大川小学校跡地(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係 |
記事の一部を見ていく。
【日経の記事】
課題先進国と呼ばれる日本は、人類史に例のない高齢化を筆頭にいくつものテーマを抱えている。経済成長や物価は低迷し、国内総生産の2倍を超える公的債務は心配の種だ。正社員の夫を専業主婦が支える均一的な家族像は崩れ、単発の仕事を請け負うフリーランスのような働き方が増えてきた。社会の変化に応じて所得税を手直ししながら、老若男女が等しく担う消費税の役割を高めるのがふさわしいのではないか。
そんな考えがさらに強くなったのは今年6月、福岡で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を取材したときだ。米国の「GAFA」に代表されるデジタル企業の台頭をふまえ、税逃れを防ぐために法人税の最低税率を定めるアイデアがあっさり合意に至ったのには驚いた。税率を決める権限は国の主権の根幹に関わる大事な要素。もはや、そこまで手放さなければグローバル企業の税逃れを防げなくなってきた現実を思い知らされた。
最低税率が決まれば、企業を誘致したい各国の税率は最低ラインに集まるだろう。公共サービスを賄う税収の源としては当てにしにくくなる。富裕層をめぐって法人税に似たイタチごっこが所得税や相続税でも始まった。企業や富裕層の潤いを社会に還元する税制の役目は変わらないが、人やカネが簡単に国境を越える時代に法人税や所得税の限界は色濃い。
◎2つの誤解が…
まず「G20」での「法人税の最低税率」に関する「合意」の内容を確認しておこう。6月11日付の朝日新聞の社説では以下のように解説している。
「G20は、法人実効税率の最低水準を決めることも確認した。水準を下回る国にある子会社の利益は、親会社の利益と合算して、親会社のある国が課税することにする。税率が極端に低い国をなくし、課税逃れを防ぐねらいだ」
他社の報道内容とも基本的に齟齬はないので、「G20」での「合意」は上記のようなものだとの前提で話を進める。
上杉氏の第1の誤解は「税率を決める権限」の放棄に「合意」したと理解してしまったことだ。「(最低)水準を下回る国にある子会社の利益は、親会社の利益と合算して、親会社のある国が課税することにする」のだから「最低水準」を下回る国があるのが前提だ。もちろん「最低水準」を上回る「税率」でも構わないはずだ。なのにどうして「もはや、そこ(税率を決める権限)まで手放さなければ」と書いてしまったのか。
2つ目の誤解は「法人税」の「限界は色濃い」と判断したことだ。
今回の「合意」は「税率が極端に低い国をなくし、課税逃れを防ぐ」のが狙いだ。狙い通りに「税率が極端に低い国」が「税率を低くしても企業は集まらないしメリットは薄いな」と感じて低税率を見直すとしよう。その場合、「法人税」の「限界は色濃い」と言えるだろうか。
「最低水準」がどこに決まるかという問題はあるが、「税率が極端に低い国」に引きずられて法人税率が低下する傾向に歯止めがかかる効果は期待できる。そうなれば現状で「最低水準」を上回る税率の国では「法人税」の税収に頼りやすくなる。
なのになぜ「法人税」の「限界は色濃い」と理解してしまったのか。上杉氏の理解力に不安を感じる。
ついでに言うと「最低税率が決まれば、企業を誘致したい各国の税率は最低ラインに集まるだろう」との見方には賛成できない。これに関しては上杉氏の予想が当たる可能性もある。ただ「水準を下回る国にある子会社の利益は、親会社の利益と合算して、親会社のある国が課税することにする」だけならば「子会社」ではない会社を「税率が極端に低い国」に置くメリットは残る。なので「税率が極端に低い国」は残りそうだ。
また、現状は言ってみれば基準となる「最低税率」がゼロだ。だからと言って「各国の税率」がゼロ近辺に集まっている訳ではない。先進国だけで見ても税率にはかなりのバラツキがある。「最低税率」が決まっただけで、今のバラツキが解消に向かうのか疑問ではある。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~消費税10%の先を考える」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191001&ng=DGKKZO50395340Q9A930C1TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html
「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html
麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html
地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html
日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_27.html
「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html
0 件のコメント:
コメントを投稿