2015年9月13日日曜日

岩切清司記者への質問 日経「ウォール街ラウンドアップ」

12日の日経夕刊マーケット・投資面に出ていた「ウォール街ラウンドアップ~相場混乱、ファンド運用戦略に影」は理解に苦しむ内容だった。保有する金融資産ごとのリスク量を均等にするリスク・パリティ(均等)戦略に関して、NQNニューヨークの岩切清司記者がきちんと説明できているとは思えない。

記事の中身から見ていこう。

アムステルダム中央駅(オランダ) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ヘッジファンド業界で屈指の運用報酬を手にするレイ・ダリオ氏。利上げを見据える米連邦準備理事会(FRB)に対して量的緩和策の必要性を説くが、市場はその運用にも関心を高めている。

同氏が率いるブリッジウォーター・アソシエーツの8月の運用成績は、主力ファンドでマイナスになったと一部メディアが伝えた。注目されたのは、業界に先駆けて導入されたリスク・パリティ(均等)戦略を軸としたファンドだからだ。

この運用戦略は様々な資産に資金を配分し、相場変動の影響を抑える「リスク分散型」の一種。保有する金融資産ごとのリスク量を均等にするのが特徴だ。

仮に株と債券に1億円ずつ投資するとする。価格変動が大きい株の方がリスクも大きく、運用成績は株式相場に左右されやすくなる。リスク量を株と債券で均等にすれば、運用収益の安定が期待できる。保有比率はおのずと株より債券の方が大きくなるわけだ。

運用業界で広範に普及している戦略だが、あるプライベートバンクの営業担当者は「過去数カ月の運用成績は芳しくなかった」と顔を曇らせる。年前半までの安定した投資環境を背景に好調だったこの戦略に、陰りが見え始めていた。

きっかけはFRBの金融政策だ。6~7月から「近づく利上げを前に債券の持ち高を減らし始めた」(クレディ・アグリコルのデービッド・キーブル氏)という。利上げ開始の前後から価格変動率が上がるとの予想が多かった。リスク・パリティ型ファンドはリスク量の増大を見越し、株や債券の持ち高の整理を進めたようだ

ここに想定外だった中国の人民元切り下げが加わった。動揺した世界市場では商品や通貨、株などが一斉に乱高下し、リスク量が一気に増大した保有資産の圧縮に動くファンドの売りは変動率をさらに高め、一段の資産売却に追い込まれる負の連鎖に陥った。ヘッジファンド運用を助言するアクシア・ジャパンの鷲尾学社長は「リスク・パリティは債券と株などの資産の相関が崩れる市場に弱い」と言う。


疑問点は主に2つ。まず、リスク・パリティ型ファンドがリスク量の増大を見越して売ったのは「債券」なのか「株や債券」なのか。クレディ・アグリコルのデービッド・キーブル氏のコメントは「債券の持ち高を減らし始めた」となっているのに、その後に「株や債券の持ち高の整理を進めたようだ」と書いている。読んでいて混乱した。

もう1つは「世界市場では商品や通貨、株などが一斉に乱高下し、リスク量が一気に増大した」結果として、なぜ「一段の資産売却に追い込まれる」のかという点だ。仮に株と商品を半分ずつ持つ形のリスク・パリティ型ファンドであれば、株と商品のリスク量が増大したとしても、その増え方が同じならば保有比率を見直す必要はない。故に資産売却に追い込まれることもない。「一斉」の中に債券は含まないといった前提があるのかもしれないが、そうは書いていない。

そもそも、市場が乱高下する前の6~7月に株の持ち高を整理していたとすると、タイミングとしてはかなりいい。少なくとも相対的には良好な運用成績を上げていてもよさそうだ。しかし記事では「(リスク・パリティ型ファンドは)今夏の市場混乱で限界を露呈した」と断言している。実際そうなのだろうが、記事の説明では「なるほど」とは思えなかった。

※記事の評価はD(問題あり)、NQNニューヨークの岩切清司記者への評価も暫定でDとする。この件では日経に問い合わせもしている。回答が届くことを期待したい。

追記)結局、回答はなかった。

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