2017年5月6日土曜日

「積み立て優位」に無理がある日経 田村正之編集委員

日本経済新聞の田村正之編集委員がまた問題のある記事を書いていた。6日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「投信 高値づかみしない 損益指標、積み立て優位」という記事の中で「積立投資」の優位性を訴えているが、説得力はない。「『インベスター・リターン』(保有者の平均損益)という指標を当てはめて検証してみよう」と田村編集委員は言う。だが、この指標を用いること自体が不適切だ。
蹴洞橋(けほぎばし、福岡県八女市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみる。

【日経の記事】

では高値づかみを防ぐにはどうすればいいのか。一部の投資家が実践して成果を上げているのが積み立てだ。自動的に毎月、定額を買い続ける方法なので、上昇相場やテーマに引かれてつい買いたくなる「心理のワナ」から逃れられる。

積み立ての代表的な仕組みの一つが確定拠出年金(DC)。この制度を通じて投信を保有する人に限って、平均損益を見てみよう(表C右)。

全般に良好で、基準価格の騰落率を大幅に上回る。投資対象が国内株でも海外株でも同じ。運用者が独自に銘柄を選ぶアクティブ型でも、値動きが市場平均(指数)に連動するインデックス型でも傾向は同じだ。

定額の積み立てでは価格が高いときに購入口数が少なく、安いときに口数が多くなる。平均購入コストを抑えられる効果があり、このケースでも効いている。

モーニングスターの坂本浩明アナリストは「米国でも投信の高値買い・安値売りは多い。DC向け投信で保有者損益が基準価格の騰落率を上回りやすいのも日本と同じ傾向」と話す。


◎「保有者の平均損益」を用いる意味ある?

基準価格の騰落率」と「保有者の平均損益」を比べて「積み立て優位」といった結論を導き出すのはおかしい。DCを通じた投信保有者は全員が「積み立て」ではある。だが、投資を始めた時期にはバラツキがある。
三池港(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

例えば、過去10年のうち前半は下落相場で後半は上昇相場だったとしよう。そして、積み立てを始めた人の多くが後半スタートだった場合、「保有者の平均損益」が10年間の「基準価格の騰落率」を上回るのは当然だ。そのデータを基に、積み立て投資が有利かどうかを論じても意味がない。

積み立て投資が有利かどうかを見るならば、「毎月決まった額を10年間積み立てた場合」と他の投資手法を比べればいいはずだ。大して難しい試算でもない。なのになぜ「保有者の平均損益」という不適切な数字を持ってきたのか理解に苦しむ。

次の説明はさらに問題を感じた。

【日経の記事】

一般に売られる投信でも、自分で積み立てている人は損益が比較的高めのようだ。表Cの一般向け投信の欄を見ると、保有者損益はアクティブ型で基準価格騰落率より大きく劣るのに対して、インデックス型はほぼ同水準を維持する。

インデックス型はアクティブ型に比べて「積み立てに使う人が比較的多いとみられる」(坂本氏)。ネット証券では投信積み立ての対象としてインデックス型が上位に入ることが多い。


◎単なる「推測」では?

一般に売られる投信でも、自分で積み立てている人は損益が比較的高めのようだ」と田村編集委員は言うが、これまた根拠は乏しい。「インデックス型はアクティブ型に比べて『積み立てに使う人が比較的多いとみられる』(坂本氏)」と書いているだけで、それぞれどの程度の積み立て比率なのかは分かっていないようだ。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

仮に積み立て比率に差があるとしても、それが「保有者損益はアクティブ型で基準価格騰落率より大きく劣るのに対して、インデックス型はほぼ同水準を維持する」理由かどうかは断定できない。例えば「アクティブファンドでは利益が出るとすぐに手放してしまう人がインデックス型に比べて多い」という傾向があれば、それがアクティブ型の「保有者損益」の低さにつながる。

推測の域を出ないレベルの話なのに「自分で積み立てている人は損益が比較的高めのようだ」などと書くと、読者に要らぬ先入観を与えてしまう。

今回の記事のテーマは「投信 高値づかみしない」で、それに対する田村編集委員の答えは「世界株式型の投信を定額で積み立てる方法」だ。しかし、自分ならもっと有効な方法を提示できる。記事の最後を見た後で、その方法を紹介したい。

【日経の記事】

相場の流れを見極められる自信があれば、タイミングを計って売買する手法は有力な選択肢。そうでなければ、世界株式型の投信を定額で積み立てる方法が、これまで有利だったことを覚えておきたい。



◎もっと有効な方法が…

定額で積み立てる方法」は原則として有利でも不利でもない。「積み立て優位」とする田村編集委員の主張に説得力がないのは既に見てきた通りだ。ならば「高値づかみしない」ためにはどうすればいいのか。ヒントは記事に出てきた「図B」にある。ここでは「投信市場の資金流出入額」と「東証株価指数」が連動することを示している。

過去10年で資金が「流出」となっているのは、リーマンショック直後など3回しかなく、いずれも短い期間だ。経験則としては「投信の高値づかみを避けたいならば、資金流出の時に買う」でいいのではないか。

今後もこのやり方は絶対に有効だとは言わない。だが、過去10年の動きから「高値づかみ」を避ける方法を考えるならば「積み立て投資」よりも有効だと思える。「違う。やはり積み立て投資だ」と田村編集委員は反論できるだろうか。



※今回取り上げた記事「投信 高値づかみしない 損益指標、積み立て優位
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170506&ng=DGKKZO16000400S7A500C1PPE000


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。田村編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html

「お金のデザイン」を持ち上げる日経 田村正之編集委員の罪
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_61.html

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