2021年11月24日水曜日

デフレだと投資や消費をしないのが合理的? FACTAで珍説を披露した中野剛志氏

評論家の中野剛志氏がFACTA12月号に書いた「日本国債のデフォルトはあり得ない」という記事は財政破綻に関する説明に問題は感じない。しかし「デフレ」についての記述には明らかな誤りがある。そこを見ていこう。

大阪ビジネスパーク

【FACTAの記事】

デマンドプルインフレは、経済成長と深い関係にある。というのも、成長する経済は、需要が供給をやや上回った状態にある。需要があるから、企業は設備投資や技術開発投資を行い、労働者は就業機会を得られる。新規設備、新技術、雇用は供給力を高め、経済は成長する。このように、成長する経済は「需要>供給」の状態だから、マイルドなインフレとなる。逆にデフレだと、経済成長は難しい。需要が不足し、企業が積極的な投資を行わないのだから、経済が成長するはずがない。


◎逆も成り立つのでは?

「成長する経済は、需要が供給をやや上回った状態にある」とは限らない。単純化のためにコメだけで成り立っている「経済」を考えてみよう。この国では年間100キロのコメを生産しており、需要も100キロだ(つまり「需要=供給」)。そこで品種改良に成功し、翌年には一気に150キロのコメを作れるようになった。しかし需要は140キロにしか増えず、残り10キロは売れ残って農家の倉庫に眠ったままだ。

この「経済」は「需要>供給」とはなっていない。供給超過だ。結果として「デフレ」になる可能性はあるが、実質ベースで見れば明らかに「成長する経済」だ。

中野氏は「需要」が増えて、それを追いかける形で「供給」が増えると思い込んでいるのかもしれないが、必ずそうなるとは限らない。「供給」増加と価格下落が先行して「成長する」パターンもあり得る。

さらに見ていこう。


【FACTAの記事】

マクロ経済運営上、絶対に避けるべきは、デフレである。デフレとは、言い換えれば、貨幣価値が上昇する現象である。貨幣価値が上昇するなら、誰も投資や消費を行わず、貨幣を貯蓄しておくのが合理的な経済行動となる。したがって、デフレになると、民間主導で投資や消費が増えることは期待できない。そこで、政府が投資や消費を拡大し、需要を増やして、デフレという異常事態を脱却し、マイルドなインフレにしなければならない。インフレになれば、企業や個人は消費や投資をいっそう増やすので、民間主導による正常な経済成長も可能となろう。


◎「誰も投資や消費を行わず」?

「貨幣価値が上昇するなら、誰も投資や消費を行わず、貨幣を貯蓄しておくのが合理的な経済行動となる」から「マクロ経済運営上、絶対に避けるべきは、デフレである」と中野氏は訴える。そうだろうか。

中野氏に言わせれば「平成十年から四半世紀にわたって日本はデフレ」らしい。同意はしないが、この前提で考えてみよう。「平成十年から四半世紀にわたって」日本で「合理的な経済行動」を選んだ人は「誰も投資や消費を行わず」に過ごしていたのか。だとしたら、そうした人の多くはスーパーで食料を購入することもできずに餓死しているだろう。それが「合理的」なのか。

「デフレ」なのにディズニーランドで楽しい時間を過ごした人たちは「合理的な経済行動」ができなかったと見るべきなのか。「貨幣を貯蓄しておく」よりもレジャーに使って人生を楽しみたいと考えるのは非「合理的」なのか。

「投資」に関しても同様だ。ゼロ金利下で物価下落率0.1%の時に株式の期待リターンが5%だとしよう。この状況で株式に「投資」するのは、なぜ「合理的な経済行動」から外れてしまうのか。0.1%の「デフレ」だと株式の期待リターンは自動的に0.1%を下回ると中野氏は考えているのか。

「デフレ」で「貨幣価値が上昇する」からと言って、企業も個人も「投資や消費」をやめてしまう訳ではないし、それが「合理的な経済行動」から逸脱するとは限らない。少し考えれば分かるはずだ。

日本は本当にずっと「デフレ」なのかについても考えてみよう。「日本は、過去二十年以上、デフレという異常事態にあったのであり、平時であったことなどない」と中野氏は言うが「デフレ」かどうかの判断基準には触れていない。

確かに2020年は年間ベースで消費者物価指数が下落した。しかし、総合指数でわずか0.2%。しかも下落は4年ぶりだ。つまり、19年までの3年間は物価はマイナスではなかった。だとすると、消費者物価指数が多少上がっても「デフレ」だと中野氏は認識しているのだろう。

「過去二十年」の消費者物価指数をグラフにしてみると分かるが、物価は下落と言うより横ばいだ。横ばい基調ならば「物価は安定」と見るのが素直だと思えるが、ずっと「デフレ」だったと見なし「異常事態」だと訴える。無理があると言うほかない。


※今回取り上げた記事「日本国債のデフォルトはあり得ない」https://facta.co.jp/article/202112019.html


※記事の評価はD(問題あり)

2021年11月22日月曜日

まともな根拠なしに「ワクチン3回目が必要」と説く日経 滝順一編集委員

日本経済新聞の滝順一編集委員が22日の夕刊ニュースぷらす面に書いた「ニッキィの大疑問~ワクチン3回目なぜ必要? コロナ第6波に備え 抗体活性化」という記事は無理がある。「ワクチン3回目」が「必要」との前提がそもそも引っかかるが、だったら「必要」と言える根拠をしっかり示してほしい。なのに記事には、それが見当たらない。

大阪城

「どうして3回目の接種が必要になるのですか」という問いに対する滝編集委員の答えを見ていこう。


【日経の記事】

ワクチンを接種すると、人間の体内で「中和抗体」が作られます。中和抗体はウイルスの感染力などを抑えるタンパク質で、これによりウイルスへの感染が抑えられます。

しかし、接種してから時間がたつと、体内の中和抗体は減ってしまうことが報告されています。すでに2回接種していても、半年以上が過ぎると、ワクチンの効果が一部薄れてしまうのです。

3回目の接種をすれば、中和抗体は大きく増えることがわかっています。冬は空気が乾燥し、室内での活動も増え感染リスクが高まる傾向にあります。流行の第6波への備えを怠ることはできません。

マスク着用など、基本的な感染防止策は引き続き必要です。そのうえで高齢者や、基礎疾患があってリスクの高い人などは3回目の接種が望ましいと考えられます。

ただ、ワクチンによって活性化される体の防御システム(免疫)は、中和抗体だけではありません。2回目までの接種でできた中和抗体は薄れても、ウイルスを退治する免疫細胞などの働きは残っており、全くの無防備にはなりません。抗体が減っても、入院や重症化を防ぐ効果は持続するという報告もあります。


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる。


(1)薄れてしまう「一部」とは?

「すでに2回接種していても、半年以上が過ぎると、ワクチンの効果が一部薄れてしまう」から「3回目の接種が必要」というのが滝編集委員の答えだ。こんな漠然とした説明しかできないのか。

「一部」とは何を指すのか。そして、どの程度「薄れてしまう」のか。それが分からないと「3回目の接種が必要」かどうか判断できない。そこが記事の肝なのに、さっさと「いつごろ3回目の接種が始まりますか」という話に移っている。無責任が過ぎる。


(2)ワクチンなしは「無防備」?

「2回目までの接種でできた中和抗体は薄れても、ウイルスを退治する免疫細胞などの働きは残っており、全くの無防備にはなりません」と書いてあると、未接種者は「全くの無防備」だと理解したくなる。しかし、未接種者も自然免疫や獲得免疫で「ウイルスを退治する」仕組みを体内に持っている可能性が高い。「ワクチンを接種する」方向に誘導したい気持ちがあるのだろうが、感心しない書き方だ。


(3)だったら「必要」ないのでは?

「2回目までの接種」の後に「抗体が減っても、入院や重症化を防ぐ効果は持続するという報告もあります」と滝編集委員は言う。その「報告」が正しいとの前提で言えば、「2回目までの接種」で十分ではないのか。

「入院や重症化を防ぐ効果」を上乗せできないとすると、何のために「3回目の接種」をするのか。無症状や軽症で済む感染を防ぐためなのか。であればメリットが小さすぎる。


(4)若くて基礎疾患もない場合は?

「高齢者や、基礎疾患があってリスクの高い人などは3回目の接種が望ましい」とも滝編集委員は書いている。裏返せば「高齢者や、基礎疾患があってリスクの高い人など」を除くと「3回目の接種」は必要ないとも取れる。そこもしっかり説明してほしい。

次に「海外の状況」を説明した部分にもツッコミを入れておこう。


【日経の記事】

ワクチン接種が早く進んだイスラエルは8月から3回目接種を開始しました。米国やドイツ、フランス、英国も9月から年齢の高い人や基礎疾患などリスクのある市民に3回目接種を始めました。

これらの国は経済活動の再開に伴い、一度は減少していた感染者が再び増加する傾向にあります。ワクチンの接種率が6~7割と日本(約76%)に比べて低いことも感染者増加の一因と考えられます。


◎ワクチン効果と言える?

日本は「ワクチンの接種率」が高いから「感染者」を抑えられているが、「イスラエル」「米国やドイツ、フランス、英国」では「接種率」が日本より低いから「感染者増加」を招いていると滝編集委員は見ているのだろう。

これは無理がある。まず「約76%」と「6~7割」であれば「接種率」に大きな違いはない。さらに韓国の問題がある。

日経の記事によると「韓国のワクチン接種率は日本とほぼ同じ78%」だが、11月18日には「新型コロナウイルスの新規感染者数が3292人と1カ月半ぶりに過去最多を更新した」らしい。韓国も含めて考えれば「ワクチンの接種率」の差で感染動向を説明するのは困難だ。

滝編集委員には一種のワクチン信仰があるのだろう。科学技術担当の編集委員ならば、そうした信仰の類を排して物事を分析してほしい。


※今回取り上げた記事「ニッキィの大疑問~ワクチン3回目なぜ必要? コロナ第6波に備え 抗体活性化」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211122&ng=DGKKZO77776020S1A121C2EAC000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。滝順一編集委員への評価は暫定でEとする。

2021年11月21日日曜日

小田嶋隆氏は「全面的に支持」の意味を理解してない?日経ビジネス「pie in the sky」

日経ビジネス11月22日号にコラムニストの小田嶋隆氏が書いた「pie in the sky 絵に描いた餅ベーション~小遣いに図書券をくれる人」という記事は苦しい内容だった。「自民・公明両党が、このほど18歳以下の国民に10万円相当の給付を実施することで合意したのだそうだ。全面的に支持する」と小田嶋氏は言う。本当に「全面的に支持」しているだろうか。「いくつかモヤモヤする点がある。以下、列挙してみる」と述べた上で以下の3つの注文を付けている。

大阪ビジネスパーク

1・国策に関わる重大な決定を、国会にはかることなく、どうして与党だけで決めてしまうのか。

2・シンプルに現金10万円を配らずに半額の5万円を「費消先を限定したクーポン」にするのはなぜか。

3・この期に及んで所得制限を検討しているのはなぜか。


そして結論に至る。「というわけで、1・国会の決議を経た上で、2・10万円の全額を現金で、3・即座に、全世帯に配布するのが望ましい支給方法だと私は考えている」と小田嶋氏は言う。

・「半額の5万円」を「クーポン」にするのは反対。「10万円の全額を現金」にするのが望ましい。

・「18歳以下の国民」に限定したり「所得制限」を付けたりするのには反対。「全世帯に配布」するのが望ましい。

これが小田嶋氏の主張だ。「自民・公明両党」の案とはかなり異なる。なのに「全面的に支持」なのか。「全面的に支持」の意味を小田嶋氏は理解しているのか。「大筋で支持」ぐらいの意味で「全面的に支持」と書いている気がする。

記事の終盤にもツッコミどころがある。そこを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

子どもだったころを思い出してみると、小遣いを貰う立場の者としてなによりうれしかったのは現金だ。図書券とか書籍とか知育玩具とかをよこす大人には、むしろ敵意を持ったものだ。なぜなら「君にはこれがふさわしい」という押し付けは、当方の自己決定権を踏みにじる抑圧だからだ。


◎「書籍とか知育玩具」は「小遣い」?

「小遣いを貰う立場の者としてなによりうれしかったのは現金だ。図書券とか書籍とか知育玩具とかをよこす大人には、むしろ敵意を持ったものだ」と小田嶋氏は言う。「図書券」は微妙だが「書籍とか知育玩具」は「小遣い」ではない。

「大人」から「書籍とか知育玩具」をもらった時に「小遣い」をもらったと小田嶋氏が認識していたのであれば、「小遣い」の意味を理解していなかったと見るべきだろう。

「小遣い」に関して日本大百科全書(ニッポニカ)は「小遣い銭の略で、ここでは、自分の意志により自由に使うことが許されている、子供のもつ金銭のことをいう」と解説している。「図書券」でさえ「小遣い」に含めるのは苦しい。

付け加えると「『君にはこれがふさわしい』という押し付けは、当方の自己決定権を踏みにじる抑圧」だとも思えない。例えば「書籍」を与えられて強制的に読書をさせられたのならば「自己決定権を踏みにじる抑圧」との見方に納得できる。

「いい本だからお薦めだよ。興味がなかったらゴミ箱に捨てといて」と言って「書籍」を渡された場合、読む気にならなければ勝手に処分すればいいだけの話だ。どこに「自己決定権を踏みにじる抑圧」があるのか。

結びのくだりも見ておこう。


【日経ビジネスの記事】

「でも、現金だとバカな使い方をするからなあ」と思っている人は、ぜひ胸に手を当てて自分の子ども時代を思い出してほしい。「バカな使いみちにつぎこんだお金」が、現在のあなたをつくっているのではないか?

私はそうだ。バカだったからこそ、いまこうして暮らしていられる。


◎それだけじゃないような…

「『バカな使いみちにつぎこんだお金』が、現在のあなたをつくっているのではないか」と小田嶋氏は問いかける。これに対する答えは「『バカな使いみちにつぎこんだお金』も『書籍とか知育玩具』も、現在の自分を形作る要素になっている」といったところか。

子供の頃、自分の部屋には世界地図と日本地図が貼ってあった。親が勝手に貼ったものだ。特に何を学べとも言われた記憶はないが、これらの地図で都道府県名や国名をいつの間にか覚えてしまっていた。

「現金」はくれずに「君にはこれがふさわしい」という親の思い込みで地図は購入され、部屋に貼られたのだろう。だが、これが日本や世界に関心を持つきっかけになった。「バカな使いみちにつぎこんだお金」だけが「現在のあなたをつくっている」訳ではない。

世の中はそんなに単純ではない。そのことを「バカだったからこそ、いまこうして暮らしていられる」小田嶋氏には分かってほしい。


※今回取り上げた記事「pie in the sky 絵に描いた餅ベーション~小遣いに図書券をくれる人」

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00139/


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

試合時間が長いと番狂わせが起きやすい? 小田嶋隆氏のサッカー論に見える誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_24.html

コロナ楽観論者が医療システムに「テロ行為」? 小田嶋隆氏の衰えが辛いhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_4.html

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html

「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_25.html

「女性側に原因がないこともない」を「失言」と見なす小田嶋隆氏に異議https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_27.html

「彼女が中止のホイッスルを吹く日」に期待する小田嶋隆氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_16.html

日経ビジネスでの橋下徹氏批判に見える小田嶋隆氏の「あまりにも粗雑な詭弁」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/blog-post.html

2021年11月19日金曜日

MMTに対する中空麻奈氏の誤解が凄い日経「エコノミスト360°視点」

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏を記事の書き手としては評価していない。19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「エコノミスト360°視点~財政再建の第一歩は『無駄』の排除」という記事でも、雑な主張が目立った。一部を見ていこう。

大阪城

【日経の記事】  

持続可能な社会をつくるには、財政規律を守りキャッシュフローを潤沢に回す仕組みが肝要だ。それが財政再建の着実な推進につながる。

それでも、財政再建を振りかざした途端、いくつもの反論が出てこよう。代表的なものとして3つ挙げる。第1に、金利が低い間はどれだけ借金しても問題はないとする、いわゆる現代貨幣理論(MMT)。第2に、借金に注目する際は莫大な資産に着目せよ、とする考え方。第3に、借金として財務省が発行する日本国債は日銀が購入すればよく、統合政府ベースではネットで負債は減少するというバランスシート統合論だ。


◎金利の問題?

中空氏は「MMT」を誤解しているようだ。「MMT」とは「自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥ることはあり得ないから、高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」(「全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室」より)という理論だ。

「金利が低い間はどれだけ借金しても問題はない」とは言っていない。インフレ率と金利は連動しやすいが、必ず連動する訳ではない。「金利が低い」としても「高インフレ」になってくれば話は別だ。この時に「どれだけ借金しても問題はない」と「MMT」は考えない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

MMTはいくつもの制約と仮定のもとに成り立つ恒等式にすぎないうえ、金利が十分に低くとも元本が増えれば財政の悪化に歯止めはかからない。日本の資産に計上される空港や防衛施設などの公用地や外交上も有効な米国債などは軽々に売却できない。また、独立している日銀のバランスシートを統合して帳面上ネットゼロを果たしたところで、負債残高が消えるわけではない、のである。


◎やはり理解してない?

やはり中空氏は「MMT」を理解していないようだ。「金利が十分に低くとも元本が増えれば財政の悪化に歯止めはかからない」と書いているが、そもそも「MMT」は「金利が十分に低ければ財政の悪化に歯止めをかけられる」と訴えている訳ではない。インフレを抑えられている状況であれば「財政の悪化」を問題視する必要がないと唱えている。

ここから中空氏はさらに無理のある主張を展開していく。見ておこう。

【日経の記事】

しかし、言い古された考え方を蒸し返すことがここでの本意ではない。力説したいのは財政再建派と、基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化を一時凍結し景気を優先するいわゆるリフレ派の、二項対立での捉え方からそろそろ卒業すべきではなかろうか、という点だ。

リフレ派とて、景気が上昇した暁には財政再建を目指すのであろうし、財政再建派も堅調な景気回復を完全に諦めたわけではない。ただ、20年間にわたって1%にも届かないような成長しかしていない日本で、過度に楽観的な景気回復シナリオを描くのは幻想が過ぎるだろう。


◎まとめて「リフレ派」?

「リフレ派の主張は、政府・中央銀行が数パーセント程度の緩慢な物価上昇率をインフレターゲットとして意図的に定めるとともに、長期国債を発行して一定期間これを中央銀行が無制限に買い上げることで、通貨供給量を増加させて不況から抜け出すことが可能だとするもの」(知恵蔵)だとしよう。

中空氏は「MMT」と「借金に注目する際は莫大な資産に着目せよ、とする考え方」と「バランスシート統合論」をひとまとめにして「リフレ派」と呼び、「財政再建派」との「二項対立」があると説く。

「MMT」論者は基本的に「リフレ派」ではない(重なる人も多少はいるだろうが…)。「MMT」はインフレ警戒的だ。インフレ歓迎的な「リフレ派」とは、あまり相性が良くない。

中空氏は「MMT」(あるいは「リフレ派」)への理解を欠いたまま「リフレ派とて、景気が上昇した暁には財政再建を目指すのであろう」と推測している。

「MMT」では「景気が上昇した」からと言って「財政再建を目指す」ことはない。インフレが抑えられている前提で言えば「景気が上昇した」としても、国民にとってプラスとなる財政支出があれば「財政再建」など気にせずに支出すべきとなる。

ここでは代表的な「MMT」論者であるステファニー・ケルトン氏が書いた「財政赤字の神話~MMTと国民のための経済の誕生」の一部を引用しておこう。


【本の引用】

国家として財政の均衡を目指すのをやめ、経済の均衡を回復させることに積極的に取り組んだらどうだろう。MMTのレンズに基づく財政運営では、特定の財政上の結果を目指すことは一切ない。財政赤字の増加は赤字の縮小、あるいは財政黒字と同じように許容されるべきものだ。重要なのは財政年度の終了時点で予算の枠からこぼれ落ちた数字ではない。誰もが生き生きと暮らせる、健全な経済の実現こそが重要だ。働きたいと思う人全員に行き渡るだけの、正当な報酬を支払う仕事はあるだろうか。国民は必要な医療と教育を受けられているだろうか。高齢者は尊厳ある第二の人生を送れるだろうか。すべての子供に十分な食べ物、きれいな飲み水、安全な住居があるだろうか。地球が生存可能な惑星であり続けるように、できることはすべてやっているだろうか。要するに、私たちは本当に重要な「赤字」に対処しているだろうか。


◇   ◇   ◇


これだけでも読めば「MMT」が「景気が上昇した暁には財政再建を目指す」ものではないと分かるはずだ。とりあえず「財政赤字の神話」だけでも中空氏には読んでほしい。

「MMT」は「金利が低い間はどれだけ借金しても問題はない」とは唱えていないし、「リフレ派」でもないし、「景気が上昇した暁には財政再建を目指す」訳でもない。

そこを理解しないと話は始まらない。出発点で躓いていることに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「エコノミスト360°視点~財政再建の第一歩は『無駄』の排除」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211119&ng=DGKKZO77686420Y1A111C2TCR000


※記事の評価はE(大いに問題あり)中空麻奈氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/bnp.html

日経「エコノミスト360°視点」に見えるBNPパリバ 中空麻奈氏の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/360bnp.html

「『長年の謎』から格付けの意義を問う」中空麻奈氏に感じた「謎」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_10.html

日経「エコノミスト360°視点」でBNPパリバ証券 中空麻奈氏が見せた市場への理解不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/360bnp.html

2021年11月18日木曜日

ユーロ下落でも円の「独歩安」と書いた日経に問い合わせ

日本経済新聞の「円の実力、低下傾向続く~実質実効レートが50年ぶり水準に接近 円安、成長に寄与せず」という記事には2つの問題を感じた。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

大阪城

【日経への問い合わせ】

18日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「円の実力、低下傾向続く~実質実効レートが50年ぶり水準に接近 円安、成長に寄与せず」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

「21年になると円の実質実効レートは9%下げ、主要通貨で独歩安になった。ドルは5%上昇し、ユーロは3%の下落にとどまる。新型コロナウイルス禍からの経済回復過程で、日本の物価が海外と比べて上がらないことが影響している」

「独歩安」とは「為替相場で、単独の通貨のレートだけが下がること」(デジタル大辞泉)です。「主要通貨」を「円」「ドル」「ユーロ」とした場合、「円」が「主要通貨で独歩安になった」のならば「ドル」と「ユーロ」は「上昇」しているはずです。しかし「ユーロは3%の下落」。つまり「円」の「独歩安」ではありません。「ドル」の「独歩高」です。

「円」が「主要通貨で独歩安になった」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、もう1つ指摘しておきます。

「円の実質実効レート」が下がった要因について「日本の物価が海外と比べて上がらないことが影響している」と書いています。この説明は間違いではないものの不適切です。

物価上昇率が低い国の通貨は名目レートが上昇するのが基本です。本来ならば「日本の物価が海外と比べて上がらない」場合は名目レートが円高となり調整されます。その調整が進まないから「円の実質実効レート」が低下していると見るべきでしょう。

なぜ調整が起きないのか。そこを解説しないと「円の実質実効レート」が下がっている理由は見えてきません。

「日本の物価が海外と比べて上がらないことが影響している」のならば、物価が上がれば「円の実質実効レート」も上がっていくはずだと多くの読者は思うでしょう。しかし、相対的に物価上昇率が高くなれば名目レートに下押し圧力がかかると考えるべきです。

記事の筆者は、物価動向が名目レートに与える影響を無視したまま「円の実質実効レート」の下落を論じているのではありませんか。

問い合わせは以上です。「独歩安」に関しては回答をお願いします。日経では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表するメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「円の実力、低下傾向続く~実質実効レートが50年ぶり水準に接近 円安、成長に寄与せず」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211118&ng=DGKKZO77663310X11C21A1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年11月17日水曜日

「現在世代の消費」に使うと「将来世代に残るのは借金だけ」と誤解した東洋経済の野村明弘氏

週刊東洋経済の野村明弘氏は財政問題で誤解があるようだ。11月20日号の「ニュースの核心~衆院選『分配論争』への大いなる疑問」という記事からは、そう判断できる。問題のくだりを見ていこう。

大阪城公園

【東洋経済の記事】

一方、選挙で主張された「減税や現金給付で国民の可処分所得を増やす」というのは分配政策ではなく、再分配政策だ。ただし、誰から誰への分配かが重要だ。

大規模金融緩和による超低金利が長期化する中、与野党はこうした政策を国債発行で賄う姿勢をますます強めている。積み増される国債の負担を被るのは将来世代だ。道路や橋など社会インフラへの支出や投融資に使われるのであれば、将来世代には資産も一緒に引き継がれるが、現在世代の消費のために使われるとあっては、将来世代に残るのは借金だけだ。これでは、将来世代から現在世代への再分配といえなくもない。


◎「国債」が資産として残るはずだが…

政府が「現在世代」に「現金給付」をして、それが「現在世代の消費のために使われる」としよう。この場合「将来世代に残るのは借金だけ」だと野村氏は言う。明らかな誤解だ。

「こうした政策を国債発行で賄う」前提で考えてみよう。記事には「主たる国債保有者である高資産家・高所得者」との記述もあるので、とりあえず「高資産家・高所得者」が「国債」の保有額を積み増すとしよう。

この枠組みでは「将来世代に残るのは借金だけ」とはならない。「高資産家・高所得者」の資産を相続する「将来世代」が「国債」を資産として引き継ぐ。

「道路や橋など社会インフラへの支出や投融資に使われるのであれば、将来世代には資産も一緒に引き継がれる」と野村氏は言う。これも間違っていないが「現在世代の消費のために使われ」たからと言って「将来世代に残るのは借金だけ」とはならない。国内で国債を引き受けていれば「将来世代」には「国債」自体が資産として残る。

記事の続きも見ておこう。


【東洋経済の記事】

また、日本の公的債務残高が主要国で最悪の水準にある中、将来、インフレや金利上昇の局面に遭遇した場合はどうなるか。

政府は財政を持続させるために増税や給付カットを行い、そこで得たお金を国債の元利払いに充てるだろう。「増税や給付カットで影響の大きいのは中・低所得者。彼らから、主たる国債保有者である高資産家・高所得者へ所得が“逆再分配”されることになる」(権丈氏)。


◎「財政を持続させるため」?

政府・日銀には日本円を無限に創出する力がある。なので「インフレや金利上昇の局面に遭遇した場合」でも「財政を持続させるため」に「増税や給付カット」に踏み切る必要はない。ここも野村氏は誤解しているのではないか。

「インフレ」に問題ありとは言える。許容範囲を超えた「インフレ」を抑えるためには「増税や給付カット」も必要だ。ただ「増税や給付カットで影響の大きいのは中・低所得者」という決め付けが謎だ。やり方次第だろう。

「高資産家・高所得者」の負担が重くなるように「増税や給付カット」を進めればいいだけの話ではないか。「高資産家・高所得者へ所得が“逆再分配”されることになる」のが避けられないと思わせるような書き方は感心しない。

話をまとめよう。

必要があれば「現在世代の消費のために使われ」るとしても「国債」に頼って「再分配政策」を進めていい。「将来世代に残るのは借金だけ」というのは誤った認識だ。

結果として「インフレ」がひどくなってくれば「増税や給付カット」も選択肢に入るが「中・低所得者」への影響を相対的に小さくするやり方はいくらもある。

この結論に、どこかツッコミどころがあるだろうか。もし思い付かないのならば、野村氏には従来の認識を改めてほしい。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~衆院選『分配論争』への大いなる疑問」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28761


※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html

「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html

「最悪の事態」が起きない前提で「最悪シナリオ」を描く東洋経済 野村明弘氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_15.html

2021年11月16日火曜日

日経の「豪国防相、台湾有事で米国支援を明言」という記事は興味深い

14日付の日本経済新聞電子版に松本史記者が書いた「豪国防相、台湾有事で米国支援を明言~現地報道」という記事は興味深い。「台湾有事」に関して日本の選択を考える上で参考になる。一部を見ていこう。

大阪城

【日経の記事】

オーストラリアのダットン国防相は14日までに地元紙のインタビューに応じ、台湾有事の際に米国を支援する姿勢を明確にした。中国に対する豪州の強硬姿勢を改めて示した形で、外国による台湾問題への介入に警戒を強める中国からの反発は必至だ。

ダットン氏は豪紙「オーストラリアン」に対し、台湾を巡る有事の際に「もし(同盟国である)米国が行動を起こすことを選択したら、我々が米国を支援しないことは考えられない」と述べた。また台湾に対する中国の意図は明確だとし「高い水準で準備を行い(軍事的)能力による強い抑止力を持つべきだ」と強調した。

ダットン氏は今年3月に国防相に就任した。モリソン政権内でも対中強硬派として知られる。4月に台湾有事について「軽視すべきとは思わない」と発言したほか、有事の際には米国と足並みを揃える姿勢も示唆していた。


◎オーストラリアが戦うなら…

「支援」が何を指すのか必ずしも明確ではないが、「オーストラリア」は「台湾を巡る有事の際」に「米国」とともに戦う覚悟を決めたのだろう。

そこで日経(特に、日米同盟強化を訴えるのが大好きなベテランの書き手)に考えてほしいのが日本の針路だ。日米同盟強化を支持する立場からは「オーストラリアに負けず米国への忠誠を誓おう。米国が中国と戦う時は日本も全面参戦だ」となるのが自然だ。

そう訴えたいなら、それでいい。とにかく立場を明確にしてほしい。

「米国やオーストラリアが中国と戦うとしても、日本は巻き込まれたくない」と願うのならば、「日米同盟強化」と念仏のように唱えるだけではダメという話になるはずだ。

単純に言えば「日米同盟強化(属国路線継続)」と「対中戦争回避」の選択になる。

「どちらも大事。だから、どちらかを選ばなければならない事態については考えない」というのが今の日経の立場のように見える。その思考停止状態からぜひ抜け出してほしい。


※今回取り上げた記事「豪国防相、台湾有事で米国支援を明言~現地報道」


※記事の評価はC(平均的)。松本史記者への評価は暫定Dから暫定Cへ引き上げる。松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心な情報をなぜ抜いた? 日経 松本史記者の「豪カンタス航空、1500億円最終赤字」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1500.html