大分県別府市 ※写真と本文は無関係です |
「治療」に言及した終盤を見ていこう。
【東洋経済の記事】
痴漢はスリルやリスクと隣り合わせだからこそゲーム性が高く、行為そのものに達成感を覚えていく。少しずつ手口が巧妙になり、逮捕される危険も回避できる。そうした実態は痴漢に「依存症」という側面があることを示している。
斉藤氏は「あらゆる依存症には、不安や苦痛といったストレスを一時的に和らげる効果があります。ほんの一時でも不安や苦痛から逃れようと、痴漢という行為に耽溺していくのです」とも話している。
斉藤氏は痴漢の治療プログラムを行っており、「受講者に『逮捕されなければずっと続けていましたか』と聞くと、ほぼ100%の確率で『はい』という返事が返ってきます。加害者に話を聞くと、逮捕されたときに『ホッとした』『捕まって安心した』と話します。自らの力で痴漢行為をやめられなくなっているんです」と話す。
痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない。痴漢をはじめとする性犯罪は高い再犯率が問題となっているように、痴漢と逮捕を繰り返す加害者は多い。しかし現状では、「逮捕されれば治療」という認識は広まっていない。新たな痴漢被害を生まないためには、逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている。
「日本に痴漢が蔓延している」という事実は、多くの人が知るところだ。しかし、これまで痴漢は性犯罪の中でも、“軽犯罪”と認識され、深刻な社会問題として捉えられていなかったのではないだろうか。フランスで『Tchikan』を出版した佐々木くみ氏は、「痴漢被害に遭う日々に絶望し、何度も自殺を考えていた」と話す。
痴漢を減らすためのさらなる対策が必要とされている。
◎せめて「治療の効果」は論じないと…
記事のテーマは「〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」だ。できるかできないか明確な答えを出せとは言わない。ただ、この問題をしっかり論じるべきだ。その結果として「撲滅できるか」どうか全く分からないという結論になるのなら納得できる。
しかし、今回の記事では「治療で撲滅できるか」をまともに論じていない。「痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない」「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」などとは書いているが、「治療で撲滅できるか」に関しては手掛かりすらない。
「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と書いているので筆者の安部氏は「治療に効果あり」との立場なのだろう。ところが、どの程度の効果があるのかも教えてくれない。これでなぜ「〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」というテーマを掲げたのか。
ついでに言うと「痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない」と断定しているのも引っかかる。「痴漢に『依存症』という側面がある」かもしれないが、「痴漢に手を染める人=依存症」とは言い切れないはずだ。
痴漢で有罪判決を受けた人のうちどの程度が「依存症という病気」なのかが知りたい。その上で治療効果を見極めたい。「全員が依存症で治療によって100%治る」のならば、「痴漢と逮捕を繰り返す加害者」はゼロにできるだろう。仮に痴漢被害の99%が「痴漢と逮捕を繰り返す加害者」によるものならば、ほぼ「撲滅」と言える。
しかし「依存症」とは言えない人が多かったり、治療しても効果が上がらない人がかなりいたりする場合は「治療で撲滅」はできない。この辺りは「2000人以上の性犯罪加害者の臨床に携わった精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏」に質問してもいいはずだ。記事にはそうした形跡が見当たらない。
なのに安部氏は「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と結論付けている。治療効果が小さい場合、「逮捕から治療に結び付ける仕組み」を作ってもあまり意味がない。「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と訴えたいのならば、その主張に説得力を持たせるための材料をしっかりと読者に提供すべきだ。
今回の記事ではそれができていない。東洋経済編集部の担当者も責任を感じてほしい。
※今回取り上げた記事「リディラバ 安部敏樹の『社会問題』入門 第3回 〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2019021600/DCL0101000201902160020190216TKW038/20190216TKW038/backContentsTop
※記事の評価はD(問題あり)。安部敏樹リディラバ代表への評価も暫定でDとする。
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