2019年9月3日火曜日

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」

日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)を「訴えたいことが枯渇した書き手」と評してきた。最近は頑張って「訴えたいこと」を捻り出しているとは思う。だが、無理がたたっているのか内容はやはり苦しい。3日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『東京銘柄』埋没は訴える」という記事に関して、いくつかツッコミを入れてみたい。
石巻商工信用組合 本店営業部(宮城県石巻市)
           ※写真と本文は無関係です

まず「東京の大企業」は「官僚的」という分析について考える。

【日経の記事】

株価低迷の理由は、東京の大企業の稼ぐ力が弱いからではないか。こう仮説を立てると、様々な傍証が浮かぶ。そもそも東京は、家賃も人件費も高い。加えてちらつくのが大企業病だ。企業の現場を知る2人の証言がある。

まずは経営コンサルタントである経営共創基盤の代表取締役、村岡隆史氏。東京の大手企業にM&A(合併・買収)を提案した際、法務、財務、グループ会社の管理を担当する部署などから2人ずつも集まって話を聞いてくれた。だが、議論は前に進まない。

決定権を持つのはそれらの部署を統括する別の部署であり、その上にいる重役だからだ。「東京の企業はバブル期に間接部門が肥大化したままだ」という。

次に、昨年まで国際協力銀行の総裁だった近藤章氏。国際競争入札の内幕に接し、下馬評に反して入札で敗れる「経団連銘柄」を見てきた。「IT(情報技術)化ひとつ取っても遅れ、膨大な量の紙を社内で使っている。安い価格で入札できるはずがない」という。

2人が共に指摘するのが「東京の大企業には霞が関とのしがらみがある」という点だ。大きな決定の前に官僚に根回しをする担当者も置く必要があるし、政府への報告は今も紙が主流だ。役所と深く交流する分、官僚的な文化が伝染した面もある。


◎東京以外の企業は「しがらみ」がない?

経営共創基盤の代表取締役、村岡隆史氏」と「昨年まで国際協力銀行の総裁だった近藤章氏」が「東京の大企業には霞が関とのしがらみがある」と「指摘」したらしい。それを梶原氏は素直に受け入れている。東京以外の「大企業には霞が関とのしがらみが」ないのか。あっても薄いのか。

例えばJR東日本は「霞が関とのしがらみがある」が、JR東海やJR西日本は違うのか。ホンダや日産は「霞が関とのしがらみがある」が、トヨタは違うのか。東京以外に本社を置けば、規制などの面で「霞が関とのしがらみ」を減らせるとは考えにくい。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

バブルが崩壊した1991年以降の時価総額の変化率を見ると、最も減らした企業は銀行、電力、建設の3業種に集中する。政府は護送船団方式で銀行を、地域独占体制で電力を、公共工事で建設業界を守ってきた。政府と密接なあまり稼ぐ力を高められなかった点で、東京銘柄の不振と重なる。


◎なぜ「1991年以降」?

まず「バブルが崩壊した1991年以降の時価総額の変化率」を持ち出すのが解せない。株価で言えばバブルのピークは89年末なので「90年以降の時価総額」で見る方が自然だ。

最も減らした企業は銀行、電力、建設の3業種に集中する」という説明もおかしい。基本的に「最も減らした企業」は1社のはずだ(同率で複数となる場合もある)。なのに「銀行、電力、建設の3業種に集中する」と書いている。これだと「最も減らした企業」がかなりの数ある感じがする。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

どうすれば東京の企業はよみがえるか。ヒントは同じランキングの上位にある。ニトリホールディングス、日本電産、ユニ・チャーム。オーナー的な強いリーダーシップで鳴らす会社ばかりで、役人の顔色をうかがう姿勢とは逆だ。

オーナー的と言えば、多くの創業家が君臨する京都の企業を連想する市場関係者もいるだろう。財務内容を比べると、確かに東京企業の目指す姿が見え始める。

「戦え」が最初のメッセージだ。京都企業は、稼ぐ力を示す営業利益率が東京企業に比べて高い。間接部門がスリムで、現場の生産性も高いからだ。売上高に対する設備投資や研究開発費の比率も格段に高い。京都企業はハイテク企業を中心にグローバル競争を激しく戦っている。勝ち抜くために、稼いだ利益を米国企業並みにイノベーションに投じている。

「長期の目線」も京都型経営の特徴だ。営業利益率は一朝一夕で高まらない。これに対し、東京企業が優位に立つ自己資本利益率(ROE)は、借り入れを増やすことで手っ取り早く高められる指標でもある。日本電産を率いる永守重信氏は株主総会で、自らを批判する短期保有の投資家に「明日株価が上がれば売る人の言うことを全部聞いていては、経営はできない」と反撃したことがある。



◎比較に意味ある?

京都企業」と「東京企業」の比較に意味があるとは思えない。「京都企業」は「営業利益率が東京企業に比べて高い」上に「売上高に対する設備投資や研究開発費の比率も格段に高い」と言うが、業種の構成などが大きく異なるのではないか。

例えば同じ小売業でもFCが主体のコンビニは「営業利益率」が高くなりやすいし、直営店が主となるスーパーなどは「営業利益率」が低くなりやすい。だからと言って直営店方式が劣っていると分析するのは誤りだ。

売上高に対する設備投資や研究開発費の比率」も業種が違えば比較に意味はない。ハイテク企業のA社の「研究開発費の比率」が高くて、人材派遣業のB社の「研究開発費の比率」が低いからと言って、A社を高く評価しても無意味だ。「研究開発」の必要性が乏しい事業は当然にある。

そうした点を考慮しないで「京都企業」と「東京企業」を比較するのは強引すぎる。

財務指標の中でも「自己資本利益率(ROE)」は業種が違っていても比較に意味があるとは思う。これに関しては「東京企業が優位に立つ」らしい。それだと話が苦しくなるので「自己資本利益率(ROE)は、借り入れを増やすことで手っ取り早く高められる指標でもある」と添えたのだろう。

しかし「ROE」は「借り入れを増やすことで手っ取り早く高められる」とは言い難い。「借り入れ」を使って利益を増やさなければ「ROE」は高まらない。「借り入れ」で得た資金を事業に投じて損失を出せば、「ROE」を下げてしまう。

手っ取り早く高められる」と訴えたいのならば「自己資本利益率(ROE)は自己資本を減らすことで手っ取り早く高められる指標でもある」とした方が良いのではないか。

最後に「東京銘柄」の比較対象に注文を付けておきたい。記事に付けた地図もそうだが、北海道、東北、北陸、東海、近畿、四国、中国、九州と比べている。これらの地域と比べるならば「関東銘柄」にした方がいい。「東京銘柄」にこだわるのならば、都道府県単位で比べるべきだろう。

付け加えると、地域別の比較で新潟県、長野県、山梨県、沖縄県はどこに入るのだろうか。新潟は北陸に入らないこともないが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『東京銘柄』埋没は訴える
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190903&ng=DGKKZO49309250S9A900C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

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