2020年11月4日水曜日

三井住友海上の「完全ジョブ型雇用」の定義が不明な日経の記事

ジョブ型」雇用に関する記事を最近よく目にするが、どうも胡散臭い。実態は大して変わらないのに「ジョブ型」と呼ぶことで大きな変化があるように見せている気がする。4日の日本経済新聞朝刊 総合・経済面に載った「三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍~来年から一部ジョブ型」という記事もそうだ。

沖端川大橋(柳川市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

三井住友海上火災保険は2021年からジョブ型の働き方を取り入れる。上司が社員1人ずつにジョブディスクリプション(職務定義書)を定め、成果を報酬に反映する。賞与の成果反映部分に差をつけることで、生活給も含めた金額の差は同クラスで2倍に広がる。サービスや業務のデジタル化を進めるなか、旧来型の仕組みでは人材の確保が難しいと判断した。

資産運用、データサイエンティスト、保険数理などの専門職は22年4月から完全ジョブ型雇用を導入する。在籍年数にとらわれずに年俸を設定し、中途採用を強化する。

専門職以外の社員では21年4月から人事制度が成果重視になる。上司が期待する行動や成果を明示し、本人と合意した上で考課の基準とする。

年俸制への完全な切り替えは影響が大きいと判断し、当面は配置や報酬の算定で勤続年数も評価する。現状は賞与の3割が成果反映部分だ。新制度では最上位と最下位の評価が最大10倍開く。30歳代後半の課長の場合、最下位が20万円で最上位は200万円。賞与の総額は約2倍の差が出る。

成果反映部分は評価が6段階あっても中央の3段階しか使っていなかった。ジョブを定義し評価を明確にし、6段階すべてを活用する。

ジョブ型雇用はKDDIや日立製作所などが導入する。年功要素が残る金融業界でも、成果重視に切り替える動きが出てきた。


◎「完全ジョブ型雇用」とは?

資産運用、データサイエンティスト、保険数理などの専門職は22年4月から完全ジョブ型雇用を導入する」と書いてあるが「完全ジョブ型雇用」の定義は不明。これでは困る。

上司が社員1人ずつにジョブディスクリプション(職務定義書)を定め、成果を報酬に反映する」のは不完全な「ジョブ型雇用」ということか。

しかし、これもよく分からない。日本の雇用形態は「メンバーシップ型」だと言われるが、日本の一般的な会社員でも担当業務はある。それを「ジョブディスクリプション(職務定義書)」として文書にすると「ジョブ型雇用」になるのか。「ジョブディスクリプション」で経理の仕事を割り振り、次の年には営業担当として「ジョブディスクリプション」を定めた場合も「ジョブ型雇用」なのか。

成果を報酬に反映する」ことは「メンバーシップ型雇用」でも当たり前にやってきたはずだ。その比率を高めると「ジョブ型雇用」になるのか。

記事の最後では「ジョブ型雇用はKDDIや日立製作所などが導入する。年功要素が残る金融業界でも、成果重視に切り替える動きが出てきた」と説明している。やはり「成果重視」だと「ジョブ型雇用」と見なすのか。

例えば「データサイエンティスト」を「データサイエンティスト」職として採用し、それ以外の仕事は一切させないと「ジョブディスクリプション」で定めるとしよう。経理や営業などへの異動ももちろんない。しかし給与だけは「年功要素」だけで決める。この場合は「ジョブ型雇用」とは呼べないのか。今回の記事からは「ジョブ型雇用」ではないと判断するしかないが、だとすると「ジョブ型雇用」とは一体何なのかとの疑問がやはり残る。


※今回取り上げた記事「三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍~来年から一部ジョブ型」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201104&ng=DGKKZO65790950T01C20A1NN1000


※記事の評価はD(問題あり)

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