2015年9月15日火曜日

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ

突き詰めて言えば、訴えたいことがないのだろう。15日の日経朝刊投資情報面に載った「一目均衡~ブラックロックの挑戦」には、いくつか問題点を感じた。筆者の小平龍四郎編集委員はネタがなくて苦労しているのか、記事の構成に無理があり、おかしな説明も散見される。

まずは記事の問題点を解説しよう。この記事では環境・社会・企業統治を意味するESGがテーマになっている。ESG投資の歴史について、小平編集委員は以下のように解説している。

デュッセルドルフ(ドイツ)のラーメン店 ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

こうした投資が広がるきっかけになったのは、06年に当時のアナン国連事務総長が主導して投資による貧困撲滅などを目指す「責任投資原則」が制定されたことだ。


さらに記事の結びを見てみよう。


【日経の記事】

7年前のきょう、米リーマン・ブラザーズが破綻した。以来、世界の投資家は利益の短期極大化だけを目指す、市場型資本主義の超克に挑んできた。ESGは挑戦の結果たどりついた解のひとつでもある。


リーマンショックが起きたのは2008年だ。06年からESG投資が広がってきたとすれば、ESGを「(リーマンショック後の)挑戦の結果たどりついた解のひとつ」と考えるのは無理がある。9月15日に載る記事なので、何とかリーマンショックと結び付けようとしたのだろう。しかし、「リーマンショックをきっかけに投資家の挑戦が始まり、ESG投資という解を見つけ出した」と確信できる状況にないのに強引に関連付けても、整合性の問題を生じさせるだけだ。

さらに言えば、社会的責任投資(SRI)という考え方は20世紀からあったし、ESG投資と中身はそう変わらないのではないか。ESG投資を目新しい動きとして記事で取り上げるならば、「SRIとは何が違うのか」にも触れてほしかった。

ブラックロックが世界に先駆けてまず日本でこうした投信を出す」理由も理解に苦しむ。小平編集委員は以下のように書いている。


【日経の記事】

米ブラックロックのフィンク会長は、新しい投信を世に出す背景についてこう述べている。具体的には先進国の3700銘柄の中から、独自の評価に基づいて200~800銘柄に投資する。日本企業では大手の製薬会社やガス会社などが、投資先の候補になっているもようだ。

ブラックロックが世界に先駆けてまず日本でこうした投信を出すのは、企業統治(コーポレートガバナンス)改革の進展を見極めてのことだろう


「日本企業の企業統治改革が進んできたので、新しい投信に日本企業が多く選ばれた」という話ならば分かる。しかし、企業統治改革の進展は「日本で先行して投信を売る理由」にはならないだろう。例えば「日本の投資家に企業統治の改革を重視する傾向が強まっているから」といった説明なら理解できるが…。

そもそもブラックロックの動きを「ブラックロックの挑戦」という見出しまで付けて紹介する意味があるのか。同社が設定する「ビッグ・インパクト」という投資信託が「ESGの考えを採り入れた日本初の個人向けの金融商品」というわけでもないようだ。

記事中で小平編集委員は「最新の潮流はブラックロックの例が象徴するように、欧州が中心だったESGが米国の運用会社にも広がっていることだ」と書いている。だとすれば、ESGに関してブラックロックは後発組だろう。その会社が日本でESG関連の投信を売る。それを「ブラックロックの挑戦」と大げさに取り上げる意義は感じられない。この辺りからも「訴えたいことが特にない」「書くべきネタがなくて苦労している」という事情が推察できる。

一目均衡」のようなコラムを書くには、「何を訴えたいか」を第一に考えてほしい。つまり結論部分が最も重要だ。結論に説得力を持たせるために記事を構成していくことになる。しかし、小平編集委員がそういう手順で記事を書いているとは思えない。

7年前のきょう、米リーマン・ブラザーズが破綻した。以来、世界の投資家は利益の短期極大化だけを目指す、市場型資本主義の超克に挑んできた。ESGは挑戦の結果たどりついた解のひとつでもある」というのが自分の訴えたかったことだと小平編集委員が主張するならば、こう聞きたい。「SRIを含め社会的なインパクトを重視した投資スタイルは、リーマンショックのずっと前からあるのではないか」「そもそもリーマンショックまでは『利益の短期極大化だけを目指す市場型資本主義』の時代だったのか。だとすれば、例えばウォーレン・バフェット氏も利益の短期極大化だけを目指してきたのか」

今回の記事の結論部分は「取って付けただけ」の可能性が高いので、ツッコミを入れるのは酷かもしれない。ただ、次に「一目均衡」を書くときは、「何を訴えたいか」「結論部分はどうするのか」を熟考するよう助言しておきたい。


※記事の評価はD(問題あり)、小平龍四郎編集委員の評価もDを据え置く。

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