2015年11月26日木曜日

焦点絞り切れず 日経「会社研究 アマダホールディングス」

致命的な問題はないが、焦点を絞り切れずに話が拡散してしまっている--。25日の日本経済新聞 朝刊投資情報面に載った「会社研究~大還元の先へ(1) アマダホールディングス  M&Aで稼ぐ力底上げへ」には、そんな感想を抱いた。約120行しかない囲み記事の中にあれもこれもと詰め込みすぎると、結局は説得力の欠ける中身になってしまう。筆者の植出勇輝記者には、そのことを覚えておいてほしい。
CCCが指定管理者となっている武雄市図書館(佐賀県武雄市)
                  ※写真と本文は無関係です

◎「M&A」をもっと論じよう

【日経の記事】

その表れが「3・2・1」目標だ。次の10年を見据えた中期計画で、「3」は売上高3割増、「2」は経常利益率2割、そして「1」は自己資本利益率(ROE)1割を示す。成長と資本効率の両立を目標に掲げた。

最も高いハードルが「2」の経常利益率になる。今期予想は13%だ。好採算のレーザー加工機の出荷を増やすが、それだけでは達成は難しい。そこで狙うのがM&A(合併・買収)だ。予算はざっと400億円。そのために社内に眠っている資産を掘り起こす。

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上記の説明は引っかかった。アマダの経常利益率を13%から20%に高めるためにM&Aを活用するならば、買収した会社の経常利益率は20%超にしないと目標達成が難しくなる。しかも、利益額がそこそこ大きくないと、利益率を高める効果は期待しにくい。ボロ会社を買収後に高収益企業へ生まれ変わらせる道もあるが、現実的には利益率も高くて利益額も大きい企業を買収する必要がある(小さな高収益企業をたくさん買う選択ももちろんある)。それが400億円でできるのかを論じてほしかった。

しかし「そのために社内に眠っている資産を掘り起こす」という、よく分からない抽象的な説明が出てくるだけで、次の段落ではまた話が変わってしまう。ここはもっと踏み込んで分析すべきだ。見出しも「M&Aで稼ぐ力底上げへ」なのだから…。


◎どうやって代金回収を早める?

【日経の記事】

アマダは未回収の代金である売掛金を1400億円持つ。資金回収にかかる期間を示す「売掛債権回転日数」は前期で188日だ。代金回収に半年以上かかっている計算になる。安川電機(110日)やDMG森精機(68日)などと比べても突出して長い。

資金回収を早めれば運転資金を圧縮できる。取引先への低利融資制度「アマダローン」の運用を厳格化するなど効率改善に動き始めた。保有する有価証券も数百億円規模で売却を検討する。

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上記のくだりは謎が多い。まず、他社よりも代金回収にかかる期間が「突出して長い」のかなぜか分からない。「資金回収を早めれば運転資金を圧縮できる」のはそうだろうが、アマダローンの運用を厳格化したり、有価証券を売却したりしても、「売掛債権回転日数」は短くならない気がする。「アマダローン厳格化」や「有価証券売却」は借入金の圧縮にはつながるだろうが、論じているのは「売掛債権回転日数をどうやって短くするか」のはずだ。

ここは「もっと詳しく論じてほしい」とは思わない。「M&Aで稼ぐ力底上げへ」というストーリーならば、M&A関連に紙幅を割いた方が焦点の絞れた記事になるだろう。

ついでに、もう1つ注文を付けておきたい。


◎「経営目標に株主還元を加えると企業は変わる」?

【日経の記事】

経営目標に株主還元を加えると企業は変わる。成長戦略も資産のスリム化も、背中を押したのは市場からの厳しい視線だ。「投資家の期待に応えると経営が安定する」と磯部社長は話す。今年春には持ち株会社に移行し会社の形も変わった

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経営目標に株主還元を加えることでアマダは変わったかもしれないが、「経営目標に株主還元を加えると企業は変わる」と一般化できるだろうか。例えば「配当性向30%を目指します」と目標を定めても、ほとんどの企業に大きな変化はないと思える。

アマダの社長も「投資家の期待に応えると経営が安定する」と言ってはいる。しかし、「投資家の期待」とは株主還元だけではないはずだ。「今年春には持ち株会社に移行し会社の形も変わった」のも株主還元を経営目標に加えた効果だと印象付けるような書き方だが、さすがに大げさすぎる。


※記事の評価はC(平均的)。植出勇輝記者の評価も暫定でCとする。ちょっと記事の書き方を覚えれば、優れた書き手になれそうな予感はある。その「ちょっと」が日経では難しいのだが…。

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