2019年12月20日金曜日

日経 小柳建彦編集委員の「インド、バブル収縮か」に感じた問題

20日の日本経済新聞朝刊国際2面に小柳建彦編集委員が書いた「相次ぐ住宅建設遅延や停止~インド、バブル収縮か 無法地帯へ規制、裏目に」という記事には色々と問題を感じた。まずは「相次ぐ住宅建設遅延や停止」に関する説明を見ていこう。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

インドが住宅市場の混乱に揺れている。2年前の法規制導入や昨秋来の信用収縮で多くのマンション建設が工事の遅延や停止に追い込まれ、融資していたノンバンクの不良債権が増える悪循環に陥っている。2008年リーマン危機以来の低成長に沈みつつあるインド経済で、根の深い構造問題の1つになっている。

「カネは払った。早く私のマンションを完成させてほしい」――。マンションの前払い価格200万ルピー(約300万円)を払ったというデリー在住の公務員は嘆く。

インドではいま、買い手から前受け金を集めたまま工事が止まって完成できなくなったマンションなど、多くの住宅不動産開発プロジェクトが滞っている。インド不動産コンサル大手アナロックによると9月末時点で、七大都市圏だけで販売価格総額4兆6400億ルピー(約7兆円)に当たる58万プロジェクトが深刻な工事の遅延または完全停止に陥っているという。

事態を重く見た政府は11月、工事再開資金を融資する2500億ルピーの国営ファンドを国有金融機関との共同出資で設立すると発表したが、問題全体の規模に比べると小粒さは否めない。

工事中止が続発する着火点になったのは17年5月に導入された不動産開発規制法だ。その前までインドの不動産開発事業は文字通り完全な無法地帯だった。デベロッパーはチラシ1枚で買い手から前受け金を集め、その資金で資材費や工事費を払って物件を建設するのが標準。つまり、自己資本なしで客から前借りした資金に丸々依存して事業を回していた。しかもその資金の他用途への流用が横行していた。



◎「自己資本なし」と言える?

自己資本なしで客から前借りした資金に丸々依存して事業を回していた」との説明が引っかかる。

まず「自己資本なし」と言えるだろうか。「デベロッパーはチラシ1枚で買い手から前受け金を集め、その資金で資材費や工事費を払って物件を建設するのが標準」だとしても、個別の「デベロッパー」が「自己資本なし」かどうかは判断が難しそうだ。

自己資本なし」と聞くと「自己資本率0%(あるいは債務超過)」だと理解したくなる。今回の記事の場合、「自己資金なし」と言いたかったのではないか。

前受け金」を「客から前借りした資金」とするのも気になる。「前受け金」は負債ではあるが、代金の一部とも言える。「その資金」で「物件を建設する」ことに問題があるような書き方をしているが、そうは感じない。インドでは違うのかもしれないが…。

完全な無法地帯だった」と聞くと「デベロッパー」が酷いことをしていたとの印象を持つ。しかし、具体的な内容はそれほどでもない。

その資金の他用途への流用が横行していた」ことも、日本的な感覚で言えば問題はない。入ってきた代金を銀行への利払いに充てたとしても、ちゃんと「物件を建設」すれば済む。責められる話ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

新法は、前受け金を各プロジェクト専用の監査付き銀行口座で管理することを義務付けた。これで既存の住宅プロジェクトの多数がいきなり違法状態に。流用した資金を戻して専用口座を作れないプロジェクトは登録が認められず、相次いで工事を停止した。

18年秋に大手ノンバンクの経営破綻で発生した信用収縮が追い打ちをかけた。ノンバンクが手元資金不足に陥り、ノンバンク融資に頼っていたデベロッパーが相次ぎ債務不履行に。工事が止まる案件がさらに増えた。ノンバンクの不良債権が増え、ノンバンク向けとノンバンク発の両側で信用収縮が続いている。

民間住宅建設投資は自動車など耐久消費財の消費、企業の設備投資などとならんでインド経済の民需の柱の1つ。しかも不動産はインドの家計資産の7割を占め、その価値が毀損すると家計の購買力と消費意欲に響く。

11月末にインド政府が発表した7~9月の国内総生産(GDP)の伸び率は前年同期比4.5%。13年1~3月の4.3%以来の低さだ。中央銀行は12月5日、19年度の成長率予想を08年度以来の低さとなる5.0%と10月の前回予想から1.1ポイントも下方修正した。

アショカ・モディ・プリンストン大客員教授は「借金による不動産開発と建設業で経済成長をかさ上げしてきたバブルがとうとうしぼみ始めた」と厳しい見方を示す。



◎2019年が「バブル」のピーク?

まず、何を以って「バブル」と言っているのか分かりにくい。「借金による不動産開発と建設業で経済成長をかさ上げしてきたバブル」というコメントから判断すると、インド経済全体が「バブル」との趣旨だろう。

ただ、インドの経済成長率は近年のピークでも8%台。それが「バブル」なのかとは思う。他の指標で見れば違って見えるのかもしれないが、「バブル」状態にあったと納得できる材料を小柳編集委員は提示していない。

さらに言えば「バブルがとうとうしぼみ始めた」とのコメントも理解に苦しむ。「工事中止が続発する着火点になったのは17年5月に導入された不動産開発規制法」だ。そして「18年秋に大手ノンバンクの経営破綻で発生した信用収縮が追い打ちをかけた」。そこからさらに1年が経って「バブルがとうとうしぼみ始めた」のか。

しぼみ始め」てからしばらく経過していると見る方が自然な気もする。


※今回取り上げた記事「相次ぐ住宅建設遅延や停止~インド、バブル収縮か 無法地帯へ規制、裏目に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191220&ng=DGKKZO53583880Z11C19A2FF2000


※記事の評価はD(問題あり)。小柳建彦編集委員への評価はC(平均的)を据え置くが弱含みとする。小柳編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インドの日本人増やすべき」に根拠乏しい日経 小柳建彦編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_32.html

北朝鮮のネット規制は中国より緩い? 日経 小柳建彦編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html

ライドシェア「米2強上場が試金石に」が苦しい日経 小柳建彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/2.html

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