2015年9月7日月曜日

東洋経済「次世代のユニクロ クロスカンパニー」への疑問

東洋経済9月12日号の巻頭特集「次世代のユニクロ クロスカンパニー」は興味深い内容だったが、筆者である冨岡耕記者の石川康晴クロスカンパニー社長に対する思い入れが強すぎて、分析が甘くなっている印象を受けた。「次世代のユニクロ アース ミュージック&エコロジーの過去と未来」という記事の一部を見てみよう。



スヘフェニンフェン(オランダ)のビル ※写真と本文は無関係です
【東洋経済の記事】

クロスカンパニーにとって成長の原動力とは何だったのか。それは「人と違うことをする」ということ。業界の常識にとらわれない姿勢だ

もともと服好きだった石川は地元・岡山の地で23歳のときに起業した。欧米から買い付けた派手な衣料を中心に売るセレクトショップである。4年目には99年当時ではまだ珍しかった衣料のSPA(製造小売業)に転換した


アースはカジュアルでシンプルな衣料を目指して立ち上げた。コンセプトは「カワイイ」。セレクトショップが全盛の中で大胆な事業転換だったが、石川のもくろみどおり成功を収める。1号店は開店初日から何百人もの列ができるほどの人気となった。


まずセレクトショップでの起業に「人と違うことをする」という姿勢が感じられない。本当に「人と違うこと」がしたいならば、今までにはない業態を考えるはずだ。SPAへの転換も「人と違うこと」とは言い難い。99年の時点でユニクロはSPAとして大きな成功を収めていた。SPAへの転換は「ユニクロの後追い」などとも形容できる。それを「業界の常識にとらわれない姿勢」と見るのは、さすがに無理がある。

カジュアルでシンプルな衣料」で勝負するのも新規性は感じられない。コンセプトの「カワイイ」に至ってはあまりに「普通」だ。この後も「駅ビルへの出店」「テレビCM」などの話が出てきて、いかに業界の常識に反しているかを説明しているが、「そんなに驚くような常識外の戦略ではない」というのが率直な感想だ。

また、記事中には何を言いたいのかよく分からない部分もあった。



【東洋経済の記事】

石川は店長に3つの経営キーワードを伝えている。

1つ目は内装投資を抑える「低資産」、2つ目はSPAモデルを推進する「高粗利」、3つ目は「在庫回転数」で、これを限界まで高めていくこと。この3つを合わせたときに必要な戦略となってくるのが小型店の集中化というわけだ。


低資産を高める」とはおかしな表現のような気もするが、それを見逃すとしても「小型店の集中化」はよく分からない。最初は「小型店を一定地域に集中して出す」という意味だと思ったが、それだと3つのキーワードとの関連があまりない。「小型店の集中化=小型店に特化した出店」と解釈するのが正解なのだろう。しかし、「低資産」「高粗利」「在庫回転数」と「小型店の集中化」がどう関連するのか、やはり謎だ。

小型店は大型店より内装投資は少なくて済むだろう。しかし、小さな店を多く出せば内装投資はかさむ。売り場面積100の大型店を1店出すより、面積10の小型店を10店出す方が内装投資が大幅に少なくて済むのならば分かるが、常識的には考えにくい。小型店ばかりにすると粗利益率や在庫回転数が高まるという理屈も、説明がないとピンと来ない。

しかも、「小型店の集中化」に関しては辻褄が合っていない。


【東洋経済の記事】

昨年10月、新ブランド「KOE(コエ)」路面店が小売り激戦区の新潟市中央区にオープンした。(中略)売り場面積はアースよりも広く、商品もファミリー層向けを並べるなど、ユニクロモデルに近い


世の中にはイトーヨーカ堂もあれば、セブンーイレブンもある。その中で僕たちは在庫回転数の日本一を目指すキャッシュフロー経営をセブンーイレブン型でやろうとしている」「無駄な在庫を食うイトーヨーカ堂はやりたくない」と記事中で石川社長は発言している。なのに「KOE」では“イトーヨーカ堂”をやろうとしているように見える。この矛盾には説明が必要だろう。

全体として、筆者が石川社長に惚れ込み過ぎている感はある。惚れ込むのはいいが、それが読者に伝わらない冷静な書き方をしてほしい。「セブンーイレブン型でやると言っているのにユニクロモデルに近い店を出すのはなぜか」ぐらいの質問はぶつけてほしいし、それを反映させた記事にしてほしかった。


※記事の評価はD(問題あり)、冨岡耕記者への評価も暫定でDとする。

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