フラワーのこ(福岡市の姪浜渡船場で) ※写真と本文は無関係です |
まずは最初の事例を見ていこう。
【日経の記事】
悩みを聞いてもらう相手は家族や友人、職場の先輩というのは過去の話になるかもしれない。表情や声などから、個人の内面すら読み取るデータ技術が登場する。あなたのことをあなた以上に知り、会社では生産性の向上、私生活では人生相談に一役買う。「理解者はキカイ」になる時、私たちは何を見るのか。
今成勉さん(64)は8月、部下の男性社員の「人物診断書」に目を疑った。成績優秀。人当たりも良い。あいさつを欠かさず、変わった様子はないはずだ。「明るいあいつがなぜ……」
今成さんが勤める京浜商事(横浜市)は、各社員の内面を「見える化」する独特の人材評価システムを使う。アルゴリズムで顔を解析し「行動力」「責任感」「安定性」など12項目を評価する。欠点がなさそうに見えた部下の男性だが「自信」が極度に低かった。
今成さんは元警察官で、人を見る目には自信がある。最初は診断結果を疑ったが、念のため男性社員に話を聞くと、子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた。
「やっと言えてほっとしました」。面談後の表情は見違えるようだった。「キカイの方が人を見る目があったとは」。今成さんは幹部候補選びでも活用を検討する。
テクノロジーで働く人を感情面から支援する「トランステック(総合2面きょうのことば)」に注目が集まる。外見から分からない心の動きをデータで示し、社内の交流や仕事の効率化を促す。膨大なデータを駆使する21世紀だからこそ可能になった「新しき理解者」だ。
◎「キカイの方が人を見る目があった」?
上記の事例から「キカイの方が人を見る目があった」と言えるだろうか。「キカイ」が判断したのは「『自信』が極度に低かった」ことだ。そして「面談」で「子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた」と分かったらしい。
「キカイ」が「男性社員」について「子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた」と見抜いたのなら分かる。しかし教えてくれたのは「自信」のなさだけだ。「悩み」と関連があるかどうかも微妙だ。
「自信」のなさが「子育てや親戚付き合い」の「悩み」から来ているとは限らない。元々が「自信」に欠けるのかもしれない。「面談」で分かったことと「キカイ」の判断を強引に結び付けている可能性はかなりある。
次の事例はさらに無理がある。
【日経の記事】
米調査会社トラクティカによると、感情分析の市場規模は2025年に4100億円と18年の20倍に膨らむ見通し。あらゆる職場でキカイの理解者が活躍し始めたが、同時に私たち人間にも大きな変化を迫る。
ネット広告のセプテーニ・ホールディングスは、採用活動で人工知能(AI)の判断を重視する。学生の考え方や経験を聞くアンケート、初期選考の結果など約100項目から入社後の「活躍可能性」が算出される。
10年分の人事評価データに基づく予測の的中率は8割。新卒採用の100人中、2割はネット面接のみで合否が決まり、4月の入社式で初めて会社に来る人もいる。
経験や勘に基づいた人の判断は曖昧だ。そんな不満が、データ分析で個々の未来を予測する技術を発展させた。担当の江崎修平さんは「AIに任せる仕事が増えた分、人に求められる能力もどんどん変わっている」と気を引き締める。
◎「的中率8割」の中身が…
「あなたの活躍、8割的中」と見出しにも使っているが、「予測の的中率は8割」に関する説明は引っかかる。「セプテーニ・ホールディングス」の使う「AI」が具体的にどういう「予測」をしているか分からないからだ。
イメージしやすいように、プロ野球選手で考えてみよう。「A選手は入団1年目からレギュラーに定着し、入団から10年続けて打率3割以上、本塁打20本以上を記録する」と「AI」が「予測」して「的中」させたら、凄いと思える。
これが「A選手は引退するまでに1本以上の本塁打を打つ」との「予測」だったらどうか。このレベルの「予測」で「的中率は8割」だとしても驚くには値しない。
AIなどの進歩を取り上げた企画記事では「こんなに凄いことが起きている」と訴えないと話が成り立ちにくい。しかし、取材班が望むような大きな変化は簡単には起きてくれない。それが記事で紹介した事例から透けて見えるのは皮肉だ。
※今回取り上げた記事「データの世紀 理解者はキカイ(1)あなたの活躍、8割的中 AI上司は知っている『見える化』の代償も」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52568640V21C19A1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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