長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です |
記事を見ながら問題点を指摘したい。
【日経の記事】
ふつうの公務員が楽をしているとはいわないが、自衛隊や警察、消防などが命懸けの任務に従事していることは論をまたない。
こうした厳しい仕事の担い手をどうやって確保するのか。少子高齢化の日本にとって、これは容易ならざる難題である。自衛隊員の実数は定員の9割だが、昔の兵隊に相当する「士」は7割しかいない。
折しも、2019年の出生数が90万人を割り込みそうだ、との報道が反響を呼んでいる。同年齢の100人にひとりが志願しても、20~30歳代の合計が18万人に満たなくなる日が遠からず来る。自衛隊の総定数は約25万人である。
企業などが人手不足に対処する方策は4つあるとされる。外国人、高齢者、女性、省力化である。コンビニに行くと、店員が着けている名札はカタカナの方が多いくらいだ。
米軍には外国人もいる。イラク戦争に従軍した米兵の18%は米国籍を持っていなかったそうだ。それに倣い、自衛隊も中国人を採用してはどうか……という日本人はいないだろう。
◎そんな「日本人」いますけど…
「自衛隊」が「中国人を採用」することに個人的には反対ではない。つまり「自衛隊も中国人を採用してはどうか……という日本人」はいる。
そもそもなぜ「中国人」限定で話を進めるのか。「米軍」の「外国人」が全て「中国人」とは考えにくい。「米軍」に倣うのならば、「米軍」と同じような運用方針で日本でもやれるかどうかを検討すべきだ。
百歩譲って「中国人を採用」するのが問題だとしても、それ以外の「外国人」もダメだとの根拠にはならない。「外国人」に頼れないとの大石編集委員の分析には、まともな理由が見当たらない。
記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
自衛隊員の定年は階級ごとに違うが、早い人は53歳だ(22年以降は54歳)。これを高年齢者雇用安定法が企業に雇用を義務付ける65歳まで延ばせば、とりあえずの頭数はそろう。
とはいえ、陸上自衛隊でいちばん人数が多い世代は実は50歳代だ。そのまま上にスライドするとどうなるか。隊員にグルコサミンを支給しなければならなくなるかもしれない。
◎「65歳」以外の選択肢は?
ここでも、まともな分析はしていない。「65歳まで延ばせば、とりあえずの頭数はそろう」とは書いているが、この問題を考える上では2つの要素が必要だ。「自衛隊員」としての役割を果たす上で年齢的な限界は何歳辺りなのか。そして、限界まで「定年」を引き上げた時に「頭数」がどうなるかだ。
こうした分析をしないまま「隊員にグルコサミンを支給しなければならなくなるかもしれない」などと書いて、「定年」延長でも問題は解決しないとの結論を導く。これでは説得力がない。
「女性」に関しても無理のある分析が続く。
【日経の記事】
女性はどうだろうか。隊員に占める比率は18年度末の時点で7%。政府は27年度までに9%に引き上げる方針だ。配置先の制限はほぼなくなり、間もなく潜水艦への乗務も始まる。
頼もしい限りだが、さらなる伸び代に期待しすぎない方がよい。女性が16%いる米軍も、実戦部隊の海兵隊だと9%どまりだ。
◎「16%」に増やせるのなら…
今が「7%」で「米軍」並みに増やせば「16%」と2倍以上になる。それでどの程度の問題解決につながるのかを大石編集委員は教えてくれない。「米軍も、実戦部隊の海兵隊だと9%どまり」とのデータを根拠に「女性」にも頼れないという方向に導いていく。
そもそも「米軍」も「16%」が上限とは限らない。「米軍」がいずれは20%、30%と比率を高めていくかもしれない。仮に「米軍」は「16%」が限界だとしても、日本の限界が「米軍」と同じとは限らない。ここでも大石編集委員の分析は説得力に欠ける。
最後の「省力化」はさらに酷い。
【日経の記事】
省力化は、ドローンを活用した無人攻撃などが考えられるが、日本の研究は出遅れている。
◎執筆が面倒になった?
記事を書くのが面倒になったのだろうか。「省力化」に関しては「ドローンを活用した無人攻撃などが考えられるが、日本の研究は出遅れている」で済ませている。
「日本の研究は出遅れている」としても、これから挽回する可能性もある。それが無理ならば、外国から技術を導入する手もある。「省力化」は不可能と考える方が非現実的だ。どの程度の対応ができるのか予測は難しいだろう。だからと言って「日本の研究は出遅れている」で片づけてしまうのは強引すぎる。
そしてこの後、「となると、やはり若者をリクルートするしかないのか」とご都合主義的に結論を出してしまう。個人的には「外国人、高齢者(定年延長)、女性、省力化」のいずれもが「人手不足」への対応に有効だと感じる。
さらに言えば「自衛隊の総定数は約25万人」だからと言って、これを前提に人員確保の問題を考えるべきとも思えない。
外務省によると、日本よりもはるかに広い国土を持つオーストラリアは現役兵力が5万9800人(2019年2月時点)しかいない。国土面積が日本に近いニュージーランドに至っては1万人に満たない。
「北朝鮮問題などを抱える日本と事情が違う」という反論は成り立つが、だからと言って「25万人」を確保しないと防衛は無理とは言い切れない。自衛隊の人員確保の問題を考えるならば「そもそも自衛隊の適正人員はどの程度なのか」から検討したい。
それを大石編集委員に求めるのは高望みが過ぎるとは思うが…。
※今回取り上げた記事「風見鶏~『90万人割れ』時代の自衛隊」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191027&ng=DGKKZO51453940W9A021C1EA3000
※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html
ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html
どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html
「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html
大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html
「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html
具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html
自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html
米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html
0 件のコメント:
コメントを投稿