2019年9月10日火曜日

「when抜き」は確信犯? 日経「トパーズ、ハイブリッド融資に参入」

日本経済新聞の企業ニュースで「when」が抜けるのは悪しき伝統だと指摘してきた。10日の朝刊金融経済面に載った「トパーズ、ハイブリッド融資に参入 AI分析+人による判断」という記事もその1つだ。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
       ※写真と本文は無関係です

日経の「when」抜きは大きく「うっかり型」と「確信犯型」に分けられる。今回は後者の可能性が高い。

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

独立系ファンドのトパーズ・キャピタル(東京・港)は人工知能(AI)と人の判断を組み合わせた「ハイブリッド融資」に参入する。借り入れを望む企業の財務諸表やデータをAIが分析し、人間が定性的な評価を加えて最終判断する。最大2億円の融資の可否を約2週間で決める。迅速な判断と貸し倒れ抑制の両立をめざす。

オンライン融資の仕組みを開発するクレジットエンジン(同)と共同出資でブルー・トパーズ(同)を新設した。米アマゾン・ドット・コムや楽天などが自社サイトに出店する業者などを対象にオンライン(非対面)融資を手がけているが、新会社は対面審査を加えているのが最大の特徴だ。

財務諸表などをオンラインで受け付け、クレジット社のAIでデータを分析。その上で担当者が実際に企業を訪ねて経営者と面談し、ビジネスを理解した上で融資の可否を判断する。

データ分析はAI、数字に表れない定性的な情報の判断は人と切り分けることで、貸し倒れをおさえつつ、効率的な融資につなげる。



◎「参入した」では?

『ハイブリッド融資』に参入する」と書いているが「参入」時期には触れていない。事業展開のための会社は既に「新設した」らしい。となると、実態は「参入した」なのに、ニュース価値を高めるために「参入する」と表現したのかもしれない。これならば「When」を抜いた理由も説明できる。もちろん「うっかり型」の可能性も残る。

この記事は他にも抜けている部分がある。まず意義付けだ。「ハイブリッド融資」を手掛けるのは「トパーズ・キャピタル」が世界初なのか。それとも日本初なのか。あるいはファンドでは初なのか。初ではないが極めて先進的な取り組みなのか。その辺りが分からないとニュース価値を判断できない。

トパーズ・キャピタル」が従来はどうやって融資を決めていたのかも欲しい。従来は「オンライン(非対面)融資」で、それに新たに「人の判断」を加えたのか。それとも「人の判断」だけで決めていたのを「AI」も組み合わせることにしたのか。

さらに言えば「ハイブリッド融資」のための資金はどの程度あるのか。それをどう拡大していくのかも欲しい。行数の制限はあるだろうが、最後の「データ分析はAI、数字に表れない定性的な情報の判断は人と切り分けることで、貸し倒れをおさえつつ、効率的な融資につなげる」という部分は同じ話を繰り返している感じがあるので、ここを削る手はある。

最後に「ハイブリッド融資」という用語の問題にも触れたい。「ハイブリッドローン」という言葉がある。普通に考えれば「ハイブリッド融資」と同義だ。日経は過去の記事で「ハイブリッドローン(劣後特約付きローン)」と説明している。しかし、今回の記事では「劣後特約付きローン」という意味で「ハイブリッド融資」と書いている訳ではない。

造語のつもりで「ハイブリッド融資」と表現したのだろうか。あるいは「トパーズ・キャピタル」が「ハイブリッド融資」として打ち出しているのか。いずれにしても誤解を招きやすい表現ではある。


※今回取り上げた記事「トパーズ、ハイブリッド融資に参入 AI分析+人による判断
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190910&ng=DGKKZO49575220Z00C19A9EE9000


※記事の評価はD(問題あり)。

0 件のコメント:

コメントを投稿