仮屋湾(佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です |
まずは最初の事例から。
【日経の記事】
たばこを吸わない人に煙たがられ、オフィスから愛煙家の姿は減る一方だ。最近では勤務時間内の仕事の効率を高める働き方改革や、人手不足の中で健康な人材を確保する動きが、社内の全面禁煙に拍車をかけている。顧客や投資家の目も厳しく、仕事中の「ちょっと一服」はますます肩身が狭いようだ。
「禁煙を始めて支店の営業成績が伸びました」。中堅人材サービス、ジェイエイシーリクルートメントの小浜剛・北関東支店長(36)の言葉には勢いがある。
同社は2018年4月から国内外のグループで、社内はもちろんプライベートでも従業員に禁煙を求めるようにした。北関東支店では3分の2を占めた喫煙者が席を外して紫煙をくゆらすことがなくなり、オフィスでの会話が増えた。必然的に営業先の情報交換が密になり、ノウハウも共有されやすい。
一般的に、たばこを吸う人には「喫煙所での何気ない話が仕事のアイデアにつながる」との意見がある。だが自身もたばこをやめた小浜さんは「喫煙所の限られたメンバーで話すより、大人数での会話の方が生産性が上がる」と言い切る。
◎常識的には…
「社内の全面禁煙」が「営業成績」の向上をもたらしたと取れる書き方が気になる。常識的に考えれば、両者に因果関係はないか、あってもわずかだろう。「ほぼ前年並みだった売上高が、禁煙にした途端に一気に10%を超える伸びになった」などと書いてあれば「ひょっとしたら…」と思えるが、「営業成績」に関する具体的な数値は出てこない。
しかも「営業成績」が伸びたのは「北関東支店」の話だ。「社内の全面禁煙」の効果を伝えたいのならば、「ジェイエイシーリクルートメント」全体の売り上げが「全面禁煙」によってどう変化したのかを入れたい。「北関東支店」を前面に押し出したのは、そこがたまたま「全面禁煙」後に「営業成績」が伸びたからではないかと疑いたくなる。
次は「セイコーエプソン」の事例を見ていく。
【日経の記事】
セイコーエプソンでは18年度に、勤務時間中の喫煙禁止をそれまでの週2日からすべての日に広げた。「人手不足の中で社員には健康で長く働いてほしい」(総務部)というのが狙いだ。昼休みにはたばこを吸える敷地内の喫煙所も、将来はなくしたい考えだ。
今のところ社内の反応は二分されている。直近のアンケートでは、たばこを吸う従業員の3~4割が喫煙所をなくすことを認める一方で「喫煙者をいじめている」と率直な声も上がる。
全面禁煙に不満な従業員もおり、企業はストレス解消に気を配る。ジェイエイシーは月4000円を上限にスポーツジムの費用を補助、セイコーエプソンは休憩時間の運動を呼びかけている。たばこを吸った場合の罰則までは定めていないことが多いようだ。
◎ここも数字の見せ方が…
「勤務時間中の喫煙禁止をそれまでの週2日からすべての日に広げた」のを受けて「今のところ社内の反応は二分されている」と書くのならば、「直近のアンケート」に関しては「喫煙所をなくすことを認める」かどうかではなく、「すべての日に広げた」ことへの賛否を入れてほしかった。
長崎大学(長崎市)※写真と本文は無関係です |
「喫煙所をなくすことを認める」のが「たばこを吸う従業員の3~4割」と書いて「一方で『喫煙者をいじめている』と率直な声も上がる」と反対派の数字を入れていないのも引っかかる。どちらが多かったのかは知りたい。
ついでに言うと「アンケート」の結果なのに「3~4割」という幅のある数字になっているのが気になる。数値は明確に出ているはずなので、例えば「34%」などと書いた方が好ましい。
そして、今回の記事で最も気になったのが以下のくだりだ。
【日経の記事】
だが今や、たばこを吸う人は採用しない企業も珍しくない。人工知能(AI)を開発するHEROZもその一つ。「社員の多くはきつい、帰れない、給料が安い、3K職業と思われているシステムエンジニア。イメージを払拭したい」(高橋知裕代表取締役)。喫煙者という理由で採用を断ったこともある。
◎関係ある?
「たばこを吸う人は採用しない」ようにすると「きつい、帰れない、給料が安い、3K職業と思われているシステムエンジニア」の「イメージを払拭」できると「HEROZ」の「高橋知裕代表取締役」は考えているようだ。
しかし、社内で「たばこを吸う人」をゼロにしても「きつい、帰れない、給料が安い」という状況は改善しない。基本的に関係ない話だと思える。下村記者はコメントを使う時に何も疑問を抱かなかったのか。だとしたら、かなり心配だ。
また「喫煙者という理由で採用を断ったこともある」は何のために入れているのか謎だ。「たばこを吸う人は採用しない企業も珍しくない。人工知能(AI)を開発するHEROZもその一つ」と書いているのだから、「喫煙者という理由で採用を断ったこともある」と改めて入れる意味はない。
次は「オリンパス」の事例に注文を付けたい。
【日経の記事】
厚生労働省の17年の調査では、屋外を含めた敷地内の全面禁煙に取り組む事業所は全体の14%。「建物内禁煙」も35%に上り、屋内でたばこを吸えない事業所は国内の半数に迫る。こうなると対応が遅れている企業には危機感すらあるようだ。
オリンパスでは2年後をメドに社内の喫煙スペースをなくす。同社は医療用の内視鏡の世界大手。笹宏行社長は「肺がんを調べる医療機器メーカーとして社内禁煙は必須」ときっぱり。顧客である病院関係者の視線を意識する。同社で海外営業を担当する西橋和寛さん(59)は30年来の喫煙と昨秋に決別した。「社内の取り組みをきっかけに念願の禁煙ができました」と安堵の表情だ。
◎「危機感」ある?
「対応が遅れている企業には危機感すらあるようだ」と書いた後で「オリンパス」の話が出てくるので「危機感」を感じている企業の動きを紹介するのかと感じる。しかし「オリンパス」の事例から特に「危機感」は伝わってこない。
「社内の喫煙スペースをなくす」のも「2年後」とのんびりだ。「危機感」がないと理解する方が自然だろう。「喫煙スペースをなくす」ぐらい、その気になればすぐにできる。
次が最後の事例だ。
【日経の記事】
たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある。経済産業省と東京証券取引所が、社員の健康管理に積極的な企業を選ぶ「健康経営銘柄」は、19年から新たに分煙の取り組みが審査の対象になる。ドアなどで周囲から閉ざされた喫煙室があることが条件だ。
◎「分煙」の話では?
「たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある」と書いているのに、出てきたのは「たばこの有無」ではなく「分煙」の話だ。これは苦しい。
それに「ドアなどで周囲から閉ざされた喫煙室があること」が「健康経営銘柄」に選ばれる「条件」になるのならば、「全面禁煙」の会社は対象外になってしまう(実際にはそうではないとは思うが…)。
ついでに言うと「経済産業省と東京証券取引所」は「投資家」ではないので、「健康経営銘柄」の選定基準を見て「たばこの有無は、投資家の評価材料にもなりつつある」と判断するのも、やや無理がある。
色々と注文を付けてきたが、少し改善するだけで優れた書き手になれる素地は感じる。下村記者の今後に期待したい。
※「健康経営 消えるたばこ 投資家の目厳しく~人手不足や働き方改革…社内禁煙に拍車」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190119&ng=DGKKZO40223270Z10C19A1MM0000
※記事の評価はD(問題あり)。下村凜太郎記者への評価も暫定でDとする。
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