2015年9月4日金曜日

日経 宮東治彦デスクへの助言 1面「働きかたNext」(1)

ものすごく出来が悪いわけではないが、4日の日経朝刊1面に載った「働きかたNext~若者が問う(5) 地方は都落ちじゃない 『等身大』が活力生む」には満足できなかった。日経の1面企画(特に10人以上の取材班で作るもの)にありがちな「事例を詰め込みすぎて説明不足になる」という傾向から脱却できていない。担当デスクは宮東治彦氏のようなので、同氏への助言という形式で記事の問題点を指摘してみる。

ルクセンブルクのギヨーム2世広場 ※写真と本文は無関係です

◆宮東治彦氏への助言

連載の5回目は主に4つ(岡山、淡路島、佐賀、宮崎)の事例から成り立っています。「4つは多すぎる」と単純には言い切れませんが、今回の記事のように説明不足が生じるならば、事例を減らした方がよいでしょう。取材班を編成して作る1面企画では、どうしても多くの事例を盛り込んで「こんなに取材したんだ」と社内にアピールしたくなります。しかし、それが日経の1面企画の陥りやすい罠なのです。

まずは、今回の記事のどこに説明不足があるのかを見ましょう。最初は岡山の事例です。


【日経の記事】

岡山県のある過疎地が若者の注目を集めている。住民の大半が70歳以上の美作市梶並地区。20~30代が頻繁に訪れ、3年で約30人が移住した。

赤星賢太郎(27)もその一人。東京のIT企業でウェブデザインを手掛ける技術者だった。仕事は面白かったが、残業続きの仕事に追われて「新鮮な発想が出なくなった。自分のペースで働きたい」と移住を決めた。

地方で生活できるか。そんな不安を、現地で若者の支援を行う藤井裕也(28)が和らげる。「収入が少ないなら仕事を増やせばいい」。商品のパッケージ作りから、田畑の草刈りまでこなす赤星。「楽じゃないが、気がつけば収入も東京の約2倍」と笑顔を見せる。


この事例では「岡山県のある過疎地が若者の注目を集めている」と切り出しているのに、なぜ注目を集めているのかを説明していません。若者を支援する人がいるのは分かりますが、自治体などで移住する若者を支援する例は珍しくありません。注目を集めるに足る美作市梶並地区の特殊性は、読者にきちんと提示すべきです。

事例の中に出てくる「赤星賢太郎」が美作市で何の仕事をしているのかも必須でしょう。ベースの仕事がITなのか農業なのか、もっと言えば自営業なのかサラリーマンなのかさえ不明です。「気がつけば収入も東京の約2倍」と高収入を強調するのは構いませんが、その前の基礎的な説明が欠けています。

淡路島の例も説明が不十分です。


【日経の記事】

不動産会社を辞め、パソナ関連会社で働く加藤大祐(29)の舞台は淡路島だ。農業チームの5人を率い、東京ドームほどの広さの農場を管理する。上司への事前報告や相談は必要ない。生産品目や販路開拓など何でも自分で判断し、行動する。「普通のサラリーマンにはできない経験」と手応えを感じている。


加藤大祐」の例は記事のテーマである「地方への移住」なのか明確ではありません。「パソナ関連会社で働く」のであれば、淡路島での勤務は単なる地方赴任だとも思えます。「淡路島に本社があるパソナ関連会社に勤務している」「淡路島で働き続けられるという条件でパソナ関連会社に転職した」といった事情があるのならば、その点を明示すべきでしょう。

「行数が限られる中では、説明不足になるのも仕方がない」と思うかもしれません。それに対する答えは、既に述べたように「事例を減らせ」です。今回の記事で最も要らない話は、宮崎の事例だと思います。その理由を(2)で解説しましょう。

※(2)へ続く。

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