2017年3月20日月曜日

「高度人材が根付かず」に疑問あり 日経「外国人材と拓く」

日本経済新聞の朝刊1面で「外国人材と拓く」という連載が20日から始まった。第1回の見出しは「精鋭が選ぶ国へ 実力主義 国境越える/多様性 活力の源泉に」。 出来はそれほど悪くないが、「高度人材は日本に根付かない」との前提に説得力がない。記事の前半を見てみよう。
菜の花畑(福岡県久留米市 )※写真と本文は無関係

【日経の記事】

茨城県つくば市にある産業技術総合研究所の研究棟7階。研究員のマリウス・ビュークルさん(36)は分子構造の画像をじっと見つめていた。

ビュークルさんの専門は「ナノテクノロジー(超微細技術)の再生エネルギーへの応用」。ドイツで生まれ、工学系で同国最高峰のカールスルーエ大を卒業した。博士号を取った2012年に来日。3年後に法務省から高度外国人材に認められ、日本に滞在できる期間が5年に延びた

高度人材の認定を受けるには12年に導入されたポイント制度に基づいて70点以上が必要だった。「博士号で30点、研究分野での職歴5年以上で10点、年齢が30~34歳なので10点……」。ビュークルさんが自己採点してみたところ85点あり「合格ラインを優に上回ることはすぐに分かった」。

日本は今、国を挙げてビュークルさんのような「日本の経済成長やイノベーションへの貢献が期待される高度外国人材」の獲得に血眼になっている。政府は成長戦略で「20年末までに1万人認定」との目標も掲げた。

16年6月までに認定を受けた人は5487人。だが法務省によると同じ時点で日本国内にいたのは4732人。すでに14%が国外に去った

企業や研究機関が高度外国人材を採用する意欲は強い。日本経済新聞社が国内の主要140社の経営トップに聞いたところ、6割超の89人が「受け入れを拡大したい」と答えた。うち84人は「多様性が生む活力を重視している」と説明した。

ではなぜ高度人材は日本に根付かないのか。

◇   ◇   ◇

上記の説明で「高度人材は日本に根付かない」との問題意識を取材班と共有できただろうか。
ノートルダム大聖堂(アントワープ)
       ※写真と本文は無関係です

まず人数。「16年6月までに認定を受けた人は5487人」で、政府の目標は「20年末までに1万人認定」。目標達成が確実とは言わないが、諦めるような状況とも思えない。

次に定着率。認定が始まってから「16年6月まで」に約4年が経過している。その間に「14%が国外に去った」としても驚くには当たらない。他のデータとの比較がないので評価は難しいが「国外に去ったのはわずか14%。高度人材は日本で着実に根付いている」という言い方もできる。14%を「多い」と思わせたいのならば、他国との比較などで説得力を持たせる必要がある。

記事の最後では「フランスの経済学者、ジャック・アタリ氏は国境をものともせずに世界を飛び回る一握りの高度人材を『超ノマド(遊牧民)』と呼ぶ。日本が引き寄せた超ノマドは人口比でまだ0.004%しかいない」とも書いている。「国境をものともせずに世界を飛び回る一握りの高度人材」ならば、「14%が国外に去った」からと言って「日本に魅力がない」と解釈するのは、やはり無理がある。

ついでに言うと、記事に出てくる「マリウス・ビュークルさん」に関する説明にも疑問が残る。

博士号を取った2012年に来日。3年後に法務省から高度外国人材に認められ、日本に滞在できる期間が5年に延びた」と書いてあるので、12年までは学生だったのだろう。しかし、その後に「研究分野での職歴5年以上で10点」に当てはまるとも述べている。博士号を取る前に働いていたのかもしれないが、記事の説明だけ読むと、働き始めてから「3年後に法務省から高度外国人材に認められ」たように見える。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

この記事にはもう1つ気になる説明があった。以下のくだりだ。

【日経の記事】

こんな気になるデータもある。14年に日本から他の先進国に移住した人は3万4000人いた。6割強は女性だった。「大卒以上の高学歴女性の1.1%、100人に1人以上が流出している」とデュモン氏は話す。

7年前に渡米し、ニューヨークで起業した木村仁美さん(37)もそんな一人。「上下関係が年齢や実力以外の要素で決まる。日本は大好きだが窮屈さを感じる」。スイスのビジネススクール、IMDの16年調査では高度人材にとって日本の魅力は世界52位。「選ばれる国」になるために日本はどうすればいいのか。

◇   ◇   ◇

大卒以上の高学歴女性の1.1%、100人に1人以上が流出している」というが、この記事で論じているのは「高度人材」のはずだ。そして大卒女性の圧倒的多数は記事で取り上げた「高度人材」には当たらない。なのに「大卒以上の高学歴女性の1.1%、100人に1人以上が流出している」というデータを出して危機感を煽るのは感心しない。

記事で紹介している「ニューヨークで起業した木村仁美さん」が「高度人材」なのかも情報が少なすぎて判然としない。「IMDの16年調査では高度人材にとって日本の魅力は世界52位」などと書くのならば、日本人の「高度人材」が流出しているかどうかをデータや実例で見せるべきだ。


※今回取り上げた記事「外国人材と拓く(1)精鋭が選ぶ国へ 実力主義 国境越える/多様性 活力の源泉に
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170320&ng=DGKKZO14266130Z10C17A3MM8000

※記事の評価はC(平均的)。

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