2015年9月15日火曜日

入門書として薦められない 東洋経済の「ETF超入門」(3)

東洋経済9月19日号の特集「やり直し相場ではじめるETF超入門」には、おかしな説明がまだある。Part1の「市場動乱こそ好機 完全入門! 今なぜETF投資か」の中の「point4 同じ成績で紙くずになる危険もない 高い優良株不要」という60ページの記事では、以下の記述が気になった。

デュルブイ(ベルギー)のウルセル伯爵城とウルト川
                  ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

ETFは日経平均などに分散投資するものであって、個別株のリスクは皆無だ。


上記のように解説する一方で、Part3「相場激変でも慌てない 徹底解説!ETFの投資対象」の中の「国内株~日本経済は復調するか 日経平均とTOPIXが柱」という76ページの記事には以下のような記述がある。


【東洋経済の記事】

下表のように国内株指数のETFでは、ほかに東証マザーズ指数やジャスダックトップ20などがある。この場合は日経平均よりも特定銘柄の影響を受けやすく、東証マザーズならミクシィ、ジャスダックならガンホー・エンターテイメントの影響で価格が爆騰したことがある。



日経平均に連動するETFの場合、日経平均採用銘柄に幅広く投資しているようなものであり、個別株の価格変動の影響を当然に受ける。「個別株のリスクは皆無」はさすがに言い過ぎだ。だから、他の記事との整合性が取れなくなってしまう。

付け加えると「爆騰」を記事に使うのは感心しない。ある種の業界用語として普及しつつあるのだろうが、「超入門」とうたっている特集で辞書にも載っていないような言葉を使う必要はないはずだ。

74ページの「実践 著名投資ブロガー水瀬ケンイチのポートフォリオの組み方」という記事では、用語の説明に不正確さを感じた。「『将来の結果の不確実さ』の度合いのことを統計学では『標準偏差』という」と水瀬氏は書いている。標準偏差とはデータのばらつき具合を示す尺度であり、「将来の結果の不確実さ」と直接的な関係はない。市場価格に関しては、過去の変動率から標準偏差を割り出して、それを将来の投資リスクを測るのに使っているだけだ。

今はやりのスマートベータって何だ!?」という77ページの記事にも注文を付けたい。引っかかったのは「相対的にコストの高いアクティブ運用の成績が本当にパッシブ運用を上回っているかは運用業界でも長年の論争になっている」というくだりだ。

アクティブ運用の6~7割が運用成績でパッシブ運用を下回っているのは「常識」ではないのか。運用成績を集計すればどちらが上回っているかは分かるので、「長年の論争」にはなりにくい。もちろん「アクティブ運用に投資しても意味がないのか」といったテーマならば、議論の余地はあるし、アクティブ擁護派の言い分にも一理ある。ただ、記事の説明はさすがにまずい。

最後に言葉の使い方を1つ指摘したい。59ページの記事では「投信は特定の取扱証券会社や銀行としか売買できないが、ETFは取引所においてリアルタイムで時価売買が可能という利点を持つ」と書いている。これを投資初心者が読めば「ETFは投信ではない」と感じるだろう。しかし、ETFも投信の一種だ。

「今回の特集では、ETF以外の投信を『投信』と呼んでいる」と筆者は弁明するかもしれない。ところが、65ページの記事では「非上場の投資信託は決められた基準価格で1日1回しか売買できない。だがETFは取引時間中いつでも売買が可能」と書いている。この表記ならば問題はない。「ETF以外の投信=非上場の投信」と表記を統一していれば、読者に誤解を与えるリスクを減らせたはずだ。


※特集全体の評価はD(問題あり)とする。西澤佑介記者の評価は暫定Bから暫定Dへ、野村明弘記者の評価は暫定Cから暫定Dへ引き下げる。

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