2019年9月30日月曜日

「内部留保」への誤解促す日経1面トップ「M&Aに減税措置検討」

内部留保」は誤解されやすい言葉だ。「使わずにため込んでいる資金」だと思われやすいが、そうとは限らない。30日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「M&Aに減税措置検討 甘利自民税調会長に聞く~内部留保の活用促す」という記事も「内部留保」への誤解を助長させかねない内容になっている。
宮城県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)
           ※写真と本文は無関係です

関連する部分を見ていく。

【日経の記事】

念頭にあるのは内部留保を使った新規事業への投資だ。対象になる投資の範囲や控除割合など詳細は今後、自民党税調で議論して詰める。利用できる企業を資本金や出資金の規模で絞らず、幅広く活用できる制度にする方向だ。甘利氏は「イノベーションの気概が薄い大企業を第2創業のような勢いで伸ばしていく」と語った。

日本企業は社内に研究者を囲い込む自前主義が強い。欧米では社外のベンチャー企業や大学などが持つ技術とアイデアを活用する「オープン・イノベーション」が盛んだ。甘利氏はこうした手法を税制で支援する考えを示し「世界中の大企業は思い切ったことをやっている。日本の大企業もできるはずだ」と語った。

新事業への投資のうち、甘利氏が減税措置の有力候補に挙げたのはM&Aだ。これまで投資に関する減税は生産性向上につながる設備やソフトウエアなど償却可能な資産ばかりが対象だった。スタートアップ企業への投資に優遇措置を設けた例はあるがいまはない。M&Aの活性化は20年度改正の目玉になりそうだ。

甘利氏は日本企業の内部留保が18年度で463兆円と7年連続で過去最高を更新したと指摘した。「内部留保がたまっていく企業はイノベーションが起きていない」と述べ、米国企業に比べて日本の企業の自己資本利益率(ROE)が低い一因だと訴えた

政府・与党はこれまでも企業に内部留保を使わせるための政策を実施してきた。18年度には給与を前年度から3%増やせばその15%を法人税から差し引く制度を導入した。大企業が研究開発や共同研究に投じた費用を法人税から差し引ける税制も拡充したが、内部留保は増加を続けてきた。


◎「現預金の活用」なら分かるが…

2017年10月17日付の記事で日経は「内部留保」について以下のように解説している。

企業が稼いだ純利益から株主への配当金を支払って残った剰余金を蓄えたもの。貸借対照表では『利益剰余金』として計上され、資本金などと合わせて株主のお金である純資産を構成する。現預金など手元に置いておく資金のほか、設備投資やM&A(合併・買収)といった成長資金として使われる可能性もある

設備投資やM&A(合併・買収)といった成長資金として使われる可能性もある」のだから「内部留保」が増えているからと言って「M&A」に使っていないとは言い切れない。

だが、今回の記事では冒頭で「自民党税制調査会の甘利明会長は日本経済新聞のインタビューに応じ、M&A(合併・買収)への減税措置を検討する方針を示した。企業に利益の蓄積である内部留保の活用を促す」と書いている。これだと「内部留保=M&Aには使われていない資金」との誤解を招く。

自民党税制調査会の甘利明会長」が「内部留保の活用を促す」と言ってるんだからそう書くしかないと記者は反論するかもしれない。だが、取材時に「内部留保の中にはM&Aに回っている部分もありますよね」などと聞いてもいい。記事の中で「内部留保=現預金」ではないと注釈を付けてもいい。そうした工夫をせず「甘利明会長」の言い分をそのまま記事にしたのならば、経済紙としては実力不足が過ぎる。


※「M&Aに減税措置検討 甘利自民税調会長に聞く~内部留保の活用促す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190930&ng=DGKKZO50371110Z20C19A9MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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