2019年12月22日日曜日

日経社説「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ」は威勢がいいが…

22日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ」という社説は威勢がいい。しかし、この件で批判を展開すると、厄介な問題が生じそうな気がする。まずは社説の最初の方を見ていこう。
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        ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

日本郵政グループをめぐるガバナンス(企業統治)の機能不全が極まったというほかない。

大規模な保険販売不祥事を引き起こし、処分待ちだった日本郵政の上級副社長(元総務事務次官)に、現職の同次官が行政処分の内容を事前に漏らしていたことが発覚した。監督官庁と日本郵政の「なれ合い」をこれほどわかりやすく示す事例はない。次官が直ちに辞職に追い込まれたのは当然だ



◎情報漏洩は悪いこと?

次官が直ちに辞職に追い込まれたのは当然だ」と書いているので、「行政処分の内容を事前に漏らしていたこと」は許されないと日経は見ているのだろう。

しかし、日経はこれまで官庁からの「漏洩」を狙って取材を進めてきた歴史がある。官庁の幹部と「なれ合い」の関係を築き「行政処分の内容を事前に漏らして」もらえるようになった記者は、日経社内の価値観で見れば「立派に仕事をしている」となるはずだ。

漏洩」は許されないとの立場を取ると、「行政処分の内容を事前に」探ろうとする取材はできなくなる。「監督官庁と日本郵政の『なれ合い』」はダメだが「官庁とメディアの『なれ合い』」は問題ないとするのも難しい。

個人的には、「漏洩」はダメとの姿勢を打ち出し、「行政処分」などに関して発表前の独自報道は避けるのが良いとは思う。しかし、日経が長く染み付いた価値観を捨て切れるだろうか。

結局、自分たちは「漏洩」を官庁に求めるのに、メディア以外への「漏洩」が発覚すると社説などで批判するというダブルスタンダードに落ち着くのではないか。

社説の続きを見ていこう。


【日経の記事】

民営化された郵政グループ各社の社長は民間出身者である。しかし、実際にはグループ最大の実力者が官僚出身の同上級副社長であることは衆目が一致する。権力の源泉は、古巣の総務省との強力なパイプだ。その先輩・後輩の結びつきが癒着を招いた。体制を抜本的に刷新し、ガバナンスの再構築を急がねばならない



◎ちゃんと仕事をしているだけでは?

日本郵政の上級副社長」に関しては、そもそも批判されるべきなのかとの疑問が残る。

先輩・後輩の結びつきが癒着を招いた。体制を抜本的に刷新し、ガバナンスの再構築を急がねばならない」というが、「漏洩」に限れば「ガバナンス」の問題は特に見当たらない。

日本郵政の上級副社長」は「日本郵政」の株主などに報いる責務がある。そのために情報収集に当たるのは悪くない。「先輩・後輩の結びつき」を利用して「行政処分」に関する情報を得れば、「日本郵政」の経営に有利に働く可能性が十分にある。少なくとも、知っておいて損はない。自分が「日本郵政」の株主だったら、この問題で「上級副社長」を責める気にはなれない。

漏洩」を求める行為自体が許されないとの主張は成り立つが、それは「ガバナンス」の問題なのかとは思う。それに、「漏洩」を求める行為自体が許されないと言い出すと「では日経は取材で官庁に『漏洩』を求めてこなかったのか」という話に戻ってしまう。

この問題を日経が論じるならば「自分たちのことを棚に上げていないか」と自問する必要がある。


※今回取り上げた社説「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191222&ng=DGKKZO53667600R21C19A2EA1000


※社説の評価はC(平均的)

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