2017年3月5日日曜日

日経の紙面改革は評価 1面「復調アップルの深謀」は残念

日本経済新聞の土曜・日曜の紙面がかなり変わった。「ニュース重視から解説重視へ」という方向性は正しい。記事の本数が減り、1本当たりの行数が増えたのも評価できる。ただ、記事の質に関しては一朝一夕には良くならない。それは4日の朝刊1面のトップ 記事にも表れている。
SURF SIDE CAFE(福岡市西区)から見た二見ヶ浦
            ※写真と本文は無関係です

復調アップルの深謀~成熟スマホ市場で販売最高に」というその記事では、最初の2段落で以下のように説明している。

【日経の記事】

減産が続いていた米アップル、iPhoneの販売が増え始めた。最新モデル「7」は革新性に乏しいと受け止められたものの、昨年末は過去最高のペースで出荷した。スマートフォン(スマホ)の世界市場(総合2面きょうのことば)の成長が止まりかけたとたんの再加速は韓国サムスン電子の発火問題という敵失だけが理由ではない。コモディティー(汎用品)化にあらがうアップルの囲い込みモデルが成熟市場で奏功し始めた。

世界のスマホ市場は2016年に転換点を迎えた。米IDCによると市場規模は14億7千万台。5年前に比べ3倍だが前年比では1桁成長に落ち込み、2%しか増えない。先進国では2、3回目の買い替えサイクルに入っている。

◇   ◇   ◇

世界のスマホ市場2016年に転換点を迎え」ており、「2%しか増えない」。そんな中で「米アップル」は「世界市場の成長が止まりかけたとたんの再加速」を見せているという。面白そうな話ではある。だが、最後まで読んでみると、それほど好対照には見えない。

記事の続きを見てみよう。

【日経の記事】

機能の向上が鈍化し、購入時の製品への満足度が下がると、多くの消費者は割安さを求めるようになる。米グーグルの基本ソフト、アンドロイド搭載端末の平均価格は200ドル程度と5年で約半分まで下がった。メーカーの利益が下がると研究開発の方向性も革新より、価格を抑える技術に向かう。製品価値の下落に伴う低価格競争が始まった。

市場の成熟によりアップルも伸び悩んだ。故スティーブ・ジョブズ氏が10年前にiPhoneを見せたときのような驚きをいつまでも消費者に与え続けることはできない。アップル製品も機能向上が鈍化する一方、中国勢は次々にiPhoneに似た製品を発売する。16年の年初からはiPhoneの減産が始まり、昨年は「アップルの最良の日々が過ぎ去った」(米運用会社サンフォード・バーンスタイン)と評された。

だが年末商戦では、目立った機能の向上が防水などにとどまった「7」が売れた。16年10~12月のiPhoneの世界販売は前年同期比5%増の7829万台と、四半期ベースで過去最高となった。

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16年10~12月のiPhoneの世界販売は前年同期比5%増」。これだと2%増の「世界のスマホ市場」と大差はない。「最新モデル『7』」が出たばかりで、「韓国サムスン電子の発火問題という敵失」があったことを考慮すれば、「5%」と「2%」の差が持つ意味はさらに小さくなる。
アントワープ(ベルギー)のグルン広場
       ※写真と本文は無関係です

付け加えると、「再加速」と言うならば、その前の不振がどの程度なのか具体的に書いてほしかった。記事には「16年の年初からはiPhoneの減産が始まり」との記述はあるが、悪かった時の販売実績は出てこない。これでは辛い。

さらに「再加速」の原因分析が苦しい。

【日経の記事】

市場の成長鈍化に逆行するように復調した理由はiPhoneに慣れたユーザーが離れないためだ。市場の中心が買い替え需要に移る中、iPhoneのリピート率は8割。慣れた操作感を捨て、アンドロイド端末を選ぶ利用者は少ない。

アップルはタブレットやパソコンをまたぐ一貫した使い心地を重視し、クラウドや音楽のサービスで顧客を囲い込む。サムスン機の発火問題で目立ったトラブルがないアップルの安定性も改めて評価が高まった。

みずほ証券の中根康夫シニアアナリストは「利用者はiPhoneの使いやすさやアプリに慣れ、大きな機能拡充がなくても買い替える仕組みが築かれている」と見る。消費者がスマホに求めるものが操作性や安心といった基準に移りアップルの優位性が高まる。

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iPhoneのリピート率は8割」というのは、以前からそんなものだったのではないか。だとしたら、なぜ「復調」の原因になるのか。リピート率が高ければ安泰ならば、そもそも「不振」に陥らずに済むのではないか。以前は「リピート率」が低かったのに、最近になって上がってきたという話ならば、その変化を見せるべきだ。

推測の域を出ないが、「新製品が出た上にライバル企業が苦境に陥ったので16年10~12月期は市場平均を多少上回る伸びになった」というだけの話にも見える。それだと面白くないので、無理のある分析になったのだろうか。

一定の機能向上と変わらぬ使い心地のバランスを重視し、顧客に自然に買い替えを促すアップルの深謀が成熟市場で浮き立つ」と筆者ら(兼松雄一郎記者、細川幸太郎記者)は結んでいるが、その結論に説得力は乏しい。


※今回取り上げた記事「復調アップルの深謀~成熟スマホ市場で販売最高に
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170305&ng=DGKKASDZ01HIB_R00C17A3MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。兼松雄一郎記者、細川幸太郎記者への評価も暫定でDとする。

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