2021年7月7日水曜日

「魔球」は「隠し球」? 東洋経済「フォーカス政治」の例えがおかしい歳川隆雄インサイドライン編集長

例えは上手く使えば効果的だが、嵌らないとかえって説得力がなくなってしまう。週刊東洋経済7月10日号にインサイドライン編集長の歳川隆雄氏が書いた「フォーカス政治~総選挙で政権維持狙う菅氏の『魔球』」という記事は後者だと感じた。当該部分を見ていこう。

熊本港

【東洋経済の記事】 

野球に例えれば、菅義偉首相は昨年9月に無死満塁で満を持して登板したリリーフエースだった

確かに、マウンドに立った菅投手はいきなり「携帯電話料金引き下げ」と「不妊治療への保険適用」という豪速球で2者連続三振に討ち取り、残るはあと1人までいった。だが年が明けて程なく、自民、公明党議員4人の「夜の銀座」問題や森喜朗東京五輪組織委員会会長の「女性蔑視」発言といった自軍野手のエラーがあったうえに「長男の接待」疑惑で自らが乱調を来し、四球連発に加えて新型コロナウイルス対策すべてが後手に回るという思わぬ長打も浴びて、茫然自失の状態に陥った。

なぜ、菅投手は突然の乱調を来したのか。捕手の出す投球サインに従わない。ピッチングコーチがマウンドに駆け寄って助言しても断る投手なのだ。配球の組み立てだけでなく、試合運びまですべてを仕切る。まるでプレイングマネジャーである。

そんな菅投手は降板やむなしと思われたものの、何とか踏みとどまった。苦手意識が強いとされた外交・安全保障政策で見せ場をつくり、想定外のバッティングを見せたのである。4月に米ワシントンでジョー・バイデン大統領との日米首脳会談、続いて6月に英コーンウォールで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)で「点数」を稼いだ。菅氏はバイデン氏との緊密な連携によって、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と「われわれは東京五輪・パラリンピック開催支持を再度表明する」の文言をG7首脳宣言に盛り込み、日米主導をアピールしたのだ。同点に追いつかれて延長戦となったが、自らのクリーンヒットで再び勝ち越した形である


◎9回に登板?

菅義偉首相は昨年9月に無死満塁で満を持して登板したリリーフエース」だと歳川氏は言う。自民党総裁の任期が3年で残り1年の任期を引き継いだのだから「エースの負傷で7回から緊急登板したリリーフ投手」といったところではないか。

同点に追いつかれて延長戦となった」とも歳川氏は書いている。任期の延長などがあったならば分かるが、それがないのになぜ「延長戦」と言えるのか。説明はない。

そもそも「残るはあと1人」とは具体的には何だったのか。「携帯電話料金引き下げ」と「不妊治療への保険適用」は「豪速球」とピッチングで例えているのに、「G7サミット」が「クリーンヒット」と打撃になってしまうのもよく分からない。「携帯電話料金引き下げ」は守りで「G7サミット」は攻めという訳でもないだろう。

歳川氏はこの後「『コロナ退治』という魔球」に触れて、最後は以下のように記事を締めている。


【東洋経済の記事】

菅氏が直面する最大の問題は、現有の衆院277議席の減少をどこまで抑えられるかである。10月総選挙の予想だが、現時点の相場観では「35議席減±10」である。

そこで注目の菅投手の魔球だ。金銀銅メダルラッシュを通じた「東京五輪フィーバー」期待である。その余韻を残して総選挙に臨み、政権の維持と長期化を目指す菅氏の隠し球は、自らが生み出したものではないのだ。


◎「魔球」は「隠し球」?

魔球」は「コロナ退治」のはずだが、最後で「東京五輪フィーバー」に話が変わっている。関連性がある話なので、ギリギリ許容範囲内としよう。しかし、その後が苦しい。「東京五輪フィーバー」は「隠し球」でもあるらしい。

野球に例えれば」と冒頭で宣言したのならば「野球」に忠実であってほしい。打者に投げ込む「魔球」が「隠し球」になり得ないことは野球に関心がある人ならば誰でも分かる。例えとして成立していない。

ついでに言うと「菅氏の隠し球は、自らが生み出したものではないのだ」という説明には納得できない。歳川氏の見方では「ワクチン接種拡大で『コロナ退治』は成功しつつある」はずだ。これは「菅氏」が投げ込んだ「魔球」だったのではないのか。

コロナ退治」が「成功しつつある」状況の方が「東京五輪フィーバー」は起きやすい。本当に「菅氏」の力によって「コロナ退治」が実現しつつあるのならば「東京五輪フィーバー」の一部は「自らが生み出したもの」と見て良いのではないか。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~総選挙で政権維持狙う菅氏の『魔球』」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27419


※記事の評価はD(問題あり)

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