2015年9月6日日曜日

初回から無理がある1面企画 日経「新産業創世記」(1)

冒頭から、いかにも無理がありそうな危うさが漂う1面企画が日経朝刊で始まった。「新産業創世記~消える垣根(1) 常識は邪魔だ ロボットに感情/ヒトより安全に」の最初の段落を見てみよう。

【日経の記事】 
リエージュ(ベルギー)のプリンス・エベック宮殿
                 ※写真と本文は無関係です

企業間の競争が新たな段階に入ったプレーヤーの規模や業種は関係ない。ルールも働き方も従来とは違う。そこかしこで次代の新産業を切り開く胎動が見える。成長を続けるには、この競争に加わるしかない。さあ、常識を壊すところから始めよう。


非常に抽象的な書き出しだ。今までがどういう段階で、いつからどういう新たな段階に入ったのか漠然としている。ただ、「プレーヤーの規模や業種は関係ない。ルールも働き方も従来とは違う」という状況は既に実現しているらしい。これだけで「また、適当なことを書いてそうだな」との予感はする。実際、記事を読んでみても「垣根が消えて、プレーヤーの規模や業種も関係なくなり、ルールも働き方も変わってしまったんだな」との感想は持てなかった。

1面の記事でまず取り上げているのがソフトバンクのヒト型ロボット「ペッパー」の話だ。記事では以下のように説明している。


【日経の記事】

家永を含めた約40人はソフトバンク社長の孫正義(58)の求めに応じて吉本興業から派遣されてきた。吉本は米国やカンボジアなどでもエンジニアを抱え、ペッパーを世界の人気者に仕立て上げることを狙う。「芸人を面白くするために培った技をペッパーに学ばせる」。よしもとロボット研究所社長の山地克明(40)は大まじめだ。


吉本興業の傘下に「よしもとロボット研究所」があって、ソフトバンクはロボットの開発でその研究所の力を借りる。それだけの話ではないのか。「垣根が消えた」「業種は関係ない」「ルールは変わった」といった要素は感じられない。「吉本と言えばお笑い」と考えて、そのノウハウも生かそうとしているのであれば、むしろ「吉本=お笑い」という「常識」に縛られている。

2番目の事例はさらに苦しい。


【日経の記事】

「病気の一歩手前の『未病』を見つけることだって不可能ではない」。こう言い切る東大教授の合原一幸(61)は医者ではない。複雑な現象を数式で解き明かす数理工学と呼ぶ新分野の専門家だ。製薬会社などと組み、病気の予兆をつかむプロジェクトを主導する。

病気の症例や治療法、2万種を超える遺伝子の情報……。様々なデータから数式を基に治療や予防に役立つルールを導き出す。数学と医療。垣根を越えた組み合わせが病気に苦しむ患者に光を照らす。


医療関連のデータを活用する際にデータ解析の専門家に協力を仰ぐのは当然だろう。「数学と医療」を「垣根を越えた組み合わせ」と呼ぶほどの話なのか。例えば、金融工学は「金融と数学の垣根を越えた組み合わせ」と言えなくもない。そういう事例は山ほどあるだろうし、最近始まったことでもない。

「大きな変化が起きている」と断定して記事を作っているので、それを証明する事例が必要になる。しかし、前提自体に無理があり、まともな事例が集められない。これまで日経が1面企画で繰り返した問題が、今回の連載でも起きている。1面企画の作り方の「常識を壊すところから始めよう」と日経には訴えたい。記事の結びも引用しよう。「その覚悟、ありますか?


関連特集も含めて今回の記事には色々と問題が目立つ。それは(2)で指摘する。

※(2)へ続く。

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