2019年12月23日月曜日

「無政府主義者」が国家を作る? 日経ビジネス「2020年大転換」の矛盾

日経ビジネス12月23・30日合併号の特集のタイトルは「2020年大転換~『五輪後』に起きる14の異変」。この「大転換」が良くない。世の中、そんなに「大転換」は起きないし、それが「五輪後』に起きる」というストーリーを組み立てるのは至難だ。必然的に無理のある記事が生まれてくる。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
        ※写真と本文は無関係です

今回は「異変11」の「加速する国家の分裂~世界中で『ミニ独立国』が誕生」という記事を取り上げたい。まず引っかかったのが「20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ」という予測だ。

当該部分を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

分断の究極の形は、新国家の建設だろう。考えや立場が異なる人々との議論を放棄し、政治信条を同じくする人たちだけで理想郷をつくる。20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ

既に欧州やアフリカなど世界各地で新国家が次々と出現している。「ミクロ国家」と呼ばれており、他国の承認を受けることはまずない。それでも無政府主義者らの動きは止まらない。ミクロのレベルまでバラバラになってゆく世界の最終形がそこにある。



◎「無政府主義者」が「国家」を作る?

記事からは「既に欧州やアフリカなど世界各地」で「次々と出現している」という「ミクロ国家」は「無政府主義者」が樹立したものだと読み取れる。

しかし「無政府主義者」が「国家」を生み出すのは奇妙な話だ。「国家」にしてしまうと、信条に反して「政府」ができてしまう。「どういうことなのか」と思って読み進めると話が変わってくる。


【日経ビジネスの記事】

「新国家の出現はこれからも続く」と断言するのは、リベルランド自由共和国の大統領を名乗るビト・イェドリチカ氏だ。15年に東欧で建国を宣言し、リベルランド人を自称するまでは、チェコ人であった。地元政党の地方代表を務めるなどして、リバタリアン(自由至上主義者)の立場から自由主義経済の重要性をチェコ国民に説いてきた。

ところが「ある時、チェコ国民を説得するより、自分の理想の国を建設した方が早いことに気づいた」という。グーグルマップで領土を探していたところ、セルビアとクロアチアの国境を流れるドナウ川の中州に、誰も領有権を主張していない7km2の空白地帯を見つけた。ここを自国領とし、憲法を制定。自由至上主義に共感する世界の人々からネットで市民権の申請を受け付けており、既に約1000人に付与した。内務相や外務相、財務相も任命し、独自の仮想通貨の運用も始めた。一通り国家体制を整え、将来は自由経済圏として中州にIT産業を興す考えだ。



◎「無政府主義者」はどこへ?

リベルランド自由共和国」を「建国」したのが「無政府主義者」ならば筋としては合っている。しかし「建国を宣言」した「ビト・イェドリチカ氏」は「リバタリアン(自由至上主義者)」だという。「内務相や外務相、財務相も任命し、独自の仮想通貨の運用も始めた」のならば「無政府主義者」とは言い難い。

20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ」と言っていたのは、どうなったのか。

記事を読み進めると、さらに混乱は深まる。

【日経ビジネス】

とはいえ、こうした動きを既存国家が放置するはずはない。国内や隣接地に主権が及ばない独立国が林立すれば、国家は衰退しかねない。当然、クロアチア政府も、新国家の既成事実化を警戒して、警察の巡視艇で中州への上陸を阻止している。このため、リベルランドは無人の状態が続く。

それでもイェドリチカ氏は楽観的だ。「見方を変えれば、クロアチア警察がリベルランドを守ってくれている。市民権を持たない第三者が密入国しないようパトロールしている」という。



◎なぜ「上陸を阻止」?

セルビアとクロアチアの国境を流れるドナウ川の中州」に関しては「誰も領有権を主張していない」はずだ。となると「クロアチア」の「国内」ではない。なのに「警察の巡視艇で中州への上陸を阻止している」という。どういうことが理解に苦しむ。

セルビア」の動向には記事では触れていない。「クロアチア」が「上陸を阻止」してくるならば「セルビア」側から「上陸」すればいいような気もする。この辺りの事情がよく分からないのは困る。

記事の続きを見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

リベルランドに刺激され、ノルウェーでも自由至上主義に基づく都市建設が始まるなど、イェドリチカ氏が始めた試みは広がりを見せている。

陸上のみならず、公海上に新国家を樹立する動きも活発だ。米決済サービス、ペイパルの共同創業者で著名投資家のピーター・ティール氏らが推進する「シーステディング・プロジェクト」が代表格で、公海上に人工の浮島からなる独立国家群を建設する計画だ。海面上昇に直面する仏領ポリネシアの要請で浮島の試験的な設置が始まるなど、技術的にも絵空事ではなくなってきた。

 新国家の建設を推し進めているのは、こうした無政府主義者たちに限ったことではない。英国がEUから離脱したあと、同国内のウェールズ、スコットランド、北アイルランドで独立運動が勢いづき、英国が解体に向かう可能性が指摘される。


◎「無政府主義者」がなぜか復活…

ノルウェーでも自由至上主義に基づく都市建設が始まるなど、イェドリチカ氏が始めた試みは広がりを見せている」と書いているので、「無政府主義者」を「リバタリアン」にすり替えたのだと思っていたら、「新国家の建設を推し進めているのは、こうした無政府主義者たちに限ったことではない」と「無政府主義者」が復活している。

ということは「米決済サービス、ペイパルの共同創業者で著名投資家のピーター・ティール氏」も「無政府主義者」と解釈するしかないが、どうも信用できない。

やはり「大転換」というテーマが筆者に無理を強いている気がしてならない。


※今回取り上げた記事「加速する国家の分裂~世界中で『ミニ独立国』が誕生
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00313/


※記事の評価はD(問題あり)

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