2019年12月5日木曜日

予想通りに苦しい日経1面連載「データの世紀~理解者はキカイ」

日本経済新聞の朝刊1面連載「データの世紀~理解者はキカイ」が予想通りに苦しい展開となっている。 5日の「(3)買いたたかれるベテラン~情報の山、鉱脈かノイズか」という記事もツッコミどころが多い。記事を見ながら具体的に指摘していく。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

2019年初め。ネット上では、米大リーグのダラス・カイケル投手(31)へ激励のつぶやきが相次いだ。「ヤンキースはすぐに契約すべきだ」「15年の最優秀投手なのに

アストロズの主軸として長年活躍した。18年末に自由契約になったが、交渉はことごとく決裂する。「もう、そんなことは関係なくなったみたいだよ」。ファンの声にカイケル投手は諦めるように応じた。

あらゆる価値をデータで測る「新しき理解者」は恣意性も誤りもないはずだ。そんなデータ至上主義の高まりが、経済や社会の仕組みを大きく変え始めた。

「ベテラン1人より、若手数人に投資する方が合理的という経営が広がっている」。著名代理人の団野村氏は大リーグで進む「データ野球」を解説する。重視するのは「勝利貢献度」「成長曲線」「球の回転数」といった新たな尺度だ。


◎「データ」との関連が…

米大リーグのダラス・カイケル投手」の話が「データ」とどう関連するのか記事からは判断できない。引く手あまたであるべき選手が「あらゆる価値をデータで測る『新しき理解者』」によって排除された事例のつもりなのだろう。

しかし「カイケル投手」の成績に関しては「アストロズの主軸として長年活躍した」「15年の最優秀投手」といった情報しかない。「15年」に大活躍しても、その後に成績が振るわなければ契約に至らないのは当然だ。しかし肝心の「18年」シーズンの成績に触れていない。これは苦しい。

付け加えると、なぜ「ヤンキース」なのか説明せずに「ヤンキースはすぐに契約すべきだ」という声を入れているのも感心しない。また、野球で「主軸」と言う場合、打者を指すのが一般的だ。「投手」に使うのは間違いとは言わないが、お薦めしない。

さらに言えば「重視するのは『勝利貢献度』『成長曲線』『球の回転数』といった新たな尺度だ」との説明も納得できない。「球の回転数」は「新たな尺度」かもしれないが、「勝利貢献度」と「成長曲線」は以前から「重視」されていた気がする。

次の事例には「予測」の「精度」に関する問題がある。「凄いことが可能になった」と取材班は訴えたいのだろうが同意できない。

【日経の記事】

データ活用は日常の隅々にまで広がる。それは人が大事にしてきた文化や価値観をも揺さぶっている。

今夏、北欧ヘルシンキ。「この人は5年以内に心臓病を患って亡くなる」。医療技術企業、ナイチンゲールヘルスのティーム・スナさんは身震いした。

血液成分から被験者の5年後、10年後の死亡確率を8割の精度で予測できる。4万人の血液と病歴を解析した。スナさんは「多くの人を救いたい」と検査アプリへ応用を急ぐが、社内外で慎重論は絶えない。

自分が数年以内に死ぬと分かれば、人は絶望するだけではないか」。「死期予測」機能を搭載するか、一朝一夕に結論は出ない。

技術の進化は個人の潜在能力や寿命すら把握できてしまうところまで来た。だがその根拠となるデータは常に正しいとは限らない。


◎「8割の精度」は凄い?

まず「5年後、10年後の死亡確率を8割の精度で予測できる」との説明がよく分からない。例えば「5年後の死亡確率は50%」と「予測」したとしよう。そして5年以内に死亡した場合、「予測」は当たったのか。それとも外れたのか。

この人は5年以内に心臓病を患って亡くなる」という記述から判断して、「予測」するのは「死亡確率」ではなく「死亡しているかどうか」だと仮定しよう。これを「8割の精度で予測できる」という話ならば分かる。

ただ、この場合「8割の精度」が凄いかどうかは微妙だ。「被験者」の選び方さえ任せてくれたら、自分でも9割以上の「精度」を実現できるだろう。

例えば、大学生100人を集めて全員を「5年後も10年後も生きている」と「予測」する。あるいは、80代の末期がん患者100人全員を「10年以内に死亡」と「予測」する。これで9割以上の「精度」を達成したとしたら、取材班のメンバーは「ほとんどデータに頼らず『寿命すら把握できてしまう』なんて凄い」と驚いてくれるだろうか。

この人は5年以内に心臓病を患って亡くなる」という記述から判断すると、「ナイチンゲールヘルス」では死因も含めて「8割の精度で予測できる」とも取れるが、これも記事では明示していない。

総合すると、何となく「大した話ではないのだろう」とは感じる。しかし記事では「自分が数年以内に死ぬと分かれば、人は絶望するだけではないか」「技術の進化は個人の潜在能力や寿命すら把握できてしまうところまで来た」などと煽ってくる。

その強引さは「技術の進化」を取り上げる時の日経1面連載の宿命なのかもしれないが…。


※今回取り上げた記事「データの世紀~理解者はキカイ(3)買いたたかれるベテラン 情報の山、鉱脈かノイズか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191205&ng=DGKKZO52735280Y9A121C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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