2019年7月15日月曜日

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員

セブン&アイ・ホールディングスを持ち上げるばかりだった日本経済新聞の中村直文編集委員が変わり始めたのかもしれない。15日の朝刊企業面に載った「経営の視点~セブン カリスマ後の憂鬱 進取の気性どこへ」という記事を読んでそう感じた。今回はいつものヨイショ記事とは少し趣が違う。ただ、「カリスマ」を持ち上げる癖は残っているようだ。中身を見ながら記事の問題点を指摘してみたい。
金華山黄金山神社の鹿(宮城県石巻市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

24時間営業へのオーナーの反乱、スマートフォン決済「セブンペイ」の不正利用など失態が相次ぐセブン&アイ・ホールディングス。現経営陣が一番言われたくない批判は「セブン―イレブン・ジャパンを立ち上げたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が3年前に引退し、求心力が落ちた」との一言だろう。

実際に一連の失態は回避できた組織的な問題だ。セブンペイについて「緻密な開発力を誇るセブンがあんなミスをするなんて」と同業の幹部は驚く。24時間問題もしっかりとオーナーの声に耳を傾けていれば、事態は違っていたはずだ

もちろん失態と鈴木氏不在の因果関係は証明できない。鈴木氏も今や86歳。いずれ引退することは避けられなかったし、鈴木氏に意見しにくい組織風土になっていた面は否めない。



◎鈴木氏の時代は「耳を傾けて」いた?

失態と鈴木氏不在の因果関係は証明できない」とは述べているものの、上記のくだりでは「鈴木敏文氏が3年前に引退」したことが「失態」につながったのではないかと示唆している。

引っかかるのは「24時間問題もしっかりとオーナーの声に耳を傾けていれば、事態は違っていたはずだ」と書いている点だ。「鈴木氏」の時代には「しっかりとオーナーの声に耳を傾けて」いたのならば、「引退」と「失態」の関連を探るのも理解できる。しかし「しっかりとオーナーの声に耳を傾け」ない体質は以前からあるのではないか。

日経は2011年9月15日付で「値下げ制限は独禁法違反 セブンイレブンに賠償命令」という記事を載せている(共同通信の記事を使用)。それによると「大手コンビニのセブン―イレブン・ジャパン(東京)加盟店の元経営者の男性(57)が、値下げ販売を不当に制限されたなどとして、同社に約2600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁は15日、制限を独禁法違反と認め、同社に220万円の支払いを命じた」という。

記事には「セブン―イレブンによると、値下げ制限をめぐって公正取引委員会から09年に排除措置命令を出されたことを受け、現在は加盟店の値下げを一部容認、廃棄分原価の15%を同社が負担している」との記述もある。

値下げ制限」自体が「排除措置命令を出され」るものだったにもかかわらず、「オーナーの声に耳を傾け」ないで訴訟になり敗訴している。もちろん「鈴木氏」が経営トップに君臨していた時代の話だ。

鈴木敏文氏が3年前に引退」したから「24時間問題」が起きたと考えるよりは、「鈴木氏」の時代から続く「オーナーの声に耳を傾け」ない体質が「24時間問題」を引き起こしたと推測する方が自然だ。

長年かわいがってもらった「鈴木氏」に問題の原因を求めるようなことは中村編集委員もできないのだろう。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

数字上の影響が出ているのか。まずコンビニの業績を他社と比較してみる。ローソンは既存店売上高が2016年度と18年度が微減で、17年度は微増。1店舗・1日当たりの売上高(日販)は平均54万円、53万6千円、53万1千円と落としている。ファミリーマートの既存店売上高は17年度が微減で、16年度と18年度は微増。日販は52万2千円、52万8千円、53万円と伸ばしている。

一方のセブンイレブン。既存店売上高はプラスを続け、日販は65万7千円、65万3千円、65万6千円で推移。グループ全体の連結業績は19年2月期の営業利益が計画値を下回ったが、増収増益は続けている。

コンビニを柱に「遺産」を引き継ぎ、カリスマ不在でもしっかりと優位性を保っている。セブンイレブンは7月に沖縄進出を果たしたが、先行するファミマの沢田貴司社長は「できれば進出を控えてほしい」と不安を口にするぐらいだ。



◎説明が下手

ダラダラと「微減」「微増」「平均54万円、53万6千円、53万1千円」などと行数を費やした割に、この数字を使った分析らしきものは見当たらない。これならば「既存店売上高増減率や1店舗・1日当たり売上高(日販)で見てもローソンやファミリーマートに対する優位性は保てている」とだけ書いて数字の紹介は省いた方がいい。
筑後船小屋駅(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係

平均54万円、53万6千円、53万1千円」といった数字の列挙については、いつの数字かはっきりしない。2016~18年度だとは思うが、直前に「2016年度と18年度が微減で、17年度」と書いているだけで「2016~18年度の数字を並べてみる」とは読者に伝えていない。

この辺りに中村編集委員の説明下手を感じる。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

ただ先行きには懸念がある。他社に先駆けて世の中にない商品サービスを提案する力が低下していることだ。スマホ決済もセブン流ならば先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入すべきだった。「わざわざ二番煎じの決済ならば導入する必要もない」(セブン関係者)との厳しい声も聞こえてくる。

セブンカフェ、金の食パン、銀行などかつては進取の気性でヒットを連発したが、最近は見当たらない。デフレ期でも「多少高くてもおいしいものが売れる」「欲しいものがなければ作ればいい」といった過去の成功体験を否定するカリスマ的な指導力が市場を創造した。


◎「鈴木氏」時代はそんなに凄かった?

スマホ決済もセブン流ならば先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入すべきだった」との説明も引っかかる。「鈴木氏」の時代は「先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入」するのが「セブン流」だったと中村編集委員は見ているのだろう。

では「スマホ決済」と同じIT関連のオムニチャネル戦略はどうだったのか。「鈴木氏」の肝入りで進めていた印象があるが、成功したのか。「先手を打つか、あるいは他社をしのぐレベルで参入」できたのか。

付け加えると、「多少高くてもおいしいものが売れる」「欲しいものがなければ作ればいい」という考え方は「過去の成功体験を否定する」ものなのか。となると「過去」には「いくらおいしくても少しでも高いと売れない」「欲しいものがないからといって作ると失敗する」といった経験則があったのだろうか。

個人的には、「多少高くてもおいしいものが売れる」「欲しいものがなければ作ればいい」という考え方は昔から普通にあった気がする。

ここから最後まで一気に見ていこう。

【日経の記事】

セブンの鈴木名誉顧問に聞くと最近の経営については口を閉ざす。ただ「同質化競争をしているから飽和状態になる。流通業は蓄積じゃない。新しいことに挑むこと」と歯がゆさを見せる。セブンの現場は優秀だが、まじめさだけでは横並びの発想しか浮かばない。ヒット商品は見たことがないからヒットする。だから周囲の反対意見を恐れては何も生まれない。

鈴木氏は「宇宙を相手にしているわけではない。人間が相手なのだから小売業は一番やりやすい仕事なんだよ」と話す。顧客とオーナーの立場に立ち、潜在需要を開拓することが先駆者セブンの使命のはずだ。


◎あえて離れた方が…

セブンの鈴木名誉顧問に聞くと最近の経営については口を閉ざす」と言う割に「同質化競争をしているから飽和状態になる。流通業は蓄積じゃない」などと「最近の経営について」そこそこ語っている。

記事を書く上で取材は大切だ。なるべく色んな人に会った方がいい。しかし、中村編集委員にはあえて「鈴木氏とはもう会うな」と助言したい。

長年かわいがってもらった「鈴木氏」に会えば、どうしても「鈴木氏」ヨイショの記事を書きたくなるはずだ。中村編集委員はただでさえヨイショ記事を書きたがる傾向が強い。そんな中でやっと変化の芽が出てきた。

鈴木氏」とも今の「セブン&アイ」経営陣とも距離を置いて、中立的な立場から言うべきことを言うのがベストだ。それを実現する上では「鈴木氏」との距離が近すぎると感じる。


※今回取り上げた記事「経営の視点~セブン カリスマ後の憂鬱 進取の気性どこへ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190715&ng=DGKKZO47352830U9A710C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

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