2015年11月24日火曜日

「経済教室」になってる? 日経「パリ同時テロが示すもの」

24日の日本経済新聞朝刊 経済教室面に載った「経済教室~パリ同時テロが示すもの(上) 米仏、アラブ諸国と連携を  『文明の衝突』避けよ」(筆者は福富満久・一橋大学教授)は「経済教室」になっているのだろうか。テロ関連の記事として大きな問題があるわけではない。しかし、「経済」をテーマにしていないのは間違いない。 

記事に付いている「ポイント」では以下のように要旨を紹介している。

【日経の記事】
英彦山参道(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です

ポイント

○欧州の寛容の精神が逆手にとられた格好
○ISは存在示すため国際テロ実行の恐れ
○シェンゲン協定見直せばISの思うツボ

--------------------

少なくとも、ポイントの中に「経済」の要素はない。記事中には「欧州のアラブ系移民の増加は、各国政府が植民地統治時代から言語的障壁のない彼らを、経済成長期に自動車など製造業を支える労働力として招いたことが始まりだった」などと「経済」に触れている部分もわずかにある。しかし、「経済」を論じているとは言い難い。「経済教室」なのだから、「経済」からテーマが逸脱するのはやはり問題がある。

記事に関して、ついでに気になった点をいくつか記しておこう。

◎トルコ系やパキスタンン系は「アラブ系」?

【日経の記事】

フランスには、北アフリカから来たアラブ系移民が2世・3世を含め350万人以上、イスラム教徒は全体で480万人以上が生活しているとされる。移民政策は80年代以降、フランス政治の重要課題の一つとなってきた。トルコ系移民をはじめイスラム教徒500万人以上を抱えるドイツや、パキスタン系移民を中心に270万人が住む英国でも国民融和が大きな課題だ。

欧州のアラブ系移民の増加は、各国政府が植民地統治時代から言語的障壁のない彼らを、経済成長期に自動車など製造業を支える労働力として招いたことが始まりだった。だが石油危機以降、経済が低迷すると、アラブ系移民は離職を余儀なくされた。2世世代は貧しさゆえに十分な教育を受けられず、就職差別に苦しみ、アイデンティティーを模索し続けることになった。

特にフランスは共和国理念に同化を求める社会であり、多文化主義の英国や、歴史に対する反省から異なる政治信条に敬意を払う教育がなされているドイツとは異なる。その意味で二重基準に翻弄された若者の苦悩は大きかった。

----------------------------------------

記事からは「トルコ系移民やパキスタン系移民もアラブ系移民に含まれる」との印象を受ける。そう断定している記述があるわけではない。しかし、「トルコ系移民をはじめイスラム教徒500万人以上を抱えるドイツや、パキスタン系移民を中心に270万人が住む英国でも国民融和が大きな課題だ」と書いた後に、「欧州のアラブ系移民の増加は~」と続くと、どうしても「トルコ系やパキスタン系」を「アラブ系」の部分集合として捉えたくなる。しかし、「アラブ」と言う場合、トルコやパキスタンは一般的には入らないはずだ。


◎「西欧を守るため」?

【日経の記事】

移民排斥の動きは北欧も無関係ではない。11年7月、ノルウェーの首都オスロで政府庁舎爆破事件、近郊のウトヤ島で銃乱射事件が起きた。この時の犯行の動機は、イスラムによる乗っ取りから西欧を守るためというものだった。

----------------------------------------

犯行の動機」が「イスラムによる乗っ取りから西欧を守るため」というのが引っかかった。ノルウェーは「西欧」ではなく、一般的には「北欧」だからだ。裁判で「西欧を守るため」と犯人が証言した情報もあるようなので、記事の説明は誤りではないのだろう。犯人が「ノルウェーはどうでもいい。西欧を守りたかった」と考えていた可能性もゼロではない。ただ、読んでいて「えっ! 西欧を守る?」とは思ってしまう。

2012年8月24日のロイターの記事では、この事件の動機について「多文化主義やイスラム系移民などから国を救うためだった」と書いている。これなら何の違和感もないのだが…。

 
◎最初の問題提起はどうなった?

【日経の記事】

13日にパリで起きた同時テロは世界中に衝撃を与えた。その後も新たな犯行計画が浮上するなど、フランスは極度の緊張状態にある。

中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」から5年がたち、シリア内戦が激化の一途をたどるにつれ、欧州に難民が押し寄せている。難民にテロリストが紛れていた可能性が指摘されるなか、国際社会はどう対応すればよいのか。欧米諸国による過激派組織「イスラム国」(IS)勢力地域への空爆は効果があるのか。テロを企てる勢力が拡散することにならないのか

----------------------------------------

記事の最初の方で筆者の福富氏は「国際社会はどう対応すればよいのか。欧米諸国による過激派組織『イスラム国』(IS)勢力地域への空爆は効果があるのか。テロを企てる勢力が拡散することにならないのか」と3つの問題提起をしている。

国際社会はどう対応すればよいのか」については、「米国やフランスはアラブ諸国と緊密に連携しながら対応していくべきだ」などといった答えを示している。しかし、残りの2つには触れないままだった。

「問題提起をしたわけではない。自分が疑問に思うことを並べてみただけ」との弁明も不可能ではないが、かなり苦しい。上記のような書き方で3つ並べられたら、それらに関する分析をしてくれると読者が期待するのは当然だ。「問題提起したまま論じずに終わっている」と言われても仕方ないだろう。


※経済を論じない「経済教室」になっている点を重く見て、記事の評価はD(問題あり)とする。経済を論じていないことに筆者の責任はないので、今回は筆者への評価は見合わせる。

0 件のコメント:

コメントを投稿