2019年12月10日火曜日

「負の循環」が引っかかる日経1面連載「安いニッポン」

日本経済新聞朝刊1面で始まった「安いニッポン」という連載の企画自体は悪くない。取材班の問題意識も記事から読み取れる。ただ「安い=好ましくない」との前提が感じられるのが引っかかった。10日の「(上)価格が映す日本の停滞~ディズニーやダイソーが世界最安値」という記事の一部を見ていこう。
巨瀬川(福岡県久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

モノやサービスなど日本の価格の安さが鮮明になってきた。世界6都市で展開するディズニーランドの入場券は日本が最安値で米カリフォルニア州の約半額。100円均一ショップ「ダイソー」のバンコクでの店頭価格は円換算で200円を超す。割安感は訪日客を増やしたが、根底には世界と比べて伸び悩む賃金が物価の低迷を招く負の循環がある。安いニッポンは少しずつ貧しくなっている日本の現実も映す



◎「負の循環」と言える?

伸び悩む賃金が物価の低迷を招く」としても、それが「負の循環」とは思えない。状況としては考えにくいが、「伸び悩む賃金が物価の高騰を招く」のならば、まさに「負の循環」だ。

世界6都市で展開するディズニーランドの入場券は日本が最安値で米カリフォルニア州の約半額」だとしよう。「ディズニーランド」が大好きな人にとって「日本」は悪くないはずだ。

取材班の中には知らない人もいるだろうが、かつては日本の物価の高さが問題となっていた。「内外価格差を解消するために余計な規制をなくそう」といった話もよく聞いた。それが逆転してきた訳だ。個人的には悪くない展開だと思える。

記事で気になった点は他にもある。

【日経の記事】

こうした価格差は日本の為替レートが低く評価されすぎていることが理由の一つにあるとされてきた。

例えばハンバーガー価格の違いから為替水準を探る英エコノミスト誌の「ビッグマック指数」。7月時点の計算によると、日本で390円のビッグマックは米国では5.74ドル。同じモノの価格は世界中どこでも同じと仮定すると、ここからはじき出す為替レートは1ドル=67.94円となる。

ただ、実際のレートは1ドル=110円前後で30%強円安だ。その分円を持つ人にとってはドルで売られるビッグマックが高く感じられる。

ディズニーランドやダイソーの価格も同様に指数化して実際のレートと比べると対米ドルやタイバーツで46~50%強の円安となり割高感が増す。

だが第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「今の価格差は為替では説明がつかない状況にある」と話す。足元では企業の賃上げが鈍り、働く人の消費意欲が高まらない。その結果、物価低迷が続き景気も盛り上がらない「負の循環」(同)が日本の購買力(総合2面きょうのことば)を落ち込ませているからだ。

経済協力開発機構(OECD)などによると、1997年の実質賃金を100とすると、2018年の日本は90.1と減少が続く。海外は米国が116、英国は127.2など増加傾向にある。


◎「為替相場で説明がつく」のでは?

今の価格差は為替では説明がつかない状況にある」という「第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミスト」のコメントがよく分からない。購買力平価の考え方に基づいて為替相場が調整されれば「安いニッポン」ではなくなる。これは確実だ。

個別の「モノやサービス」に関しては「説明がつかない状況」もあり得る。例えば「ディズニーランドの入場券」だけが他国の10分の1以下と突出して割安ならば「為替では説明がつかない」かもしれない。だが「モノやサービス」全般が同じように「安いニッポン」になっている場合は「為替」で「説明」できるはずだ。


※今回取り上げた記事「安いニッポン(上)価格が映す日本の停滞~ディズニーやダイソーが世界最安値
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191210&ng=DGKKZO53150550Q9A211C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)

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