性差別的なコンテンツなどを激しく批判する女性は珍しくない。なのに「自分さえ我慢すればいいんだ、とみんなが思う」ほど日本女性は我慢強いと見るべきなのか。

日本で「女性の政治進出」が進まないのは端的に言えば女性のやる気が乏しいからだ。選挙制度は男女平等で有権者では女性が多数派だから、その気になれば女性は「連帯」して多くの議席を獲得できる。なのにその意思が弱いのは「幸福度女性優位」が世界トップクラスで、現状を政治の力で変えたいと願う女性が少ないからと考えると腑に落ちる。


※今回取り上げた記事「女性首相は我慢しない


※記事の評価はD(問題あり)

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