2018年11月3日土曜日

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員

似ていないモノを「似ている」と決めてしまったのが失敗の原因--。日本経済新聞の藤田和明編集委員が2日の朝刊マーケット総合1面に書いた「スクランブル~中国株は日本の『01年』 過剰債務との苦闘 難所に」という記事を読んでそう感じた。記事を見ながら具体的に問題点を指摘したい。
豊後森機関庫公園(大分県玖珠町)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ。市場では「債務のキス」(モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのルチル・シャルマ氏)とシニカルにいわれもするが、中国も例外といえないのではないか。中国株の動きをバブル後の日経平均株価に重ねると奇妙なほどに符合する。



◎「奇妙なほどに符合する」?

中国株の動きをバブル後の日経平均株価に重ねると奇妙なほどに符合する」と言うが、記事に付けたグラフを見るとそうでもない。「中国株」は急落後すぐに当該期間の最安値を付け、その後は一進一退ながらもその安値を下回っていない。一方の「日経平均株価」はダラダラと下値を切り下げていく。

中国株」は2015年に急騰と急落を見せているが、「日経平均株価」にはそれに類する値動きがない。グラフを重ねた印象を言うと「全く違うとは言わないが、あまり似ていない」といったところか。それを「奇妙なほどに符合する」としてしまった。ここで記事の失敗は約束されたようなものだ。

ついでに言うと「債務のキス」の例えは理解できなかった。「日本は債務問題で苦しんでるね。まさに債務のキスだね」と言われて意味が分かるだろうか。「シニカル」と言うより意味不明だ(自分の読解力不足かもしれないが…)。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

中国株は今年に入って調整色を強めている。上海総合指数は前年末比21%安。「米中貿易摩擦と国内インフラ投資の減速の2つが株価を押し下げた」(野村証券の木下智夫氏)

月末値で上海総合指数が最も高かったのは2007年10月、11年前。株価の足取りを1989年12月をピークにした日経平均に合わせると、いまの中国の位置を読む補助線になる。ちょうど、日本の01年初めだ。

当時の日本はIT(情報技術)ブームがはじけて株価が急落。銀行の保有株が含み損になり、金融不安が危惧され出すあたりだ



◎01年に「金融不安が危惧され出す」?

日本の01年初め」を「金融不安が危惧され出すあたり」と説明するのは苦しい。記事に付けたグラフにも「山一証券自主廃業(97/11)」という文字が見える。りそな銀行の実質国有化が03年なので、90年代から続いた「金融不安」は「01年」も継続していたと考えるのが普通だ。「1989年12月」以降で「金融不安が危惧され出すあたり」を探すとしたら92年前後だろう。
上野公園病院(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

もちろん、いまの中国とは異なる。ただ過剰な債務を抱え、これ以上は財政出動やマネーの力に頼れないと市場が見透かし始めたのなら、構図は似通う。

中国政府が企業や地方政府に債務削減を指示したのが17年秋。今夏に実際に固定資産投資が息切れしてくると、インフラ関連株中心に下げがきつくなった。

株安による負のスパイラルも同じだ。自社株を担保に融資を受けている企業は多く、株安で追加担保や融資削減に直面している。

神経をとがらせる当局は10月の急落時に、そうした企業への支援姿勢を見せる「口先介入」で、株安を食い止めた。日本の場合は、銀行等保有株式取得機構を後でつくることになる。

中国の債務膨張は、08年の4兆元の景気対策が起点だ。07年末に97%だった企業債務の国内総生産(GDP)比率は18年3月末に164%になった。


◎「過剰債務との苦闘」とは?

今回の記事には「過剰債務との苦闘 難所に」との見出しが付いている。しかし、藤田編集委員の言う「債務」が公的債務なのか民間債務なのか、あるいは両方なのか分かりにくい。

バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ」と聞くと公的債務をイメージしたくなる。「過剰な債務を抱え、これ以上は財政出動やマネーの力に頼れないと市場が見透かし始めた」というくだりも同様だ。

しかし「07年末に97%だった企業債務の国内総生産(GDP)比率は18年3月末に164%になった」との記述では「企業債務」と明言している(国有企業の債務もあるとは思うが…)。また「中国政府が企業や地方政府に債務削減を指示したのが17年秋」との説明は「両方」と言っているようにも見える。この辺りは明確にしてほしい。

日本で言えば「企業」に関して「過剰な債務」の問題は既にないが、「国家」に関しては今もある。どちらの問題を論じているのか明確にならないと中国との比較もしにくい。

記事をさらに見ていく。

【日経の記事】

土地バブルで家計が傷んだ日本とは違うとの指摘はある。一方で「影の銀行」が膨張したのが中国だ。

「深刻ですよ」。あるエコノミストが見せてくれた写真は中国内の抗議の人だかりだ。個人が気軽にネットで融資する金融サービスで焦げ付きが相次ぎ、不満が噴き出している。

大和総研の斎藤尚登氏が懸念するのは理財商品。「健全に運用させる監督強化でマネーが細まり、株安につながっている」。過剰債務を減らすデレバレッジの難しさはこれからだ。

次の注目は、中央委員会第4回全体会議(4中全会)の行方だ。「再び景気刺激か、構造改革か。貿易摩擦の中でどちらを選ぶか」(SMBC日興証券の平山広太氏)

日本は小泉純一郎政権が構造改革路線を取り、もう一段厳しい局面をみてから株価は反転に向かった



◎小泉純一郎政権が「過剰な債務」問題を解決?

上記の説明だと、日本では「小泉純一郎政権が構造改革路線」を取った結果、「過剰な債務」の問題が解消し「株価は反転に向かった」と理解したくなる。

しかし、公的債務に関しては当時から現在に至るまで「過剰な債務」の問題を抱えたままだ。「バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ」のは、日本について言えば当時も今も変わらない。

記事の終盤に話を移そう。

【日経の記事】

全く異なる道になった市場もある。米ナスダック総合指数だ。00年のピークから10年間は似た足取りだったが、その後は上昇軌道をとった。アップルなどIT企業が躍進したからだ。

難所にある中国株。世界のリスクの震源となるのか。市場の関心はいやが上にも高まる局面だ。



◎「全く異なる道」になってる?

まず「全く異なる道になった」とは思えない。日本は「もう一段厳しい局面をみてから株価は反転に向かった」のだから、どちらも結局は「上昇軌道」になっている。
長崎大学医学部 ※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「上昇軌道をとった」という表現には違和感がある。「軌道を取る」とはあまり言わない。「上昇軌道を描いた」などの方が自然だ。

急に「米ナスダック総合指数」の話が出てくるのも引っかかる。これは「バブルを経て過剰な債務を抱えた国家は、その後の処理に苦しむ」例なのか。しかし、そうした説明はない。「アップルなどIT企業が躍進した」から問題が解決したとしているが、「過剰な債務」が問題ならば「アップルなどIT企業が躍進」してもあまり意味がなさそうだ。

それに「中国株は日本の『01年』」と藤田編集委員が考えているのならば「米ナスダック総合指数」を持ち出す必要はない。日中の比較で十分だ。

米ナスダック総合指数」も「日経平均株価」も「奇妙なほどに符合する」との判断ならば、記事では日中の比較に重心を置き過ぎている。「米ナスダック総合指数」を持ち出したのは一種の「保険」だとは思うが、やめた方がいい。

日中の株価の動きが「奇妙なほどに符合する」と書いたのならば、「中国株」の相場展開に関しても「日経平均株価」と似た動きになるとの予測を打ち出してほしかった。それが怖いのならば、この手の記事は書かない方がいい。


※今回取り上げた記事「スクランブル~中国株は日本の『01年』 過剰債務との苦闘 難所に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181102&ng=DGKKZO37216020R01C18A1EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

0 件のコメント:

コメントを投稿