2019年9月22日日曜日

女性議員は「異物」じゃダメ? 日経 木村恭子編集委員への疑問

日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」は訴えたいことを持たない筆者が多過ぎると指摘してきた。22日の朝刊総合3面に木村恭子編集委員が書いた「女性議員はまだ『異物』か」に関しては「何を訴えたいか」は伝わってくる。そこは評価できるが、記事の内容には色々と疑問が浮かんだ。
福浦橋(宮城県松島町)※写真と本文は無関係

中身を見ながら具体的に指摘したい。

【日経の記事】

日本の国会では女性議員はマイノリティーどころか異物に近い

政治家を目指す女性らを前に自民党の野田聖子元総務相はこう嘆いた。女性の政治家を育てる一般社団法人「パリテ・アカデミー」と笹川平和財団が9月上旬に開いた「女性政治リーダー・トレーニング合宿」のレセプションの場での発言だったが、招待されていたマレーシアの女性大臣、カマルディン住宅・地方自治相は通訳の「strange object」に苦笑していた。

野田氏は「野党には多くの女性候補を立てていただきお礼を申し上げたい」と続けた。今年は女性の政治参画の後押しを目指して制定された「政治分野における男女共同参画推進法」の施行後初の国政選となる参院選が行われた。自民党の候補者の女性比率は15%にとどまったのに対し、野党は立憲民主党(45%)、国民民主党(36%)と総じて高い。野田氏はこうした状況を皮肉った。

同じ場であいさつした国民の玉木雄一郎代表は「選挙区はいっぱい空いています」とリクルートに余念がない。「与党は現職が多く候補者を変えにくい。しかし、議席の多い与党が変わらないと国政での女性議員増は難しい」と「パリテ・アカデミー」を主宰する上智大学の三浦まり教授は分析する。「政権交代か現与党が女性候補を増やすか。新人候補にクオータ(割当)制を入れることが有益だ


◎女性自身の頑張りは十分?

気になるのが「女性議員はマイノリティーどころか異物に近い」という発言だ。「マレーシアの女性大臣、カマルディン住宅・地方自治相は通訳の『strange object』に苦笑していた」といった記述から判断すると「異物に近い」状態は好ましくないとの前提があるのだろう。

しかし「異物に近い」となぜダメなのかは説明していない。個人的には「異物に近い」方が好ましいと思える。「異物」感が全くなく完全に同化しているのならば「女性議員」を増やす意味は何なのかとの疑問も浮かぶ。

女性議員」を増やす上で女性自身の奮起を求めていないのも引っかかる。「議席の多い与党が変わらないと国政での女性議員増は難しい」「現与党が女性候補を増やすか。新人候補にクオータ(割当)制を入れることが有益だ」という「上智大学の三浦まり教授」のコメントも「与党」や制度変更に期待するものだ。

日本で女性議員が少ないのが問題だとしたら、第一の原因は女性自身にある。選挙権も被選挙権も男女平等が実現している。女性自身が積極的に立候補して、女性自身が女性候補にしっかり投票すれば「女性議員増」はあっさり実現する。

与党」に頼らなくても、女性が自ら政党を立ち上げて国会にどんどん進出していけば済む。それを阻む制度はない。「上智大学の三浦まり教授」も木村恭子編集委員も「もっと女性自身が頑張らなくては」という視点がなぜないのか。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

欧州では選挙の際に議席や候補者の一定数を女性に割り振るクオータ制を導入する国が多い。日本でも、法案を国会提出する過程で導入を盛り込んでいたが、最終的には義務付けず強制力のない理念法にとどめた。

議員立法として策定を進めた超党派の議員連盟会長の中川正春・元文部科学相は「女性議員が目標割合に達したらクオータ制をとっぱらうという考えが理解されないまま反対論が強かった」と振り返る。

しかしクオータ制はおろか女性議員増への懐疑論はまだ根強い。「女性政治家がなぜ必要なのかわかっていない政治家がいまだに多い」。玉木氏の後にマイクを握った立民の阿久津幸彦・選挙対策委員長代理の発言に如実に表れている。

しかも、早稲田大学の中林美恵子教授によると、女性議員が増えることで財政規律が低下するという仮説があるそうだ。「働く女性が増えると育児や介護といった、これまで女性が担ってきた労働に対して公的支援を求める声が高まる可能性がある。女性議員がこうした動きに敏感に反応した場合、歳出圧力が高まり財政規律の低下につながる」とのロジックだ。

しかし中林氏が1999年から2014年に米議会に提出された法案や決議案の内容を調査したところ「政党別に女性議員を検証すると、共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜していることがデータで示せた」といい、しかも、13年以降は女性議員の歳出増加志向が男性よりも低かったそうだ。


◎「歳出削減」が好ましい?

歳出増加」は悪いことで「歳出削減」は好ましいとの前提があって「共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜していることがデータで示せた」から女性議員を増やすのは正しい方向だと訴えているのだろう。

しかし「歳出削減」が常に正しい選択とは限らない。財政赤字を増やしてでも歳出を増やすべき状況はあり得る。全体として「歳出削減」を進めるべき状況でも、必要なところでは歳出を増やし、不必要な部分を大胆に削るといったメリハリは要る。「共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜している」からと言って、それが好ましいかどうかは簡単には決められない。

最後に記事の結論を見ていく。

【日経の記事】

「米国は日本と同様にクオータ制を入れていないが、女性議員は確実に増えている。そのカギとなっているのは、女性の政界進出を支援する米政治団体『エミリーズ・リスト』のような、女性の立候補を後押しするための資金援助の仕組みだ」という。日本でもクオータ制の導入の法改正を待つよりも、女性候補者に資金援助を手厚くする仕組みを設けるほうが現実的かもしれない。

中川、野田両氏が参加する超党派議連では近く参院選での女性活用について総括を行う。女性議員がなぜ必要か。そんな議論から早く抜け出してほしい



◎「なぜ必要か」を抜きに増やすべき?

女性議員がなぜ必要か。そんな議論から早く抜け出してほしい」という結論は引っかかる。「そんな議論は必要ない。さっさと女性議員を増やそう」と言いたいのか「その議論には決着が付いている。さっさと女性議員を増やそう」との趣旨なのか分からないが、いずれにしても同意できない。

女性議員を増やすと日本が劇的に良くなるという確実な根拠があるのならば「クオータ制」を検討すべきだ。しかし、そうではないのならば「なぜ必要か」の「議論」は欠かせない。今回の記事でも「女性議員がなぜ必要か」との問いにきちんとした答えは出せていない。なのになぜ「そんな議論から早く抜け出してほしい」となってしまうのか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~女性議員はまだ『異物』か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190922&ng=DGKKZO50035110Q9A920C1EA3000


※記事の評価はC(平均的)。木村恭子編集委員への評価はCで確定とする。木村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

労働分配率の分母は「利益」? 日経 木村恭子編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_28.html

日経「風見鶏~野党に唯一求めること」で木村恭子編集委員に求めること
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_16.html

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