2017年11月8日水曜日

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

8日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~我慢の巨象、竜に怒る」という記事は説明に難が目立った。まずは「一帯一路」に関する記述から見ていこう。筆者の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)は以下のように書いている。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ふだんはおとなしいが、本気で怒ると凶暴になり、敵に挑みかかることもある。そんな象を国のシンボルとするインドが、大切な縄張りを荒らされた、と怒っている。相手は竜、すなわち中国だ。

インドが憤る直接のきっかけは、中国が進める「一帯一路」構想である。海と陸の交通路を整え、中国から欧州まで新シルクロード経済圏を築こうというものだ。

中国は5月、北京に百数十カ国を招き、同構想のお披露目の会合を開いた。日本を含め、ほとんどのアジア諸国が参加したが、インドは代表を送らず、事実上、ボイコットした。

その理由は地図をみれば明白だ。スリランカ、ミャンマー、パキスタン、そしてインド洋からアフリカ大陸への玄関となるジブチ……。インド側からみれば、同構想はまるで自分を包囲するように設計されている。

インドがさらに憤慨したのは、彼らがパキスタンと領有権を争うカシミール地方の一部までもが、対象に含まれていることだ。内情に通じたインドの元高官は、同国政府の怒りをこう代弁する。

「中国はインドを包囲しようとするだけでなく、主権問題にまで手を突っ込んできた。まるで植民地主義の再来だ」


◎インドを「包囲するように設計」?

記事では「一帯一路」について「インド側からみれば、同構想はまるで自分を包囲するように設計されている」と記している。記事に付けた地図にも「一帯一路はインドを取り囲むように延びる」との説明が付いている。
八坂神社(北九州市)※写真と本文は無関係です

だが、地図を見ると「一帯」に関しては、中国から東南アジアを経由してインドに至りインド洋へと抜けるルートがある。「インドがさらに憤慨したのは、彼らがパキスタンと領有権を争うカシミール地方の一部までもが、対象に含まれていることだ」と秋田氏は言うが、地図からは「インドそのものが含まれる」としか思えない。

同じ日の朝刊の経済教室面にも「中国の『一帯一路』のイメージ」というタイトルの地図が出ていて、ここでも「陸のシルクロード(6つの回廊)」の中の5番目の「回廊」がインドを東西に横切っている。こうした点を考慮すると「インド側からみれば、同構想はまるで自分を包囲するように設計されている」との解説には問題を感じる。

次に問題としたいのが「中印国境」に関する記述だ。

【日経の記事】

中国はインドによる反発を過小評価していたのだろう。中国からみれば、一帯一路構想はインド包囲網より、米国に対抗し、中国主導の秩序を築くことに主眼があるからだ。

仮にそうだとしても、インド側は自分たちへの挑戦だと受け止め、すでに対中政策の見直しに入っている。そのひとつが中印国境への対応だ。

1962年に戦火を交えた中印にはなお国境が定まらない係争地があり、その面積はマレーシアと同じくらいの広さにおよぶ。

そこではしばしば、両軍による越境事件が起きている。インドの軍事専門家らによると、インド政府は中国軍の越境に対し、これまで抗議こそすれ、大規模な部隊を送って対抗することには慎重だった。中国を相手に、あまり緊張を高めたくないからだ。

ところがモディ首相はここにきて方針を変え、中国軍が越境してきた場合にはこれまで以上に素早く、強く対抗する方針に転じたという。弱腰の態度をみせれば、中国はさらに強気になってしまうとの判断に至ったからだ。

この新方針はさっそく実行に移された。6月から約2カ月半にわたり、中国とブータンの国境でインド軍が中国軍と対峙し、一触即発となった危機がそれだ

インドは中国に対抗し、500人以上の部隊を国境に送り、その後方にも1万数千人の兵力を集結させた。中印戦争以来、インド側がこれほどの兵力を投じ、中国に対峙したのは初めてだ。


◎話が噛み合ってる?

中印国境への対応」で「(インドは)中国軍が越境してきた場合にはこれまで以上に素早く、強く対抗する方針に転じた」と秋田氏は解説している。そして「この新方針はさっそく実行に移された」という。だとすれば「中印国境」で「新方針」は「実行に移された」はずだ。
だんごあん(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

しかしなぜか「中国とブータンの国境でインド軍が中国軍と対峙し、一触即発となった危機がそれだ」となってしまう。「中国とブータンの国境」での話ならば「中印」の「なお国境が定まらない係争地」とはまた別だ。話が上手く噛み合っていない。

中国とブータンの国境でインド軍が中国軍と対峙」した件を持ってくるのならば、もう少し丁寧な説明が要る。それをすっ飛ばしているところに書き手としての実力不足を感じる。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

問題は、中印がさらに対立を深めていくのか、それともやがて関係改善に向かうのかだ。曲折はあっても、長期的には前者の可能性が小さくない。中印戦争以来、両国には不信感のマグマがたまっているからだ。「一帯一路」構想がそこに火を付けた。

21世紀半ばまでに米国と並ぶ強国になると宣言する以上、中国は勢力圏を広げる動きをさらに速めるとみられる。一方のインドも国力が増すにつれ、自己主張を強めるにちがいない。両国のすみ分けはさらに難しくなるだろう。

国連の予測によれば、インドは24年ごろまでに中国を抜き、世界一の人口大国になる。国内総生産(GDP)は約5分の1にとどまっているが、成長率は中国を上回っている。

2つの大国のライバル関係は、アジアだけでなく、世界の地政学図をも左右する。日米が6日の首脳会談でかかげた「自由で開かれたインド太平洋」の戦略の将来にもかかわってくる。

竜が暴れないよう、象が重し役を果たすなら、アジアの安定には好ましい。逆に両者が大げんかとなり、周りを巻き込むようなシナリオは避けなければならない。


筑後川(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です
◎結論が当たり前すぎる…

竜が暴れないよう、象が重し役を果たすなら、アジアの安定には好ましい。逆に両者が大げんかとなり、周りを巻き込むようなシナリオは避けなければならない」というのが記事の結論だ。当たり前すぎて悲しくなる。「本社コメンテーター」という肩書とともに筆者の写真まで付けた記事で、これが秋田氏の訴えたいことなのか。こんな凡庸な結論を導くために日々の取材を続けているのか。

「(中印が)大げんかとなり、周りを巻き込むようなシナリオは避けなければならない」のは誰でも分かる。コラムのタイトルの「Deep Insight」は「深い洞察」という意味だ。秋田氏の導く結論には「深い洞察」の断片すら感じられない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~我慢の巨象、竜に怒る
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171108&ng=DGKKZO23207220X01C17A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価もDを据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

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