2019年12月8日日曜日

「勝者総取り」に無理がある週刊ダイヤモンド「孫正義、大失敗の先」

経済記事の書き手として週刊ダイヤモンドの杉本りうこ副編集長を高く評価している。村井令二記者と共に手掛けた12月14日号の特集2「孫正義、大失敗の先」も悪い出来ではない。ただ「勝者総取り」に関する説明は納得できなかった。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

創業者の人物にほれ込み、即断即決で出資を決めることは、まさに「孫流」の投資スタイルである。1996年、米国でジェリー・ヤン氏とデイビッド・ファイロ氏に会い、創業間もなく社員も5~6人しかいない小さな会社に100億円をぽんと出資した。米ヤフーであり、今の日本のヤフーにつながっている

2000年には中国で、ジャック・マー氏が創業したアリババグループに20億円の出資を即断。マー氏は技術者でも何でもない、単なる英語教師だったが、アリババはインターネット通販で大成功し、モバイル決済サービスのアリペイも中国全土に普及させた。ショッピングから金融まで、中国人の生活に密着した幅広いサービスを提供し、ユーザーを囲い込む勝者総取りの強いビジネスモデルを構築した

これと思った経営者に驚くほどの巨額を投じ、その市場の需要を総取りするガリバー企業を生み出す孫氏の手法は、インターネットサービスの本質を見事に捉えていた。ネットサービスでは、ユーザーが増えれば増えるほどそのサービスの価値が高まる。いわゆる「ネットワーク効果」だ。当初はもうからなくても、さらには相当の期間にわたり赤字を垂れ流しても、規模さえ取れれば最後には勝てるというパワーゲームだ


◎アリババが「総取り」?

記事からは「アリババ」が「ユーザーを囲い込む勝者総取りの強いビジネスモデルを構築した」と取れる。しかし「大成功」した「インターネット通販」で中国市場に限っても5割強のシェアしかないようだ。であれば「総取り」には程遠い。「中国の小売市場」「世界のネット通販市場」といった括りでは「勝者総取り」からさらに遠くなる。

米ヤフー」や「今の日本のヤフー」が「勝者総取り」を実現させたかどうかは語るまでもない。

ネットワーク効果」が働くので「ネットサービス」では「需要を総取りするガリバー企業」が生まれやすいとは、よく聞く話ではある。しかし実際にそうなっている事例はあまり見当たらない(自分が知らないだけかもしれないが…)。

付け加えると「規模さえ取れれば最後には勝てるというパワーゲーム」という説明も引っかかった。

ここで言う「パワーゲーム」とは「体力勝負」に近い意味だろう。だが、本来は「大きな力を持つ国や権力者間の主導権争い」(大辞林)を指す。間違った使い方とは言わないが、「規模さえ取れれば最後には勝てるという体力任せの勝負」などとした方がしっくり来る。

勝者総取り」に関しては他にも気になる記述があった。

【ダイヤモンドの記事】

国民的人気を誇るヤフーは、LINEとの統合で1億人を超えるユーザー基盤を確保し、国内のネット市場の覇権を握る(①)。まさに孫氏の「勝者総取り」の思想を体現するパワーゲームだ。



◎「覇権」を握れないような…

まず「ヤフーは、LINEとの統合で1億人を超えるユーザー基盤を確保し、国内のネット市場の覇権を握る」との説明が苦しい。「①」のグラフを見ると「インターネットサービスの平均月間利用者数」で1位ヤフー、2位グーグル、3位ユーチューブ、4位LINEとなっている。

グラフを見る限り「ヤフーは、LINEとの統合で1億人を超えるユーザー基盤を確保」できるのは確かだ。しかし、グーグルとユーチューブもアルファベット傘下なので、まとめて見る必要がある。そうすると「ヤフーLINE」連合は「利用者数」で負けている。なのに「国内のネット市場の覇権を握る」と言えるのか。

利用者数」以外の要素も考慮すれば「覇権を握る」のかもしれないが、記事中にそうした説明はない。

そして「勝者総取り」の問題だ。「ヤフーLINE」連合は「『勝者総取り』の思想を体現するパワーゲーム」を仕掛けて、グーグル、フェイスブック、楽天などを国内市場から締め出す存在となり得るのか。その可能性は限りなくゼロに近い気がする。


※今回取り上げた特集「孫正義、大失敗の先
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28243


※特集全体の評価はC(平均的)。杉本りうこ副編集長の評価はB(優れている)を維持する。村井令二記者への評価はD(問題あり)からCに引き上げる。杉本副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「TSUTAYA特集」に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_27.html

「2.5次元」で趣味が高じた東洋経済「熱狂!アニメ経済圏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/25.html

文句の付けようがない東洋経済の特集「ネット広告の闇」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_19.html

0 件のコメント:

コメントを投稿