2017年5月17日水曜日

日経「Self Defence日本の守り~朝鮮半島危機」の奇妙な説明

17日の日本経済新聞朝刊1面に載った「Self Defence 日本の守り~朝鮮半島危機(上)矛と盾 役割分担に変化」という記事には奇妙な説明が目立った。安全保障に関して日経が自らの考えを押し出して報道するのは自由だが、強引で無理のある説明は困る。
菜の花(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていく。

【日経の記事】

1954年に発足した自衛隊は「専守防衛」で自らの武力を抑えていた。冷戦後、北朝鮮や中国が起こしうる紛争に対応するため、周辺有事で米軍に協力できるよう日米同盟を「再定義」した。

今回の朝鮮半島の緊迫は日米同盟の「再々定義」を迫るものといえる。日本の領土がミサイルの脅威にさらされ、自国防衛の「本丸」への課題に直面する。米軍が打撃力を担う「矛」、自衛隊が基地提供などで支援する「盾」の役割分担を見直す議論につながる


◎冷戦期は「ミサイルの脅威」がなかった?

日本の領土がミサイルの脅威にさらされ、自国防衛の『本丸』への課題に直面する」ようになったから「米軍が打撃力を担う『矛』、自衛隊が基地提供などで支援する『盾』の役割分担を見直す議論につながる」と日経は解説する。だとすると冷戦期はどうなるのか。

冷戦期にも日本はソ連からの「ミサイルの脅威にさらされ」ていた。しかし「米軍が打撃力を担う『矛』、自衛隊が基地提供などで支援する『盾』」でやってきたはずだ。なのに北朝鮮からの「ミサイルの脅威にさらされ」ると、「役割分担を見直す議論につながる」という説明は筋が通らない。

冷戦時はソ連からの「ミサイルの脅威」にまともに対応できていなかったのならば分かるが、記事にそうした話は出てこない。

記事中のおかしな説明はさらに続く。

【日経の記事】

「思いは同じです。しっかりやっていきたい」。3月30日、安倍晋三首相は首相官邸を訪れた自民党の今津寛安全保障調査会長に伝えた。ミサイル防衛の強化や敵基地を攻撃する能力を持つよう提言された後の発言だ

提言を受け、政府は地上配備型ミサイル迎撃システムの「イージス・アショア」などの導入を検討する。敵の基地をたたける「矛」の代表例が巡航ミサイル「トマホーク」だ。政府・自民党に待望論が強い。約3千キロメートルの射程をもち、遠く離れた場所から北朝鮮を攻撃できる。トマホークは1発あたり約1億円。1発で数十億円かかる迎撃ミサイルより割安だ。

「盾」の守りを固めるよりも、飛び道具の「矛」を持った方が実は費用対効果はいい。「矛」があれば抑止力を強める効果も期待できる。だが憲法が禁じる先制攻撃にならないようにするには、敵国が攻撃してくる意図を確定しなければならない。米軍の情報提供なしに独自の判断は難しい。


◎どこまでが「矛」?

自衛隊が基地提供などで支援する『盾』」と書いてあるので、最初は「迎撃ミサイル=矛」と感じた。しかし、「トマホークは1発あたり約1億円。1発で数十億円かかる迎撃ミサイルより割安だ。『盾』の守りを固めるよりも、飛び道具の『矛』を持った方が実は費用対効果はいい」との説明に触れると、「迎撃ミサイル=盾」とも取れる。そうでないと「『矛』を持った方が実は費用対効果はいい」という話と整合しにくい。
本佛寺の仏舎利塔と桜(福岡県うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

ただ、記事には「飛び道具の『矛』」との記述もある。「迎撃ミサイル」も当然に「飛び道具」なので「」になってしまい、辻褄が合わなくなる。「1発で数十億円かかる迎撃ミサイル」を含めて考えても「飛び道具の『矛』を持った方が実は費用対効果はいい」という可能性は残るが、ちょっと考えにくい。

日経としては「北朝鮮の本土を攻撃できる『矛』を持つことも検討すべきだ」との考えなのだろう。それはそれでいい。だが、今回のような記事の説明では説得力がないし、「今回の朝鮮半島の緊迫は日米同盟の『再々定義』を迫るものといえる」と言われても「なるほど」とは思えない。

ついでに記事の書き方に1つ注文を付けたい。


◎並立助詞の使い方が…

ミサイル防衛の強化敵基地を攻撃する能力を持つよう提言された後の発言だ」とのくだりで並立助詞「」の使い方が気になった。これでは「『ミサイル防衛の強化』や『敵基地を攻撃する能力』を持つ」という関係になってしまう(他の解釈の余地もあるが、ここでは考慮しない)。だが「ミサイル防衛の強化を持つ」では不自然だ。改善例を示しておく。

【改善例】

ミサイル防衛の強化や敵基地への攻撃能力の保持を提言された後の発言だ。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「Self Defence 日本の守り~朝鮮半島危機(上)矛と盾 役割分担に変化
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170517&ng=DGKKZO16496670X10C17A5MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

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