2019年12月3日火曜日

「あなたの活躍、8割的中」は本当に凄い? 日経1面連載「データの世紀」

日本経済新聞の朝刊1面で苦しそうな連載が始まった。技術革新が世界を大きく変えると訴える企画記事が日経は大好きだが、成功確率は低い。3日の「データの世紀 理解者はキカイ(1)あなたの活躍、8割的中 AI上司は知っている『見える化』の代償も」という記事にも説得力は感じられなかった。

フラワーのこ(福岡市の姪浜渡船場で)
      ※写真と本文は無関係です

まずは最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

悩みを聞いてもらう相手は家族や友人、職場の先輩というのは過去の話になるかもしれない。表情や声などから、個人の内面すら読み取るデータ技術が登場する。あなたのことをあなた以上に知り、会社では生産性の向上、私生活では人生相談に一役買う。「理解者はキカイ」になる時、私たちは何を見るのか。

今成勉さん(64)は8月、部下の男性社員の「人物診断書」に目を疑った。成績優秀。人当たりも良い。あいさつを欠かさず、変わった様子はないはずだ。「明るいあいつがなぜ……」

今成さんが勤める京浜商事(横浜市)は、各社員の内面を「見える化」する独特の人材評価システムを使う。アルゴリズムで顔を解析し「行動力」「責任感」「安定性」など12項目を評価する。欠点がなさそうに見えた部下の男性だが「自信」が極度に低かった

今成さんは元警察官で、人を見る目には自信がある。最初は診断結果を疑ったが、念のため男性社員に話を聞くと、子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた

「やっと言えてほっとしました」。面談後の表情は見違えるようだった。「キカイの方が人を見る目があったとは」。今成さんは幹部候補選びでも活用を検討する。

テクノロジーで働く人を感情面から支援する「トランステック(総合2面きょうのことば)」に注目が集まる。外見から分からない心の動きをデータで示し、社内の交流や仕事の効率化を促す。膨大なデータを駆使する21世紀だからこそ可能になった「新しき理解者」だ


◎「キカイの方が人を見る目があった」?

上記の事例から「キカイの方が人を見る目があった」と言えるだろうか。「キカイ」が判断したのは「『自信』が極度に低かった」ことだ。そして「面談」で「子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた」と分かったらしい。

キカイ」が「男性社員」について「子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた」と見抜いたのなら分かる。しかし教えてくれたのは「自信」のなさだけだ。「悩み」と関連があるかどうかも微妙だ。

自信」のなさが「子育てや親戚付き合い」の「悩み」から来ているとは限らない。元々が「自信」に欠けるのかもしれない。「面談」で分かったことと「キカイ」の判断を強引に結び付けている可能性はかなりある。

次の事例はさらに無理がある。

【日経の記事】

米調査会社トラクティカによると、感情分析の市場規模は2025年に4100億円と18年の20倍に膨らむ見通し。あらゆる職場でキカイの理解者が活躍し始めたが、同時に私たち人間にも大きな変化を迫る。

ネット広告のセプテーニ・ホールディングスは、採用活動で人工知能(AI)の判断を重視する。学生の考え方や経験を聞くアンケート、初期選考の結果など約100項目から入社後の「活躍可能性」が算出される。

10年分の人事評価データに基づく予測の的中率は8割。新卒採用の100人中、2割はネット面接のみで合否が決まり、4月の入社式で初めて会社に来る人もいる。

経験や勘に基づいた人の判断は曖昧だ。そんな不満が、データ分析で個々の未来を予測する技術を発展させた。担当の江崎修平さんは「AIに任せる仕事が増えた分、人に求められる能力もどんどん変わっている」と気を引き締める。



◎「的中率8割」の中身が…

あなたの活躍、8割的中」と見出しにも使っているが、「予測の的中率は8割」に関する説明は引っかかる。「セプテーニ・ホールディングス」の使う「AI」が具体的にどういう「予測」をしているか分からないからだ。

イメージしやすいように、プロ野球選手で考えてみよう。「A選手は入団1年目からレギュラーに定着し、入団から10年続けて打率3割以上、本塁打20本以上を記録する」と「AI」が「予測」して「的中」させたら、凄いと思える。

これが「A選手は引退するまでに1本以上の本塁打を打つ」との「予測」だったらどうか。このレベルの「予測」で「的中率は8割」だとしても驚くには値しない。

AIなどの進歩を取り上げた企画記事では「こんなに凄いことが起きている」と訴えないと話が成り立ちにくい。しかし、取材班が望むような大きな変化は簡単には起きてくれない。それが記事で紹介した事例から透けて見えるのは皮肉だ。


※今回取り上げた記事「データの世紀 理解者はキカイ(1)あなたの活躍、8割的中 AI上司は知っている『見える化』の代償も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52568640V21C19A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

0 件のコメント:

コメントを投稿