2023年1月20日金曜日

岩田屋の宣伝係のつもり? 「高級ラウンジ活況」が苦しい日経 関口桜至朗記者の記事

日本経済新聞の関口桜至朗記者は岩田屋の宣伝係でもやっているつもりなのか。20日の朝刊 九州経済面に載った「高級ラウンジ活況 岩田屋三越、1000万円購入客も~モノ・サービス提案 若年層取り込む」という記事は目を覆いたくなる出来の悪さだった。冒頭で「百貨店の岩田屋三越(福岡市)が岩田屋本店(同市)に設けた高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」と打ち出しているが、この話自体が苦しい。記事の一部を見ていこう。

宮島

【日経の記事】

岩田屋本店にある富裕層向けの「ラウンジS」は、2021年3月にオープンした。(中略)ラウンジの利用には事前予約が必要で、受け入れるのは1日1組のみだ。毎月10組程度が利用し、これまでに延べ約180組が訪れた。

岩田屋三越によると、客層は20~30代の若年層が1割程度を占める。ラウンジ担当者は「百貨店を利用する富裕層は高齢の方が多いイメージだが、岩田屋本店新館は若者に人気のブランドも多く入っていることから、客層は比較的若い」と話す。


◎わずか20組程度?

電子版では違う見出しが付いているが、紙の新聞では「高級ラウンジ活況」となっている。しかし「受け入れるのは1日1組のみ」で「毎月10組程度が利用し」ている程度らしい。「1日1組」しか「受け入れ」ないのに稼働率は3割ぐらいで高くない。「高級ラウンジ」での売り上げがどの程度あるのかは不明。全体として「活況」を呈していると判断できる材料はない。

では「高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」とは言えるだろうか。「約180組が訪れ」て「若年層が1割程度」だとすれば開設から2年近くが経過して利用は20組前後。これで「高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」と見なすのは無理がある。

なのに「具体的な購入品目は秘密だが、若年富裕層の客が1000万円を超える商品をまとめて購入したこともあったという。投資などで成功した若年層が、豊富な資金力で高額消費を楽しむ構図が浮かび上がる」などと書いてしまう。嘘ではないとしても強引に盛り上げている印象は否めない。

取材してみて「岩田屋の高級ラウンジにどんどん20~30代の富裕層が集まってきているのか。これは面白い話だ」と関口記者が本気で思えたのならば経済記者には向いていない。ネタに困って強引に九州経済面のトップ記事を書き上げたのかもしれないが、だとしても「こんな岩田屋の宣伝係を買って出たような苦しい記事を世に送り出して恥ずかしい」という気持ちは持ってほしい。


※今回取り上げた記事「高級ラウンジ活況 岩田屋三越、1000万円購入客も~モノ・サービス提案 若年層取り込む」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC065HV0W2A201C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。関口桜至朗記者への評価もDとする。

2023年1月19日木曜日

「証券、手数料より資産残高」が怪しい日経 五艘志織記者の記事

19日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に五艘志織記者が書いた「証券、手数料より資産残高 個人向け営業の評価転換~相場低迷、問われる持続性」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

錦帯橋

【日経の記事】

証券会社が個人向け営業員の評価体系を変えている。SMBC日興証券は売買手数料などの収益の総額から、投資信託など預かり資産の伸びを重視する体系に改めた。大和証券グループ本社や三菱UFJモルガン・スタンレー証券なども短期利益より顧客の資産形成を優先する営業にかじを切っている。株安で収益環境が厳しさを増すなか、営業改革の持続性が問われている。

SMBC日興では22年度から総収益の仕組みをなくし、投資信託やファンドラップの手数料収入や残高の純増、運用以外の事業承継などにわけて支店を評価している。「残高重視の営業に移行する中で、高い手数料の金融商品を売る動機が働きにくくなるようにした」。SMBC日興の担当者は狙いをこう語る。


◎話が古い

囲み記事だとしても話が古い。「証券会社が個人向け営業員の評価体系を変えている」と打ち出してはみたものの最初の事例となる「SMBC日興証券」が「評価体系を変え」たのは「22年度から」。「22年度」も終わろうとしているこのタイミングでなぜ記事にしたのか。この後に出てくる「野村証券」もやはり「22年4月」に仕組みを変えている。例えば「評価体系を変え」たことが、ようやく利益につながり始めたといった話なら分かる。その辺りの工夫が欲しい。

さらに言えば「SMBC日興証券」の場合「手数料より資産残高」なのか微妙。「総収益の仕組みをなくし、投資信託やファンドラップの手数料収入や残高の純増、運用以外の事業承継などにわけて支店を評価している」らしいが「個人向け営業員の評価体系を変えている」かどうかは触れていない。「支店を評価」する方法に関しても「投資信託やファンドラップの手数料収入」が評価項目に入っている。「預かり資産の伸びを重視する体系」がどの程度の「重視」なのか具体的な数値も見当たらない。

残高重視の営業に移行する中で、高い手数料の金融商品を売る動機が働きにくくなるようにした」という「担当者」のコメントも「まだ残高重視の営業に移行する途上」と読み取れなくもない。結局「手数料より資産残高」の中身がぼんやりとしか見えてこない。これが辛い。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

従来は特定の大口顧客からのまとまった注文で成績を上げられた。新しい体系では商品販売額を評価するポイント制を導入し、顧客1人あたりのポイントに上限を設けた。営業員は多くの顧客と取引し、それぞれのニーズに合った提案をすることが求められるようになった。


◎で「残高重視」は?

やはり「手数料より資産残高」という話になっていない。「顧客1人あたりのポイントに上限を設けた」というだけだ。「営業員」の評価に関しては、今も「資産残高より手数料」重視なのではと思える。

さらに見ていく。


【日経の記事】

野村証券は顧客の預かり資産残高に応じ、手数料を受け取る「レベルフィー」を22年4月に全店で始めた。株式と債券、投資信託が対象。運用商品を売り買いするたびに手数料を徴収するのではなく、時価の評価額に手数料が連動するしくみだ。顧客の預かり資産が増えれば証券会社の実入りも伸び、両者の利害が重なりやすくなる。一定の資産を持つ投資家は従来型とレベルフィーの双方から選ぶことができ、22年9月末時点の対象資産は2500億円に達した


◎これも苦しいような…

野村証券」の事例も「手数料より資産残高」で「営業員」を評価している話にはなっていない。「時価の評価額に手数料が連動するしくみ」を導入して「一定の資産を持つ投資家は従来型とレベルフィーの双方から選ぶことができ」るようにしただけだ。「営業員」の評価が「手数料」で決まっている可能性は残る。仮に「資産残高」で評価が決まる仕組みになっているのなら、そこは明示すべきだ。

付け加えると「22年9月末時点の対象資産は2500億円に達した」とだけ書くのは感心しない。この場合は「従来型」との比較が欲しい。

紙面を埋めるために強引に企画を捻り出したのか。記者・デスクの力量不足なのか。いずれにしても、この記事に高い評価は与えられない。


※今回取り上げた記事「証券、手数料より資産残高 個人向け営業の評価転換~相場低迷、問われる持続性

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230119&ng=DGKKZO67695090Y3A110C2EE9000


記事の評価はD(問題あり)。五艘志織記者への評価もDとする。

2023年1月12日木曜日

「西欧諸国」では「生涯無子」の増勢収まった? 日経 福山絵里子記者に問う

12日の日本経済新聞朝刊1面に福山絵里子記者が書いた「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加」という記事は、目の付け所こそ悪くないが高い評価はできない。データの解釈が恣意的だからだ。「生涯無子」について福山記者は以下のように書いている。

宮島

【日経の記事】

人口学では、女性で50歳時点で子どもがいない場合を「生涯無子」(チャイルドレス)と見る。OECDによると、70年生まれの女性の場合、日本は27%。比較可能なデータがある17カ国のうちで最も高い。次いで高いのはフィンランド(20.7%)で、オーストリア、スペインと続く。ドイツはOECDのデータにないが、ドイツ政府の統計によると21%(69年生まれ)だった。

24カ国で比較できる65年生まれでも日本(22.1%)が最も高く、英国、米国など主要国を上回る。両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている


◎「西欧諸国」とはどの国のこと?

両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている」と福山記者は言うが、それを裏付ける具体的なデータは見当たらない。記事に付けたグラフでは増加組が日本、フィンランド、英国、ドイツ、スペインで「増加の勢いが収まって」いるのが米国とスウェーデン。この両国は「西欧諸国」ではない(スウェーデンを北欧ではなく「西欧」と見なしても1カ国では「諸国」にならない)。そして「西欧」に当たるドイツ、スペインでは増加傾向。話が違う。

そして「生涯無子」を減らす策に関しても福山記者はおかしな主張を展開する。


【日経の記事】

近年大きく増えたのは(1)の結婚困難型だ。25歳から49歳までのどの年代(5歳刻み)を見ても最多だった。十分な経済力がある適切な相手を見つけることができないことも一因とみられる。次に多かったのは(2)の無子志向で、若い世代で増えた。女性全体の中で5%程度が無子志向と推察した。

未婚女性では低収入や交際相手がいないと子を望まない確率が高かった。守泉氏は「積極的選択というより、諦めている女性が多いと示唆される」と話す。

岸田政権は子育て世帯への経済的支援を充実する見通しだ。非正規社員への社会保障の拡充や男女ともに育児との両立が可能な働き方へ向けた改革も必要となる。子育てのハードルを下げるため教育費の軽減も急務だ。

日本では86年に男女雇用機会均等法が施行された。無子率が高い65年~70年生まれは均等法第一世代だ。働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ


◎「両立支援」に効果ある?

働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ」と福山記者は言う。「両立支援」が十分ならば「少子化が進んだ」りしないと思い込んでいるようだ。となるとフィンランドで「生涯無子」の比率が高く、しかも増加傾向にあるのをどう説明するのか。日経は2021年の記事で「教育や福祉が充実、育児休業を取得する男性が8割以上いるなど、共働き子育ての先進国」と同国を紹介している。なのに出生率は日本とほぼ同水準。「共働き子育ての先進国」になっても少子化克服は難しいことをフィンランドは教えてくれる。むしろ「共働き子育ての先進国」だからこそ少子化を克服できないと見る方が自然だ。

個人的には少子化は放置で良いと思うが、どうしても克服したいならば学ぶべきは「西欧諸国」でも北欧でもない。人口置換水準を大きく上回る国々だ。世界には、そうした国がたくさんある。そこから目を背けたままでは、この問題で説得力のある答えは出せない。



※今回取り上げた記事「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230112&ng=DGKKZO67498650R10C23A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価もDとする。福山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


読者に誤解与える日経 福山絵里子記者「子育て世代『時間貧困』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/08/blog-post_21.html

2023年1月6日金曜日

「東南ア『観光公害』回避広がる」が成立していない日経の記事

何を訴えたいのかよく分からない記事が6日の日本経済新聞朝刊 国際・アジアBiz面に載っていた。 「東南ア『観光公害』回避広がる~インドネシア、島の入園料上げ中止」という見出しからして分かりにくい。「入園料大幅引き上げ」なら見出しの組み合わせとして違和感はない。だが「入園料上げ中止」だ。

宮島連絡船

記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

東南アジア諸国で観光客を制限することで「オーバーツーリズム(観光公害)」を回避する動きが広がる。新型コロナウイルス禍から観光需要が回復しつつあるなか、環境に配慮した持続可能な観光産業の育成を目指す。だが、収入減を不安視する地元住民の反対も根強く、各国政府は難しいかじ取りを迫られている。

インドネシア政府は、世界最大のトカゲ「コモドドラゴン(コモドオオトカゲ)」の生息地として人気のあるコモド島への入園料の大幅値上げを予定していた。だが、値上げを翌月に控えた2022年12月、値上げの中止を発表した

平日の入園料は外国人の場合は15万ルピア(約1300円)だが、同政府の計画ではこれを375万ルピアに引き上げるはずだった。

観光客数を減らして自然環境を保全する狙いだったが、収入減を懸念する観光業界や地元自治体の関係者からは反対の声が上がっていた。


◎話が違うような…

冒頭で「東南アジア諸国で観光客を制限することで『オーバーツーリズム(観光公害)』を回避する動きが広がる」と打ち出しているが、事例として最初に出てくるのは「コモド島への入園料の大幅値上げ」が中止になった話。これをメインに据えるなら「『オーバーツーリズム』を回避する動きに歯止めがかかってきた」とでも書くべきだ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

オーバーツーリズム対策には値上げのほか、訪問者数の制限、自然環境の回復のための一時的な閉鎖などがある。

タイ政府は22年、南部のビーチリゾート、ピピ島のマヤ湾を約40カ月ぶりに観光客に開放した。マヤ湾はレオナルド・ディカプリオさん主演の映画「ザ・ビーチ」のロケ地となったことで、観光客が急増して生態系が損なわれてしまった。そのため同国政府が18年、環境保全を理由にマヤ湾の閉鎖に踏み切った経緯がある。

訪問者数は現在、1日4000人と18年時点の繁忙日(5000人)を下回る水準に制限され、遊泳も禁止された。天然資源・環境省の担当者は、閉鎖期間中にサンゴの状態が回復しサメの群れも戻ってきたと話す。


◎これも苦しい…

これも「『観光公害』回避広がる」の事例としては苦しい。「政府が18年、環境保全を理由にマヤ湾の閉鎖に踏み切った」のを受けて「『観光公害』回避広がる」と書くのなら分かるが「22年、南部のビーチリゾート、ピピ島のマヤ湾を約40カ月ぶりに観光客に開放」している。つまり規制緩和だ。「『観光公害』回避」の観点から見れば後退とも言える。

3番目の事例はさらに辛い。


【日経の記事】

持続可能な観光産業の育成は、短期的な収益機会よりも長期的な視点を重視できるかがカギになる。

解決策のひとつとなりそうなのが、アジア開発銀行(ADB)が支援してベトナム中部のフォンニャケバン国立公園の近くで立ち上げたファームステイのプロジェクトだ。地元住民が事業の9割を担い、収益を得る。宿泊施設では生ごみなどを発酵・分解させて堆肥化する「コンポスト」を行い、徹底したリサイクルを実践している


◎関係ある?

宿泊施設では生ごみなどを発酵・分解させて堆肥化する『コンポスト』を行い、徹底したリサイクルを実践している」と言うが、これが「観光公害」とどう関連するのか分かりにくい。常識的に考えれば「宿泊施設」から出る「生ごみ」が「観光公害」の元になっている訳ではないだろう。

宿泊施設」で出る「生ごみ」をいくら「リサイクル」したところで「フォンニャケバン国立公園」を訪れる観光客が公園内などにゴミを落としていく問題は解決しないはず。事例が足りないので、あまり関係ない話を強引にねじ込んだのだろうか。

最後まで読んでも「東南アジア諸国で観光客を制限することで『オーバーツーリズム(観光公害)』を回避する動きが広がる」とは感じられなかった。むしろ、そうした「動き」にブレーキがかかっているのでは?


※今回取り上げた記事「東南ア『観光公害』回避広がる~インドネシア、島の入園料上げ中止

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230106&ng=DGKKZO67358230V00C23A1FFJ000


※記事の評価はD(問題あり)。ジャカルタ支局の柴田奈々記者とバンコク支局の井上航介記者への評価もDとする。

2022年12月27日火曜日

「量産する」と書いているが実は量産開始済み?と思える日経夕刊1面の記事

日本経済新聞の企業ニュースに「when」が抜けるのは悪しき伝統。26日の夕刊1面に載った「イーレックス、バイオマス発電燃料をベトナムで量産」という記事もその一例だが、やり方が巧妙になっている気がする。記事の全文を見た上で「量産」開始時期について考えてみたい。

宮島

【日経の記事】

電力小売り大手のイーレックスはバイオマス発電用燃料をベトナムで量産する。イネ科の植物「ソルガム」の商業栽培に着手し、2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす。発電量に換算して約1億5000万キロワット時と、一般家庭3万5000世帯分の年間需要をまかなえる。加工して日本に運び、自社の発電所などで使う。木材からつくる燃料よりコストを抑え、低炭素電源の原価低減につなげる。

まず南部ロンアン省など4カ所で農場を運営し、燃料用品種を育てる。ソルガムは3カ月で高さ6メートルほどに成長する。24年度には栽培面積を約15平方キロメートルと、現状の2.5倍に増やす予定だ。ソルガムは乾燥に強い一年草で、生育が早く年3回ほど収穫できる。ベトナム国内の生産委託先の工場などで葉や茎を粒状の燃料「ペレット」に加工し、日本に輸出する。

ペレットは22年度中にも運営する糸魚川発電所(新潟県糸魚川市)で石炭と混ぜて燃やし始める。バイオマス発電の燃料は木材からつくる木質ペレットが一般的だが、より安価な燃料を自社生産してコストを抑える。今後は他の発電会社にも外販する方針で、将来はベトナム国内での販売も視野に入れる。23年度にソルガムの事業規模を10億円に増やす。

バイオマス燃料は草木の生育過程で光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収するため、火力発電の環境負荷を減らせる。木質ペレット原料となるアカシアやユーカリは、植樹から伐採まで早くとも4~5年程度かかる。ソルガムは同じ栽培面積から得られる熱量がアカシアなどの約5倍と、効率が高い。


◎実はもう「量産」開始済み?

イーレックスはバイオマス発電用燃料をベトナムで量産する。イネ科の植物『ソルガム』の商業栽培に着手し、2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす」と書いてあると、断定はできないものの「量産」開始は「2024年度」なのかなと感じる。

しかし読み進めると「24年度には栽培面積を約15平方キロメートルと、現状の2.5倍に増やす予定だ」と出てくる。つまり「現状」の「栽培面積」は6平方キロメートル。「収穫量」も連動すると考えると「現状」でも年間12万トンもの「ソルガム」を作っている計算になる。であれば既に「量産」は始まっていると見るのが自然だ。

それを裏付けるように「ペレットは22年度中にも運営する糸魚川発電所で石炭と混ぜて燃やし始める」とも記している。

これをどう理解すればいいのか。

おそらく「量産」は始まっている。「量産を始めた」と過去形にすると夕刊とはいえ1面には厳しいといった判断があったのかもしれない。そこで「量産する」と将来の話のように見せたのではないか。「量産開始時期に触れてない」と言われないために「2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす」と「2024年度」を直後に持っていく。しかし「量産開始時期=2024年度」とは言い切らない。

この推測が当たっているのならば悪い意味でテクニックは身に付いている。だが、この手の記事を世に送り出していては読者からの信頼は得られないだろう。


※今回取り上げた記事「イーレックス、バイオマス発電燃料をベトナムで量産

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221226&ng=DGKKZO67147560W2A221C2MM0000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年12月21日水曜日

日経の河浪武史 金融部長は管理職業務に専念した方が…

日銀による事実上の利上げを受けて日本経済新聞の河浪武史 金融部長が21日の朝刊総合2面に「成長と規律、回復へ一歩」という解説記事を書いている。なぜ編集委員らではなく河浪部長なのだろう。記事の出来もそんなに良くない。このレベルが限界なら管理職業務に専念した方がいい。問題点をいくつか挙げてみる。

錦帯橋
(1)今は「金利がない世界」?

市場だけでなく、企業にも家計にもサプライズとなり『金利がある世界』への備えは十分とはいえない」「『金利のある世界』には万全の備えが必要になる」と書いているので河浪部長にとって今の日本は「金利がない世界」なのだろう。

長期金利で言えばこれまでの許容上限が0.25%で、ほぼここに張り付いてきた。0.25%だと「金利がない世界」だが、それが0.5%になると「金利のある世界」なのか。その認識で記事を書いていると思うと少し怖い。


(2)どちらも「市場のハンドリング」の失敗では?

記事の書き方が下手だと感じた部分もあった。

日銀緩和の出口は繊細な手綱さばきが求められる。経済を冷やしてしまえば、日本は一転してデフレ懸念に見舞われる。一方で市場のハンドリングを誤れば、金利急騰という大打撃を負いかねない」と河浪部長は言う。

経済を冷やしてしまえば、日本は一転してデフレ懸念に見舞われる」というのも「市場のハンドリング」を誤った場合に起きることのはずだ。なのに「一方で市場のハンドリングを誤れば、金利急騰という大打撃を負いかねない」とつないでしまう。

改善例を示しておく。

【改善例】

日銀緩和の出口は繊細な手綱さばきが求められる。経済を冷やしてしまえば、日本は一転してデフレ懸念に見舞われる。一方で、市場のハンドリング次第では金利急騰という大打撃を負うリスクもある

このくだりの続きにも疑問を感じた。


(3)格下げが「日本経済の致命傷」?

いずれもコロナ危機後の過大債務を直撃して『日本国債の格下げリスクに直結する』(3メガ銀行首脳)。それは日本経済の致命傷となる」と河浪部長は言うが1990年代から「日本国債の格下げ」は何度もあった。それでも「日本経済の致命傷となる」ような大きな影響は起きていない。なのになぜ「日本経済の致命傷となる」と言い切ってしまうのか。

今回はこれまでと違うと考えるのなら、その理由は欲しい。あまり考えずに書いているような気がするが…。


※今回取り上げた記事「成長と規律、回復へ一歩」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221221&ng=DGKKZO67014560R21C22A2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。河浪武史氏への評価はDを据え置く。河浪氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日本では家計が「物価は上がらないと判断」? 日経 河浪武史記者の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/blog-post_28.html

「インフレはドル高招く」と日経 河浪武史記者は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/12/blog-post_14.html

「米利上げ 独走強まる」に無理がある日経 河浪武史記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_32.html

米ゼロ金利は「2008年の金融危機以来」? 日経 河浪武史記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/2008.html

日経 河浪武史・後藤達也記者の「FRB資産 最高570兆円」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/frb-570.html

2022年12月5日月曜日

「国と国の戦争」を「過去の遺物」と思い込んでいた日経 芹川洋一論説フェロー

日本経済新聞の芹川洋一論説フェローが5日の朝刊オピニオン面に書いた「核心~令和の国難に防人の備え」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

【日経の記事】

2022年も余すところわずかとなった。世界の歴史で特筆大書される年になるにちがいない。いうまでもなく2月24日にはじまったロシアのウクライナ侵攻のためだ。

国と国の戦争という過去の遺物と思われていたものが9カ月すぎてもなおつづいている。国際政治は権力闘争で、それを左右するものが軍事力という現実もまざまざとみせつけた。国際政治学者モーゲンソーのいうとおりだ。


◎「過去の遺物」と思ってた?

国と国の戦争」を「過去の遺物」だと芹川氏は思っていたのか。だとしたら怖い。2021年には中国とインドが軍事衝突を起こしている。それがなくても台湾有事で米国が中国と直接戦うのかが論じられてきた。そういう状況で「国と国の戦争」を「過去の遺物」と認識したのならば引退を検討していい。

台湾有事に関する記述にも疑問を感じた。


【日経の記事】

ただもし台湾有事になればどうなるのかを想定、さまざまな対策を詰めておく必要がある。尖閣諸島や与那国島など南西諸島が戦域に入るのは必至で、そうなるとおのずと日本有事になるためだ。


◎なぜ「戦域に入るのは必至」?

台湾有事」では「南西諸島が戦域に入るのは必至」と芹川氏は言うが、その理由は記していない。中国からすれば台湾を攻撃する際に「南西諸島」も「戦域」に入れる可能性は低いだろう。台湾への攻撃だけであれば「あくまで国内問題」と中国は主張できるが「南西諸島」にまで「戦域」を広げてしまうと日米参戦に正当性を与えてしまう。

日本にとって一番悩ましいのは、中国が台湾だけを攻めている状況で親分である米国が中国との開戦を決意し、日本にも子分として参戦を求めてくる場合だ。日米同盟の強化を念仏のように唱えてきた日経の論説委員長経験者としては「その時は米国と距離を置け」とは言いづらいのだろう。しかし「日本が攻められていなくても米国が求めるなら子分として参戦を拒めない」と言うのも苦しい。なので「台湾有事」では「南西諸島が戦域に入るのは必至」とご都合主義的に決め付けたのではないか。

「台湾有事の際に米国が参戦を求めてきたら、日本が攻撃されていなくても米国と共に中国と戦うべきなのか?」

この問いに芹川氏は答えてほしい。「本社コメンテーター」の秋田浩之氏と同様にこの問題から逃げ続けるのならば安全保障上の問題を論じる書き手としては評価できない。

記事ではこの後「白村江の戦い」「蒙古襲来」など歴史のおさらいが続き以下のような結論に至る。


【日経の記事】

古代の防人、中世の御家人、明治の人びと……先人たちは涙ぐましい努力でふんばった。令和の国難に必要なものもまた、それぞれの立場で負担を受け入れる覚悟と気概のはずだ。そして国難を回避するための政治指導者たちの力量だ。今の日本は果たして大丈夫だろうか。

◎そこを語らないと…

芹川氏は「今の日本は果たして大丈夫だろうか」で記事を締めてしまう。「大丈夫」かどうか自らの見解を示した上で「大丈夫」でないのならば、どういう政策を選択すべきか読者に訴えるべきだ。

日本の歴史を振りかえると、似たような状況の時代があったように思い、本社の論説委員会の本棚にあった山川出版社の高校教科書の『詳説日本史B』を手に取ってみた」といった余計な説明は要らないし歴史に触れた部分も長すぎる。「今の日本」が具体的に何をすべきかを論じることに紙幅を割いてほしかった。

「防衛力強化のために今こそ大増税を」でもいい。具体論からなぜ逃げるのか。

ついでに言うと芹川氏の文章は相変わらず平仮名だらけで読みづらい。

例えば「9カ月すぎてもなおつづいている」は「9カ月過ぎてもなお続いている」の方が読みやすい。使っている漢字もごく簡単なものだ。ずっとそうだが芹川氏はなぜこんなに平仮名好きなのか。

紛争がおこる」「バランスがくずれた」「年内決着にむけて」「ふたたび敗退」「城をきずいた」…。平仮名表記を選ぶ理由が理解できない。


※今回取り上げた記事「核心~令和の国難に防人の備え

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221205&ng=DGKKZO66495060S2A201C2TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「核で抑止」日本はOKで北朝鮮はNG? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2022/05/okng.html

昔話の長さに芹川洋一論説フェローの限界が透ける日経「核心~令和臨調、3度目の挑戦」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/03/3.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_18.html

「スペイン風邪」の話が生きてない日経 芹川洋一論説フェロー「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_27.html

日経 芹川洋一論説フェローが森喜朗氏に甘いのは過去の「貸し借り」ゆえ?https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_11.html

日本の首相に任期あり? 菅首相は安倍政権ナンバー2? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/2.html