2015年11月18日水曜日

日経 小栗太氏 E評価の理由

17日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「人口病に克つ~超高齢化を生きる(5) 海外人材生かし『若返り』  共生できる環境整備を」に関して、担当デスクと推定できる小栗太氏をE(大いに問題あり)と評価した。連載自体の出来はそれほど悪くないが、過去の記事を含めて評価するとこうなってしまう。小栗氏は以前、編集委員の肩書で署名入り記事を書いていて、何かと問題が多かった。ここでは2013年6月12日の朝刊マネー&インベストメント面の記事「円相場惑わす新要因」について、小栗氏へ送った当時のメールを基に問題点を見ていきたい。

この記事で最も問題が大きいと思えたのは以下のくだりだ。

CCCが指定管理者となっている武雄市図書館(佐賀県武雄市)
             ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

HFT自体は短時間で売買を交互に繰り返すため、相場を一方向に動かす力はない。ただコンピューターが瞬時に買いか売りかを判断するため、一度に大量の注文が集中して相場が跳ねやすくなる。

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HFTには相場を一方向に動かす力はない」と書く一方で「(HFTでは)一度に大量の注文が集中して相場が跳ねやすくなる」という説明もある。しかも記事中に付けた表では「一瞬で注文が殺到し、一方向に大きく振れる」と記している。基本的には「相場を一方向に動かす力はある」のだろう。メールで問い合わせて「上記の件で業務上の対応は必要ありません。ただ、記事中の“矛盾”などについて、答えを教えていただければ助かります」とお願いしたものの返事はなかった。

記事に問題があるのは間違いない。編集委員という肩書を付けて署名入りの記事を書きながら、こうしたレベルの低い記事を世に送り出してしまったのがまずマイナスだ。しかも自分の記事に関して問い合わせを受けたのに無視してしまった。これでさらにマイナスが大きくなる。小栗氏は他の記事でも問題が多かったので、総合的に判断すると評価はEに落ち着く。

上記の件で言えば「HFTには相場を一方向だけに動かすわけではない」と言いたかったのだろう。下げを促す主体にも上げを促す主体にもなり得るのは確かだ。そこをうまく説明できていない。

この記事の他の問題点については、小栗氏に送ったメール(2013年6月13日)の内容を紹介したい。


【小栗氏に送ったメールの内容】

◎異次元緩和はアベノミクスじゃない?

・アベノミクスや日銀の異次元緩和で大幅な円安が進んだことを受け、新たに外貨商品での運用を始める人が増えてきた。


「アベノミクスや日銀の異次元緩和」と表記すると、異次元緩和はアベノミクスの一部ではないとの印象を与えます。しかし、実際にはアベノミクスの「3本の矢」のうちの1本です。加えて言うと、「金融緩和を除くアベノミクス」が円安要因になっているかどうかは微妙です。成長戦略第3弾の発表を受けて株価が急落し、為替相場も円高に振れたのは記憶に新しいところです。


◎欧州・アジア勢はCMEを使わない?

・野村の池田氏は「値動きの大きいユーロや新興国通貨を取引していたヘッジファンドが異次元緩和を見て新規参入してきた」と話す。こうした欧州やアジアのファンド勢の売買はCMEに反映されない。


上記のくだりは引っかかりを感じました。「CMEを使うのは米国のファンドだけで、欧州・アジア勢はCMEを利用しない」と言っているのでしょうか?ちょっと考えにくい気がします。「今回参入してきた欧州・アジア勢に関しては、CMEを使わないファンドだった。欧州・アジア勢でもCMEを使うファンドはたくさんある」という話かもしれませんが、記事からは何とも言えません。それに「なぜCMEを使わないのか」も説明してほしいところです。


◎正確に判断できているような…

・HFTは振れ幅を大きくするだけでなく、別の問題点も抱える。複雑な材料を正確に判断できないことだ。その影響と疑われる事例もある。米量的緩和の縮小に言及するかが注目された5月22日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の米議会証言。冒頭、性急な緩和縮小に否定的な発言が出た途端、瞬時に円買い・ドル売りが殺到した。だが証言では縮小の可能性についても述べており、少し間を置いて今度は一転して円売り・ドル買いが強まった。


「瞬時に円買い・ドル売り→一転して円売り・ドル買い」がHFTの“判断”だとすれば、「複雑な材料を正確に判断できない」と考える根拠にはならないと思えます。バーナンキ証言が「複雑な材料」かどうかは置いておきます。冒頭に緩和縮小に否定的な発言が出た(緩和継続)とすると「ドル売り」が普通ですし、緩和縮小の可能性に触れたのならば「ドル買い」でしょう。市場関係者の一般的な判断と食い違ってはいないはずです。これを以って「HFTだと複雑な材料を正確に判断できないのでは…」などと論じられますか?それとも「冒頭の発言を聞いただけで、その後に緩和縮小の可能性にも言及すると予測できなければダメだ」とでも筆者は考えているのでしょうか?



◎「中長期の運用が最も安全」?

・最近は個人のFX取引にも「システムトレーディング」と呼ぶ為替のプロが作成したプログラムを利用できる仕組みが広がる。IT(情報技術)の急速な進展で取引が高度になり、相場の決定要因は複雑になるばかりだ。入門書通りに動かず、振れ幅も大きくなった相場に対し、外貨取引を新たに始めた初心者はどう向き合えばいいのか。最も安全なのは短期的な利益を追い求めず、中長期的な運用を目指すことだ。短期的に不規則な値動きが起きたとしても、中長期的には入門書にあるように、金利差や需給差に沿った値動きに落ち着いていく可能性が高いからだ。

「最も安全なのは短期的な利益を追い求めず、中長期的な運用を目指すことだ」という説明は正しいのでしょうか?記事ではFXなどの為替取引を想定していると考えられますが、FXは基本的にゼロサムゲームです。株式で長期投資が推奨されるのは、株式はプラスの期待リターンが見込めるプラスサムの投資対象だからです(期待リターンが本当にプラスなのかはやや怪しい面もあります)。期待リターンが十分にプラスであれば、短期では多少の価格変動があっても、中長期で見ると投資が報われる可能性は高くなります。一方、ゼロサムゲームでは勝負する期間をいくら長くしても結局はゼロサムです。相場の見通しを誤って証拠金を全て失うような場面に出くわすリスクも「1年」より「10年」の方が高いのは、感覚的に理解できるはずです。記事を読んで「FXも長い期間をかければ安全性は高まるんだ」と信じた読者がいるかもしれません。そう信じさせて大丈夫ですか?

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※小栗太氏が担当デスクを務めたとみられる「人口病に克つ~超高齢化を生きる(5)」については「処方箋を示してる? 日経1面『人口病に克つ』への疑問」を参照してほしい。

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