2015年9月14日月曜日

入門書として薦められない 東洋経済の「ETF超入門」(2)

東洋経済9月19日号の特集「やり直し相場ではじめるETF超入門」の問題点を引き続き指摘していく。今回はPart1の「市場動乱こそ好機 完全入門! 今なぜETF投資か」の中の「point1 国際分散投資に最適 下落相場に強い」という58ページの記事を取り上げる。記事では以下のように書いている。

【東洋経済の記事】
スヘフェニンヘン(オランダ) ※写真と本文は無関係です


以上のような投資を貫徹すれば、長期的に安定したリターンと下落相場からの強い復元力を享受できる可能性が高い。その一例が下図だ。これは先進国23カ国と新興国23カ国の株式を時価総額に応じて組み込んだ指数で、全世界の株式の85%以上をカバーする。過去20年間にはITバブル崩壊とリーマンショックで2度の大暴落があったが、この間の平均株価上昇率は年率6.9%に達する。20年で資産額は4倍になった。

暴落局面からの復元力にも目を見張る。ITバブル崩壊後の底値から足元までの株価上昇率は年率9.7%、リーマンショック後に至っては年率18%にもなる。確かに相場下落は好機かもしれない。


長期保有を前提に国際分散投資をすれば「長期的に安定したリターンと下落相場からの強い復元力を享受できる可能性が高い」と記事では訴えている。だから国際分散投資をする上で使えるETFは「下落相場に強い」というわけだ。

これも投資初心者ならば「確かにそうかも…」と思ってしまいそうだ。結論から言えば、ETFは「下落相場に強い」わけではない。もちろん弱くはなく、普通だ。当たり前だろう。そもそも「下落相場に強い」とはどういうことか考えてみよう。

市場平均(例えばTOPIX)が20%下げた時にA社の株価は1%しか下げなかったとすると「A社株は下落相場に強い」と言えるかもしれない。しかし、一般的にETFは市場平均に連動して動くように設計されている。「先進国23カ国と新興国23カ国の株式を時価総額に応じて組み込んだ指数」に連動するようにETFでの投資をすれば、この指数が20%下がった時に資産額は20%目減りする。これを「下落相場に強い」と評価できるだろうか。

この点を筆者である西澤佑介、野村明弘の両記者にぶつければ「2度の暴落を経ても過去20年間で年率6.9%の上昇だから、そういう意味で『下落相場に強い』と書いている」と反論してきそうだ。それに対しては「過去20年の世界の株式相場は、2度の大きな下げ局面がありながらも、全体としては上昇基調だっただけの話ではないか」と返したくなる。

ETFを使って国際分散投資していても、世界全体の株価がさえない時は市場平均並みにさえない運用成績になるはずだ。「下落相場でも負け方は平均的」とは言えるだろうが…。(注:レバレッジ・インバース型はもちろん話が違ってくる)

ついでに言うと、長期を前提にした国際分散投資であれば「長期的に安定したリターン」が得られる可能性が高いという記事の説明は、基本的に正しくない。記事でも触れているように、過去20年を見ても大きな下げ局面が2回あり、年間のリターンがマイナスになっている年が何年もある。つまり「安定したリターン」は得られていない。投資初心者には「長期的に見れば、悪くないリターンが得られる可能性は高い」といった認識を持たせたいところだ。

※(3)へ続く。

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