2017年12月4日月曜日

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員

特に訴えたいこともないが、紙面を割り当てられたので仕方なくあれこれ書いてみました--。4日の日本経済新聞朝刊1面に載った「ポスト平成 新しい日本へ(下)激動の世界 現実主義で」という記事の筆者である大石格編集委員の気持ちを代弁すれば、こんなところだろうか。「激動の世界 現実主義で」と見出しでは打ち出しているものの、「何に関して、どういう現実主義が求められているのか」は教えてれない。
夜明大橋(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

他にもこの記事には色々と問題を感じた。まずは冒頭を見ていこう。

【日経の記事】

平成の始まりと冷戦の終わりが軌を一にしたのは偶然だが、米国にとって最大の敵だったソ連の消滅は日本の立場を大きく変えた。



◎「軌を一にした」の使い方が…

軌を一にする」を辞書で調べると「1、車の通った跡を同じくするように、立場や方向を同じくする。2、国家が統一される」(デジタル大辞泉)と出てくる。記事の「平成の始まりと冷戦の終わりが軌を一にした」というのは、辞書に出てくる1でも2でもない。

そもそも「平成の始まり」と「冷戦の終わり」は時の流れの中の「」なので「『軌』を一に」との相性が良くない。「平成の始まりと冷戦の終わりが時を同じくした」などとした方が自然だ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

平成になって半年。1989年7月にパリで開いた宇野宗佑首相とブッシュ大統領(父)の日米首脳会談は史上最短の6分間で終わった。日本の貿易黒字を減らすための構造協議を始めることで合意したことになった。

「話し合いは以心伝心で行われた」と政府筋は解説したが、要するに米政府が作成したペーパーを手渡されて終わったのだ。米国では日本を新たな脅威と位置付ける見方が広がっていた。

日本政治はこうした動きにうまく対応できなかった。反共の旗印を失った自民党は首脳会談直後の参院選で歴史的惨敗を喫した。昨年回復するまで27年間、参院で過半数に届かなかった。

「普通の国」「小さくともきらりと光る国」

この頃の永田町で流行した単語からは、急に大きくなった自画像へのとまどいが読み取れる。

ポスト平成の時代。かつて反共と日米同盟さえ言っていればよかった日本は、多極化する世界秩序の中でどのような立場を追求していくのか


◎結局、何が言いたい?

記事の前半部分はあまり意味がないのだとは思う。後半とのつながりも、ほとんど感じられない。だが、それでも注文は付けておこう。
須賀神社(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

まず「日本政治はこうした動きにうまく対応できなかった」との説明が漠然とし過ぎている。どう「対応」すべきだったのかが記事からは分からない。「米政府が作成したペーパーを手渡されて」首脳会談を終えるようなことをせず、毅然とした態度で臨むべきだったのか。それとも「日本を新たな脅威と位置付ける見方」が米国に広がらないように手を打つべきだったのか。

そこを解説しないまま「この頃の永田町で流行した単語からは、急に大きくなった自画像へのとまどいが読み取れる」と、漠然とした話へ移ってしまう。

仕方がないのでそこは忘れて「多極化する世界秩序の中でどのような立場を追求していくのか」との問題提起に目を向けてみよう。本来ならば後半では、この問題にしっかり斬り込んでくれるはずだ。後半部分は以下のようになっている。

【日経の記事】

米国第一主義のトランプ大統領の誕生は特別な事象ではない。国力の衰えた米国が内向きになっていくリスクは絶えずある。台頭する中国は習近平体制のもと、覇権主義的な性格を強めていく懸念がつきまとう。そこに北朝鮮のような安全保障リスクも加わる。

日本も迅速に意思決定できる国にならなくてはならない――。衆院に小選挙区制を導入した最大の理由は、カネのかからない選挙を実現するためだが、背景にはこんな計算もあった。

政権交代可能な二大政党が切磋琢磨(せっさたくま)し政治の質を高める。こうした期待は裏切られ、いま私たちが目にするのは巨大与党とばらばらの小党ばかりの野党といういびつな姿だ。

いま世界に政治がきちんと機能している国はほとんどない。欧州の優等生とされるドイツですら、総選挙から2カ月たっても政権の枠組みが決まらないありさまだ。

海外で成功した仕組みをそっくり取り入れる。こんな明治維新型のビジネスモデルではやっていけない時代にどんな政治をつくり出すのか。ポスト平成の最大の課題がそこにある。

幸いなことに、日本は世界に吹き荒れるポピュリズムの波にまだのみ込まれてはいない。だが兆しはそこここにある。少子高齢化と激変する安保環境。内憂外患を抱えた日本が突然、大躍進することがあり得るかは少し考えればわかることだ。

「不確実な状況では、予測される最悪な事態を避けることが何よりも重要である」。米国の哲学者ジョン・ロールズはこう説く。政治のリーダーシップには理想やキャッチフレーズに左右されない、現実主義的なアプローチが求められる。夢物語に踊らされて針路を誤る。そんな失敗だけはしたくない。


◎「現実主義的なアプローチ」の中身は?

多極化する世界秩序の中でどのような立場を追求していくのか」「明治維新型のビジネスモデルではやっていけない時代にどんな政治をつくり出すのか」との問いに対し、大石編集委員は「政治のリーダーシップには理想やキャッチフレーズに左右されない、現実主義的なアプローチが求められる」と答えを出してくれている。
久留米市役所(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

「それはそうでしょうね」ぐらいの同意はできる。だが、具体的に中身を語らないと意味がない。例えば「安定的に2%の経済成長を実現させる。その前提で政治を進めていく」というのは「現実主義的なアプローチ」なのか。それとも「夢物語に踊らされて針路を誤る」ケースなのか。人によって見方は分かれるはずだ。

現実主義的なアプローチが求められる。夢物語に踊らされて針路を誤る。そんな失敗だけはしたくない」とすれば、具体的にはどう「アプローチ」するのか。そこを論じない記事を日経の顔とも言える朝刊1面に持ってくるのは、無駄遣いが過ぎる。

ついでに言うと「いま世界に政治がきちんと機能している国はほとんどない」との説明も引っかかった。大石編集委員は何を以って「きちんと機能している」と判断しているのだろうか。

巨大与党とばらばらの小党ばかりの野党」だと「きちんと機能」していないことになるのか。「巨大与党とばらばらの小党ばかりの野党」の下でも災害対応などで「政治がきちんと機能」する可能性は十分にあるだろう。

いま世界に政治がきちんと機能している国はほとんどない」と言い切るためには200近い国に関して「きちんと機能している」かをチェックする必要がある。大石編集委員にそれができているのかとの疑問も残る。


※今回取り上げた記事「ポスト平成 新しい日本へ(下)激動の世界 現実主義で
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171204&ng=DGKKZO24204710T01C17A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

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