2019年9月21日土曜日

日経ビジネス吉野次郎記者は「投げ銭型ライブ」を持ち上げるが…

日経ビジネス9月23日号に載った「Special Report 勃興する投げ銭型ライブ配信市場~トークや歌で視聴者魅了 芸能事務所を中抜きに」という記事で、筆者の吉野次郎記者は「投げ銭型ライブ配信市場」を手放しに持ち上げている。しかし、「芸能事務所」に所属する利用者にとって、それほど旨みのある仕組みとは思えない。
大川小学校跡地(宮城県石巻市)
      ※写真と本文は無関係です

問題のくだりは以下のようになっている。

【日経ビジネスの記事】

日本市場の急成長をけん引する17 Mediaの創業者は、台湾の人気ヒップホップアーティスト、ジェフリー・ホワン氏である。芸能界で見聞きしてきた理不尽を解消することが、創業の動機だった。

テレビに出演しても所属事務所が中間マージンを抜いて、わずかな出演料しか手にできない芸能人をホワン氏は多数見てきた。そうした中間搾取をなくす映像メディアとして17 Liveを立ち上げた。

事務所に所属せずとも、スマホさえあれば誰でも簡単に才能を披露できる。仮に事務所に所属していれば、中間マージンをピンはねされないよう、視聴者からの投げ銭は原則的に事務所を通さずにライバーに直接渡す

正確にはアプリ内の課金を代行する米アップルや米グーグルへの手数料や、17 Liveの運営コストを差し引いてライバーに支払う。ライバーの歩合は視聴者からの投げ銭の15%程度である(本誌推定)。他社もおおむね同水準とみられる。事務所に対しては、ライバーへの支払いとは別に、所属ライバー全員の売り上げに応じた対価を渡している

17 Media Japanの小野裕史CEO(最高経営責任者)は「ライバーには最大限還元するのが私たちのポリシーだ。月収が1000万円を超えるライバーもいる」と言う。



◎わずか15%の取り分では…

投げ銭型ライブ配信市場」が「芸能事務所の中抜きを加速させている」と断言しているので「芸能事務所」に所属している人が「投げ銭型ライブ」をやった場合、「芸能事務所」の取り分は当然にゼロなのだと思って記事を読み進めてしまった。

しかし「事務所に対しては、ライバーへの支払いとは別に、所属ライバー全員の売り上げに応じた対価を渡している」らしい。これで「中抜きを加速させている」と言えるのか。

報酬は「事務所を通さずにライバーに直接渡す」としても、「ライブ」で得られた収入から一定の金額が「事務所」に渡るのであれば、実態として大きな変化はない。実質的には「芸能事務所の中抜き」にならないと見るべきだろう。

さらに「アプリ内の課金を代行する米アップルや米グーグルへの手数料や、17 Liveの運営コストを差し引」くらしい。そして「投げ銭の15%程度」しか「ライバー」には渡らない。言い換えれば「投げ銭」の85%を米アップル、米グーグル、17 Live、所属事務所で分け合う仕組みだ。「芸能界で見聞きしてきた理不尽を解消」「中間搾取をなくす」などと持ち上げる価値のある立派なものなのか。

記事の結論部分にも疑問が残った。

【日経ビジネスの記事】

東京都内で夫と年金暮らしを営む72歳の「せんちゃん」もその1人だ。「生きがいが足りないように見えた」という娘からの勧めをきっかけに、ライバーになった。娘に買ってもらったスマホの使い方を覚え、18年3月から配信している。内容はトークが中心で、テーマは孫や動物、花、五木ひろしさんなど、その日によって様々だ。自ら演歌やポップスを披露することもある。

「やっていくうちにだんだん楽しくなってきた。小学生も観に来てくれる」とうれしそうだ。せんちゃんが見いだした生きがいは、誰でも世界に向かって自分を表現できる時代を象徴する。

ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルは1960年代後半に「将来は誰もが15分間は有名になれる」と予言した。その言葉は半世紀余りの時を経て、現実のものになろうとしている



◎何か関係ある?

17 Live」は「将来は誰もが15分間は有名になれる」という「言葉」を「現実のもの」としてくれる素晴らしい仕組みだと吉野記者は信じているのだろう。しかし、どう考えたらそうなるのか理解できなかった。

動画配信サービスは以前からある。これによって「有名になれるチャンスが広がった」とは言えるだろう。では「投げ銭型ライブ配信」はどうか。「有名になれる」かどうかに関して、これまでと大きな差はなさそうだ。「ライブ配信」ができる仕組みは元からあった。そこに「投げ銭型」という機能を加えると「誰もが有名になれる」環境が一気に整うのか。

そもそも「誰もが15分間は有名になれる」時代は訪れそうもない。「有名」の定義次第ではあるが、仮に「100万人以上の人が顔と名前を覚えている」という条件を満たせば「有名」だとしよう。

ごく普通の人が「15分間」でいいから「有名」になりたいと願った場合、「17 Live」を使えばその望みは叶うだろうか。個人的な予想では、失敗率が99%を超えそうな気がする。


※今回取り上げた記事「Special Report 勃興する投げ銭型ライブ配信市場~トークや歌で視聴者魅了 芸能事務所を中抜きに
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00069/


※記事の評価はD(問題あり)。吉野次郎記者への評価はDで確定とする。吉野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/gafa.html

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