2015年12月2日水曜日

JリーグCS「誤解」あった? 日経 吉田誠一編集委員に問う

2日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に 吉田誠一編集委員が書いていた「フットボールの熱源~難解で意地悪なリーグ」というコラムに引っかかる説明があった。経済記事ではないが、取り上げてみたい。Jリーグチャンピオンシップ(CS)準決勝で勝敗を誤解したファンがいたらしいと吉田編集委員は述べている。しかし、誤解が生じる余地はほとんどなかったように思える。

ビューホテル平成(福岡県朝倉市)から見た筑後平野
               ※写真と本文は無関係です
まずは記事の内容を見てみよう。

【日経の記事】

Jリーグチャンピオンシップ(CS)準決勝の後半が1―1のまま終わった瞬間、浦和の決勝進出が決まったと思ったファンがいたらしい。勘違いのもとにあるのはJ1昇格プレーオフのレギュレーションだろう。

J2の3~6位が戦うJ1昇格プレーオフは90分を同点で終わった場合、リーグ戦の成績上位チームが勝者となる。1年を通した戦いで決まった順位の優位性を確保するためそうなっている。

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吉田編集委員はこの試合をテレビで見ていなかったのだろう。放送中にアナウンサーは「上位チームにアドバンテージはない」「この試合に勝った方が決勝進出」「延長もあり。それでも決着が付かなければPK戦」と繰り返し伝えていた。それでも「1―1のまま終わった瞬間、浦和の決勝進出が決まったと思った」と勘違いしたのならば、勘違いする方に問題がある。

「スタンドで応援していた人が誤解した」という可能性はある。しかし、吉田編集委員は「(大会規定は)もちろん、それぞれの大会に足を運べば頭に入る」と書いている。スタジアムではきちんとした説明があるのだろう。ならば、テレビ観戦でもスタンド観戦でも、よほどボケていない限り誤解する人はいないはずだ。

そうやって考えると「浦和の決勝進出が決まったと思ったファンがいたらしい」という曖昧な書き方が気になってくる。誤解した人が本当にいるのかどうか、吉田編集委員も確認していないのではないか。「難解で意地悪」と訴えようとして無理のある説明になったと疑われても仕方がない。

ついでに、吉田編集委員の言う「難解で意地悪」についても私見を述べてみたい。

【日経の記事】

この規定に照らしてしまうと、CS準決勝は後半終了時点で年間勝ち点2位の浦和が同3位のG大阪を退けたという勘違いが起こる。ところがJ1では年間勝ち点の優位性が完全には尊重されておらず、浦和は延長戦で敗れ決勝に進めなかった。年間順位は3位に落ち、現時点ではアジア・チャンピオンズリーグをプレーオフから戦わなければならない立場となった。尊重するものが統一されていないのは、リーグの思想が定まっていないとしか思えない。

それにしてもJリーグの大会方式はややこしい。J2・J3入れ替え戦はJ1昇格プレーオフと違い、CS決勝と同じようにホームアンドアウェー方式で行われる。J2とJ3の実施要項が異なるため、J3チームのホームゲームはベンチ入り16人、交代は5人までだが、J2チームのホームではベンチ入り18人、交代は3人までというのも頭が混乱する。さすがに来季は実施要項をそろえるという。

Jリーグは3部リーグ構成に発展したが、統一感に欠ける難解な代物になっている。すべての大会規定を把握しているファンはどのくらいいるのだろう。もちろん、それぞれの大会に足を運べば頭に入る。つまり入場料がJリーグの大会規定、実施要項を学ぶ授業料になっているわけだ。何て意地悪なリーグなんだろう。

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ややこしいのは確かだが「何て意地悪なリーグなんだろう」とは思えなかった。自分がCSの準決勝をテレビ観戦したのは、ガンバ大阪を応援しているからだ。「J2・J3入れ替え戦」はスポーツニュースで見る程度の関心しかない。J1・J2・J3を通してしっかり見ている人などいないとは言わないが、かなりの少数派だろう。吉田編集委員のようなサッカー記者ならば全体を見るスタンスになるのは分かる。だが、大多数の観戦者はひいきチームを軸に見ているはずだ。分かりやすくした方が好ましいのは否定しないが、少なくとも個人的には「統一感」が欲しいとは感じなかった。

「それぞれの大会に足を運べば頭に入る。つまり入場料がJリーグの大会規定、実施要項を学ぶ授業料になっているわけだ。何て意地悪なリーグなんだろう」との吉田編集委員の訴えにも同意できない。「Jリーグの大会規定、実施要項を学ぶだけでゲームは観戦できない」というのならば、もちろん「意地悪」だ。しかし、入場料を払えばゲーム観戦はできるはずだ。ならば、ついでに大会規定を学べることに不満はない。むしろスタジアムでは大会規定をしっかり学ばせてほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。過去の記事も考慮に入れて吉田誠一編集委員の評価はDとする。過去の記事については「日経 吉田誠一編集委員 D評価の理由」を参照してほしい。

「プロの選び方」に異議あり! 東洋経済「マンション特集」(2)

週刊東洋経済12月5日号の第1特集「これからのマンション選び」の中に出てくる「プロの選び方教えます~タワマンは北向き・低層を狙え」(筆者はスタイルアクト社長の沖有人氏)という記事の問題点を引き続き解説していく。
大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

「自分の身の丈に合った物件を選ぶ」とよく聞くけれど、それはダメですね。30代前半でマンションを買うときに、今の身の丈に合わせてどうするんですか。

どんなマンションを買っても、相場が変動しないなら、毎年約100万円値下がりする。どのマンションも下落幅は同じです。率で考えれば高い物件の方がいい。背伸びするぐらいがちょうどいいのです。

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上記の説明も謎だ。「頭金1000万円で4000万円のマンションを買うのが身の丈に合っている」と思っている人は5000万円とか6000万円のマンションを買うべきだと沖氏は考えているのだろう。しかし根拠は示していない。「これから収入が大幅に増える」「家族がどんどん増えていく」という見通しがあるなら別だが、そうではない人が余計なローンを抱え込むことに何の意味があるのか分からない。

収入減による住宅ローン破綻を避けたいと考えるならば、今の身の丈よりもやや低めで考える方が無難だ。30代前半のときの収入が長期にわたって保証されているわけではないことを十分に考慮したい。

「どんなマンションを買っても、相場が変動しないなら、毎年約100万円値下がりする。どのマンションも下落幅は同じです。率で考えれば高い物件の方がいい」という説明も納得できなかった。どのマンションも経年劣化で等しく価値が年間100万円低下するとしよう。自分ならば、5000万円のマンションよりも3000万円のマンションの方が好ましいと思える。

30代前半で購入して50年間住む場合、50年間の価値低下額は5000万円のマンションが5000万円で、3000万円のマンションが3000万円だ。3000万円のマンションの方が低下額が2000万円も少ない。死ぬまで住み続ける前提で買うのならば、価格が低めのマンションを狙う方が得策との結論になる。


【東洋経済の記事】

マクロ経済の動向にも関心を持ってください。特に注目すべきは金融政策です。下図のように、マンション価格は銀行の不動産に対する短期の貸出態度と強い相関関係があります。相関係数は実に0.9以上です。ここまで相関があるのは、住宅市場が大きく、価格の変動幅が限られているからです。オフィスや商業用不動産のように需給によって価格が上下しやすい場合、ここまでの連動性はありません。

金融緩和は2018年までは続くでしょうから、そこまではマンション市況は堅調でしょう。しかしその先は上がるときもあれば、下がるときもあるというサイクルに入る。貸出態度指数を見て下がる予兆があれば、そのときに売却してしまって、しばらく賃貸に住むというのも1つの方法です。

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「ここまで相関があるのは、住宅市場が大きく、価格の変動幅が限られているから」という説明が謎だ。まず、市場が大きいと価格の変動幅が限られるのだろうか。為替市場や株式市場は、市場規模が小さいから価格が変動しやすいのだろうか。しかも「価格の変動幅が小さいから貸出態度指数と相関関係が生じる」という説明も疑問だ。これでは「なぜ連動するか」の説明になっていない。価格の変動幅が小さいものは全て貸出態度指数と連動するわけでもないだろう。

書き方が曖昧なので推測も入るが、沖氏は「金融緩和→貸出態度指数上昇→マンション価格上昇」という因果関係を想定しているのだろう。だとすると「金融緩和は2018年までは続くでしょうから、そこまではマンション市況は堅調でしょう」と書いているのも分かる。

ただ、これは記事に付けたグラフと整合しない。貸出態度指数と賃貸住宅価格は2007年まで上昇した後、08年、09年と急落している。リーマン・ショック後の景況感の悪化が関係しているのだろう。この局面でも金融緩和は続いていた。ゆえに、金融緩和が続く限り「マンション市況は堅調」とは言えない。因果関係で考えるならば「景気が悪くなると、その影響で貸出態度指数もマンション相場も下がりやすい」といったところか。

マンション価格の動向を沖氏の言い方に倣って述べるならば「これまでも、そしてこれからも、マンション相場は上がるときもあれば下がるときもある」となる。当たり前過ぎるが、そう言うしかない。


※記事の評価はD(問題あり)。沖有人氏の評価も暫定でDとする。

2015年12月1日火曜日

「プロの選び方」に異議あり! 東洋経済「マンション特集」(1)

「ここに書いてあることを信じてマンションを買ってはダメだ」と声を大にして言いたい記事が、週刊東洋経済12月5日号の第1特集「これからのマンション選び」の中にあった。スタイルアクト社長の沖有人氏が書いている「プロの選び方教えます~タワマンは北向き・低層を狙え」という記事だ。何が問題なのか具体的に解説してみる。

【東洋経済の記事】

それでもやっぱりマンションは「買いたいときが買いどき」です。物件価格低下の懸念があっても、それに備えてリスクヘッジすればいい。たとえば住宅ローン金利を低く抑える。頭金をできるかぎり積み、価格が下がったときにすぐに売れるようにする、といった具合です。

シーサイドももち海浜公園(福岡市早良区) ※写真と本文は無関係です
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まず、なぜ「買いたいときが買いどき」なのか根拠を示していない。理由もなしに「買いたいときが買いどき」と言われても納得できない。

さらに問題なのは「物件価格低下の懸念があっても、それに備えてリスクヘッジすればいい」という主張だ。沖氏は「住宅ローン金利を抑えた上で頭金をたくさん積めばリスクヘッジになる」と考えているのだろう。しかし、これではリスクヘッジ(相場変動などによる損失の危険を回避すること)にはならない。

沖氏の教えを参考にして全額現金(つまりローン金利の負担ゼロ)でマンションを買うとしよう。これで「価格低下の懸念があってもリスクヘッジはできている」と言えるだろうか。ローンを組んでいても全額現金でも、5000万円で買ったマンションの時価が3000万円になれば2000万円の含み損を抱える。損失はヘッジありでもヘッジなりでも同額だ。マンション相場が下がると利益が出るような金融商品を買ったりすれば、ヘッジにはなる。しかし、ローン金利を抑えてもヘッジにはならない。資金面で損失に耐えやすくなるだけだ。

百歩譲って「住宅ローン金利を低く抑える」ことがリスクヘッジになるとしても、そんな簡単な話ではないはずだ。基本的に、市場の実勢からかけ離れた低い金利で融資を受けるのは難しい。工夫の余地がないとは言わないが、他の条件を変えずに金利だけを市場実勢より低く抑えるのは至難だろう。簡単にできるのならば、沖氏には具体的な方法を紙面で示してほしかった。

この記事は他にも問題を感じた。それらについては(2)で述べる。

※(2)へ続く。

2015年11月30日月曜日

「ケタ違いの衝撃」どこへ? 早くも息切れ日経「新産業創世記」  

日本経済新聞朝刊1面で連載中の「新産業創世記」が早くも息切れ気味だ。第2部のテーマは「ケタ違いの衝撃」なのに、第3回の「価値10億ドルの『爆速ベンチャー』続々 既存の業界覆せ」では「ケタ違いの衝撃」が記事に見当たらなくなってしまった。今回の記事に「ケタ違いの衝撃」は本当にないのか。記事を見ながら検証したい。

【日経の記事】


御船山(佐賀県武雄市) ※写真と本文は無関係です
「もうメールには戻れない」。宿泊予約サイト運営の一休でシステム開発部長の笹島祐介(31)がほれ込むサービスがある。メッセージ送信もファイル交換もワンタッチ。ゲーム感覚で同僚や取引先と交流できる。米スラック・テクノロジーズが提供するコミュニケーションツールだ。

世界で「スラック旋風」が吹き荒れる。サービス開始からたった2年。利用者数は世界で170万人に達する。ネット上で「気軽に使える」と評判を呼び、ケタ違いのスピードで広まる。

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まず「スラックの利用者数」について考えたい。「ケタ違いのスピードで広まる」と書いているのだから、「ケタ違いの衝撃」の有力な候補だ。しかしスラック以外がどうなのかを書いていないので、「ケタ違い」かどうか判然としない。それに「2年で170万人」がケタ違いなのかも疑問だ。例えばLINEは2011年のサービス開始から1年余りで登録ユーザー数が5000万に達したらしい。スラックと単純に比較してよいのか分からないが、スラックの方がケタ違いに遅いスピードのようにも見える。

別の候補も見てみよう。

【日経の記事】

未上場ながら推定企業価値は28億ドル(約3400億円)。1975年に創業した米マイクロソフトの時価総額がこの規模に達するのに12年かかった。スラックはその6倍速で成長していることになる。最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールド(42)は「マイクロソフトから主役を奪う」と野心を隠さない。

ユニコーン(一角獣)。設立間もないのに企業価値が10億ドル(約1200億円)を超えるベンチャーは伝説の生き物に例えられる。米調査会社のCBインサイツによるとスラックのような企業は10月時点で世界で141社、企業価値の合計は5060億ドルに達する。マイクロソフトを超え、米アップルに迫る金額だ。

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スラックの成長スピードが「ケタ違いの衝撃」の正体なのかとも考えたが、マイクロソフトと比べると「スラックはその6倍速」らしいので、ケタ違いとは言えない。やはり本命は見出しにもなっている「企業価値が10億ドル」だろう。しかし、これのどこが「ケタ違いの衝撃」なのか不明だ。

例えば「2~3年前までは、どんな有力企業でも上場前の価値はせいぜい1億ドル止まりだった」という状況があれば、企業価値10億ドルの未上場ベンチャーがごろごろしている現状を指して「ケタ違いの衝撃」と形容してもいいだろう。

ところが、そんな説明はどこにもない。ユニコーン企業が増えていると分かるデータさえ示していない。未上場で10億ドル以上の価値を持つベンチャー企業は過去にもそこそこ存在した。2004年に上場したグーグルの上場直後の時価総額が約230億ドルだから、未上場でも100億ドル以上の企業価値は軽くあったはずだ。

結局、記事には「ケタ違いの衝撃」がどこにもない。そこで中身のなさを何とかごまかそうとしたのだろうか。例によって苦しい盛り上げ方をしている。「スラックのような企業は10月時点で世界で141社、企業価値の合計は5060億ドルに達する。マイクロソフトを超え、米アップルに迫る金額だ」という部分だ。

ユニコーン企業141社が協力して事業を進めていくのならば、企業価値を合計してマイクロソフトやアップルと比べるのもまだ分かる。しかし、そうではない企業141社の合計がマイクロソフトを超えても、何の意味もないだろう。

取材班では「ケタ違いの衝撃」と言える事例を連載回数と同じだけ用意できたから「このタイトルで行こう」と決めたのではないのか。今回の記事を見ると、見切り発車で企画が動き出したようにも思える。「やっぱり毎回『ケタ違いの衝撃』を見せるなんて無理だよ」といった嘆き節が取材班の中で漏れていなければいいのだが…。

※記事の評価はD(問題あり)。

何のためのパリ取材? 産経 松浦肇編集委員への注文(2)

週刊ダイヤモンド12月5日号に松浦肇・産経新聞ニューヨーク駐在編集委員が書いていた「World Scope (from 米国)~ パリ同時テロの実行犯は 『ホーム・グロウン』型  根っこに国内政策の失敗」という記事について、さらに問題点を指摘していく。


【ダイヤモンドの記事】
CCCが指定管理者となっている武雄市図書館(佐賀県武雄市) 
                ※写真と本文は無関係です


米国では、2013年4月にボストンのマラソン大会で起きた爆弾テロ事件が「ホーム・グロウン」の最たる例。チェチェン系移民の家庭に育った兄弟が犯人だったのだが、「ホーム・グロウン」のリスクは欧州の方が高い。

欧州には、2000万人のイスラム系がおり、うち約500万人がフランスに住んでいる。イスラム系の人口比率はフランスで10%弱、ベルギーで6%、英独で5%程度とされており、米国の1%を上回る。

欧州のイスラム系移民にとって、社会同化は困難だ。法制面では平等だが、イスラム系が多い地区に住み、若者は就職難で失業率が高い。経済格差に対する不満がくすぶっている。

そこに、過激派組織「イスラム国」(IS)が目を付けたわけだ。米連邦捜査局によると、ISは23カ国の言葉を使い、SNS経由で募集活動しているが、パリのテロ事件を首謀したアバウド容疑者がプロパガンダ活動を担当していた。

襲撃犯たちは依存体質にあり、洗脳されたのだ。国際政治の要素はなかったが、1995年に起きたオウム真理教事件の「デジャビュ(既視感)」である。

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まず「襲撃犯たちは依存体質にあり、洗脳されたのだ」と断定しているのが気になる。襲撃犯の横顔がようやく浮かび上がってきた段階で「洗脳された」と言い切れる根拠はあるのか。死亡した襲撃犯も多いのだから、洗脳されていたかどうかを判定するのは、かなり困難だと思える。襲撃犯全員が「依存体質にあり、洗脳されていた」と松浦編集委員は短期間にどうやって判断したのだろうか。推測に基づく断定でなければよいのだが…。

「1995年に起きたオウム真理教事件の『デジャビュ(既視感)』である」との見方にも同意できない。オウムの事件では、事件に関わった人物に高学歴の人間が多かったことが知られている。「若者は就職難で失業率が高い。経済格差に対する不満がくすぶっている」というイスラム系住民の置かれた環境にテロの原因を求めているのであれば、オウムの事件とはかなり様相が異なる。

結局、パリまで行って取材してみても「語るべき何か」を松浦編集委員は見つけられなかったのだろう。それはそれで仕方がない。「だったら、さっさと諦めて別のテーマで記事を書けばよかったのに…」とは思う。何といってもタイトルに「from 米国」と付いているのだから、米国発の情報を伝えるのが本筋だ。

今回のようなレベルの記事しか書けないのであれば、「from 米国」という制約を無視してまでパリ同時テロを語る意義はなかったと結論付けたい。


※記事の評価はD(問題あり)。松浦肇編集委員の評価もDを据え置く。この書き手については「『金融危機から6年』? 産経の松浦肇編集委員へ質問」も参照してほしい。

何のためのパリ取材? 産経 松浦肇編集委員への注文(1)

誰でも書けそうな話を改めて書かれると、カネを払って雑誌を読んでいるのが無意味に思えてくる。週刊ダイヤモンド12月5日号に松浦肇・産経新聞ニューヨーク駐在編集委員が書いていた「World Scope (from 米国)~ パリ同時テロの実行犯は 『ホーム・グロウン』型  根っこに国内政策の失敗」という記事は、その典型だ。
英彦山の登山道(福岡県添田町)
     ※写真と本文は無関係です

「欧州のイスラム系移民」に関して「若者は就職難で失業率が高い。経済格差に対する不満がくすぶっている」ことが域内でテロリストを育てる温床になっていると松浦編集委員は分析する。分析が的外れとは言わない。しかし、その手の話はパリでのテロの発生後にテレビなどで「これでもか」と言うほど聞かされた。松浦編集委員も耳にしたり目にしたりしたはずだ。なのに、テロ発生から半月が経過した今頃になって、ありきたりな分析を披露するのはなぜか。

「from 米国」とタイトルに付いているのに、米国関連の話がほとんど出てこないのもどうかと思うが、とりあえずは問わないでおこう。ただ、「11月13日夜にフランスで起きた同時多発テロ事件を取材するため、首都パリに数日間ほど滞在した」のならば、パリで取材したからこそ言える何かを語ってほしい。

現地取材に関しては「パリ検察の会見取材」しか出てこない。しかも、その中身が乏しい。「パリ検察の検事は計8カ所で起きた襲撃を時系列的に説明した。記者団が息をのんだのは、『フランス国籍の自爆テロ犯が存在した』というくだり。テロは『内なる脅威』が直接の引き金になったのだ」と松浦編集委員は綴る。

現地の情報として伝えられるのがこれだけならば、わざわざパリに出向く必要はない。例えば現地の一般市民に話を聞いて、何か感じたりはしなかったのか。「自分にしか伝えられないことは何なのか」を松浦編集委員にはもっと真剣に考えてほしい。

週刊ダイヤモンドの執筆陣には良い手本がいる。「金融市場 異論百出」というコラムを担当している東短リサーチ代表取締役社長の加藤出氏だ。このコラムでは加藤氏が海外出張で見聞した話がよく出てくる。それは現地に赴かなければ分からないような中身で、分析にも独自性がある。松浦編集委員にもぜひ見習ってほしい。

今回の記事には他にも問題を感じた。それらについては(2)で述べる。

※(2)へ続く。

2015年11月28日土曜日

「費用100分の1」? 日経「新産業創世記」の強引な比較

日本経済新聞の朝刊1面で「新産業創世記」の第2部が始まった。第1部が終わった時に「いずれ連載は再開するのだろう。その時は記事の作り方を根本的に改めてほしい」とお願いしたが、叶わなかったようだ。今回もいきなり無理のある展開になっている。第2部は「ケタ違いの衝撃」がテーマで、その第1回は「宇宙へのアクセス費用100分の1 市場は地球の外」という内容だ。しかし「100分の1」も「市場は地球の外」も無理がある。
秋月温泉の料亭旅館「清流庵」(福岡県朝倉市) 
                ※写真と本文は無関係です

まずは「100分の1」に関する記述を検証しよう。

【日経の記事】

「宇宙飛行士になる」。かつて抱いた宇宙への思いを、この男はビジネスに変える。緒川修治(45)。2007年、自動車部品メーカーを飛び出してPDエアロスペース(名古屋市)を立ち上げた。狙うのは宇宙旅行の事業化だ。

従業員はたった4人。地上と宇宙を往復する7人乗り機体を開発する。来年末には独自開発エンジンの飛行試験に乗り出し、20年に高度100キロメートルの宇宙に1人1400万円の料金で送り込む。

機体は宇宙と行き来させて何度も使う。部品も割高な特注品でなく汎用品を採用する。こうした積み重ねで、1回1億円以下で宇宙にたどり着けるようにする。その費用は衛星を打ち上げる国産ロケットH2Aの100分の1に相当する。

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比較をするならば、条件は揃える必要がある。例えば「月旅行なら火星旅行の100分の1の費用」と言われても、単純に「月旅行の方が割安」とは言えない。今回の場合はどうか。

PDエアロスペースが狙うのは「高度100キロメートル」。一方、日経の11月25日の記事によると、H2Aは「高度約3万3900キロメートルで衛星を分離することに成功した」らしい。高度に関しては2桁違う。これを同じ土俵で論じていいのか。費用が100分の1になるとしても、高度は300分の1以下なので、PDエアロスペースの方が割高との見方もできる。

しかもH2Aの場合、5トン近い重量の通信放送衛星を目標の軌道に乗せる必要がある。宇宙空間と言えるギリギリの高度まで行って帰ってくるだけのPDエアロスペースとは条件が違いすぎる。もちろん、有人飛行は安全性などでH2Aよりも難しい問題もある。とは言え、単純に「宇宙へのアクセス費用100分の1」と言い切ってしまうのは強引すぎる。

強引な説明は他にもある。

【日経の記事】

十勝平野が広がる北海道大樹町。過疎化に直面する同町は地場産業の活性化に宇宙を活用する構想を練る。衛星を介して複数の無人トラクターを操り、大規模農業を実現し、海水温のデータ分析で好漁場を見つけ出す。町長の酒森正人(56)は「人手不足に対応したい」と狙いを語る。

ぐっと身近になる宇宙。無限に広がる空間の前では誰もが挑戦者になれる。

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今回の記事では「市場は地球の外」と見出しに付けているが、出てくる話はかなり苦しい。上記の話を読んで「市場は地球の外」だと感じるだろうか。宇宙旅行や衛星打ち上げでも「市場(取引される場所)」は地球上にあると思えるが、「衛星を利用した大規模農業」はさすがに苦しすぎる。記事には人工衛星の部品メーカーなど「市場は地球上」の話ばかりが並ぶ。記事を最初から最後まで読んでも「市場は地球の外」とは思えなかった。

それに、「衛星を利用した大規模農業」が実現すると「宇宙はぐっと身近になった」と思えるだろうか。GPSなどで衛星の利用は既にかなり進んでいる。「宇宙を活用」と強調するほどの話ではない。

大したことがない話を大げさに書いて無理のある記事に仕立て上げる--。日経の1面企画で繰り返されてきた問題は今回も解決されなかった。第2回以降にも多くは期待できなさそうだ。


※記事の評価はD(問題あり)。