2020年11月29日日曜日

東洋経済の書評を読んで思う「パワハラ」取り締まりの危うさ

パワハラ」という概念は曖昧で危険だ。週刊東洋経済12月5日号に載った「パワハラ問題」(井口博 著)に関する書評を読んで改めてそう感じた。書評の全文は以下の通り。

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【東洋経済の記事】

「部下が不快と言えばパワハラになるのなら、部下を叱ることもできない」などと誤解も多いパワハラ(上司の言動が業務上必要かつ相当の範囲であればパワハラではない)。ハラスメント関連を専門とする弁護士がパワハラ問題の急所を具体的な判例などを基に解説する。

 パワハラに当たる行為は、1.暴力行為、2.威圧的言動、3.人格否定発言、4.仕事に無関係な言動、5.他の社員がいる場所での叱責など。反面、1.業務が人の生命や身体の安全に関わる、2.部下のミスの程度が大きい、3.部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ。部下からパワハラ相談を受けた際の3大禁句は「あなたにも悪いところがある」「それくらいみんな我慢している」「なぜやめてくださいと言わなかったのか」だという。


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる


(1)暴力も許される?

1.業務が人の生命や身体の安全に関わる、2.部下のミスの程度が大きい、3.部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ」らしい。だとすれば「部下のミスの程度が大きい」場合は「暴力行為」も許されるのか。あり得ないだろう。


(2)「仕事に無関係な言動」はパワハラ?

仕事に無関係な言動」が「パワハラ」に当たるとすれば、趣味の話を振ったりするのも「パワハラ」と認定される恐れがある。「好きな映画とかある?」と聞いただけで「パワハラ」と責められる可能性があるとしたら、あまりに窮屈だ。


(3)「他の社員がいる場所での叱責」はご法度?

飲食店の厨房で新入りがミスをした時に先輩が「叱責」するには作業を中断して個室で話をしなければならないのか。あるいは「叱責」すべきことを覚えておいて最後に個室で話をしろとなるのか。これが求められると指導する側は負担は大きい。「パワハラになるから指導なんてするもんじゃない」となり人材育成に問題が生じそうだ。


(4)「部下のミスの程度が大きい」では曖昧過ぎるような…

部下のミスの程度が大きい」場合は「セーフ」と言うが「大きい」かどうかの判断は難しい。3日連続で遅刻して皆に迷惑をかけた部下を「他の社員がいる場所」で「叱責」した場合は「セーフ」なのか、それともアウトなのか。人によって判断は分かれるだろう。客観的な基準がない場合、上司はとにかく「叱責」を避けるのが合理的だ。しかし、それが職場にとって最善とは考えにくい。


(5)「部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ」に意味ある?

部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ」というのは上司にとって何かの救いになるだろうか。「パワハラ」が問題になった時に「部下」が「理由もなく反抗的」だったと認めるケースはまずないだろう。また「理由」があれば済むのならば「希望の部署に異動させてくれないから」でもいいはずだ。これを「理由」に他の「部下」が大勢いるところで「反抗的」な態度を取られて「他の社員がいる場所」で「叱責」したら「パワハラ」になるのか。理不尽と言うほかない。


(6)「あなたにも悪いところがある」は「禁句」?

「この前、同期と僕と先輩の3人で飲みに行った時に、先輩から『遅刻や無断欠勤が多過ぎる。直せ』と叱られました。確かに僕は遅刻ばかりしているけど、同期がいる前での叱責なのであれは先輩のパワハラですよね」と相談を受けた時に「あなたにも悪いところがある」と言ってはダメなのか。もしそうならば世も末だ。

パワハラ」という物差しを使って判断すると物事にうまく対応できない気がする。「暴力行為」「人格否定発言」などと分けて対処していく方が理に適っているのではないか。


※今回取り上げた記事「話題の本 新書 『パワハラ問題』


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