2020年11月21日土曜日

「オンライン診療、恒久化の議論迷走」を描けていない日経 大林尚編集委員「真相深層」

日本経済新聞の大林尚編集委員に記事を書かせるのはやめた方がいいと繰り返し指摘してきた。しかし日経にその気はないようだ。21日の朝刊総合1面にも「真相深層~初診『かかりつけ医』に限定 オンライン診療、恒久化の議論迷走 英には似て非なる『家庭医』」という記事を書いている。そして例によって完成度は低い。「菅義偉首相が指示したオンライン診療解禁の恒久化をめぐり、政府内の議論が迷走気味だ」との書き出しで始まるが、最後まで読んでも「政府内の議論が迷走」している話は出てこない。

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記事の前半を見ていこう。

【日経の記事】

菅義偉首相が指示したオンライン診療解禁の恒久化をめぐり、政府内の議論が迷走気味だ。医療機関へのアクセス向上という視点で捉えられがちなオンライン診療だが、本格的な普及段階に入れば医師資格のあり方にもかかわってくる可能性がある。キーワードは「かかりつけ医」と似て非なる「家庭医」である。

かかりつけ医が政策の焦点に浮上した。10月30日の田村憲久厚生労働相の記者会見が契機だ。

「オンライン診療は安全性と信頼性をベースに初診も含めて進める。首相から恒久化という言葉ももらっている。普段かかっているかかりつけ医を対象に初診も解禁というか、恒久化すると3者で合意した

3者は、河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相を含めた3閣僚を指す。オンライン診療は安倍政権時の4月、規制改革推進会議(首相の諮問機関)がコロナ禍を受けて特命タスクフォースを新設し、収束までの特例として全面解禁した。感染リスク対策の意味合いが強かったが、首相の恒久化指示で政府の動きが慌ただしくなった。

日本医師会を中心に医療界には全面解禁への慎重論が強い。医師会はかねて、かかりつけ医の普及に熱心だ。意を受けた厚労省は、タレントのデーモン閣下が「気軽に相談できるかかりつけ医をもちましょう」と勧める広告動画をつくり、東京メトロの車内モニターなどで流している。

問題はかかりつけ医の定義だ。医師会のウェブサイトには「何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医や専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的能力を有する医師」とある。こんな名医が自宅や勤め先の近くにいて平時から健康管理を任せられれば、誰だって心強い。

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が9月にまとめた意識調査によると、かかりつけ医がいる人は55%。年齢別では70代以上の83%に対し、20代は22%だ。普段あまり医者の世話にならない若年層が低いのは当然だが、20代の31%が「いるとよいと思う」と答えた。この割合は前回調査より高い。日医総研はコロナの影響があるのではと推測する。


◎そもそも「議論」はあった?

この記事からは「政府内の議論」があったのかどうか読み取れない。それで「迷走」しているかどうか分かるはずもない。「普段かかっているかかりつけ医を対象に初診も解禁というか、恒久化すると3者で合意した」のは分かる。だが、これだけでは「迷走」には程遠い。そして話は「医師会」という「政府」外へと移ってしまう。

政府内の議論が迷走」しているかどうか。記事の後半も見ておこう。


【日経の記事】

英国にはGP(ジェネラル・プラクティショナー)と呼ばれる資格がある。日本語なら「家庭医」といったニュアンスだ。すべての人が自宅近くの診療所に勤務する家庭医を1人登録し、初期診療はその家庭医に診てもらうのを原則とする。

同国の国民医療制度(NHS)の家庭医になるには医学部卒業後に基礎研修を受け、最短3年の専門研修が義務づけられている。指導医から一定の評価が得られれば一人前として登録される。いくつもの診療科の治療をこなし、手に負えない患者は素早く病院の専門医につなぐのが使命だ。

日本医師会は「患者と対面して五感を研ぎ澄ませて診察する方が見落としなどのリスクを小さくできる」などを根拠に、とくに初診時の対面原則を崩そうとしない。むろん対面診療の重要性に異論はない。病状や患者が置かれた環境で対面でなければならない場面はある。一方、デジタル技術の飛躍的な革新で対面を上回る効果を発揮するオンライン診療が可能になるケースも出よう。

医師会関係者は「日本の医学教育はオンライン診療を想定しておらず、医学生は対面診療が基本と教わる。オンライン診療がなし崩しに広がれば医療の質が下がる心配が強い」とも話す。裏を返せば、医学教育にもデジタル化が前提の改革が必要になるのではないか。デジタル専門教育を受けた医師なら初診からのオンライン診療を認めるとの考え方も成り立つ。

かかりつけ医の範囲が曖昧なままオンライン初診を認める厚労相の方針は果たして機能するのか。仮に英国のような家庭医資格の創設を俎上(そじょう)に載せるなら、それはそれで意義深い改革になるかもしれない。


◎「医師会」や「英国」の話の前に…

医師会」や「英国」の話をあれこれとしているが「政府内の議論が迷走」していると判断できる記述はない。そして「かかりつけ医の範囲が曖昧なままオンライン初診を認める厚労相の方針は果たして機能するのか」と終盤で問いかける。しかし「かかりつけ医の範囲が曖昧なまま」なのかどうか記事で説明はしていない。「医師会」や「英国」の話をする前に、そこをしっかり解説すべきだ。

かかりつけ医の範囲」はどう「曖昧」なのか。「かかりつけ医の範囲」が「曖昧なまま」になる過程でどういう「政府内の議論」があったのか。そこを描けば「迷走」だと読者も納得できるかもしれない。しかし、記事では何も触れていない。

記事の途中では「問題はかかりつけ医の定義だ。医師会のウェブサイトには『何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医や専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的能力を有する医師』とある」とも書いている。なのになぜ「政府」が「かかりつけ医」をどう定義しているのか言及しないのだろう。

医師会のウェブサイト」にどう書いているかは、それほど重要ではない。問題は「政府」がどう「かかりつけ医の範囲」を決めるかだ。そこの説明を省いて、重要性の薄い話を長々と書けるのは悪い意味で凄い。

やはり大林編集委員に記事を任せるのはやめた方がいい。結論は今回も変わらない。


※今回取り上げた記事「真相深層~初診『かかりつけ医』に限定 オンライン診療、恒久化の議論迷走 英には似て非なる『家庭医』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201121&ng=DGKKZO66521430R21C20A1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/70.html

1 件のコメント:

  1. 大林編集委員をFランク査定して、記事はDランクというのは合点がいかない。私見は記事もFランク、真相にせまるどころでなく、却ってミスリードする偏頗な記事。

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