2017年11月29日水曜日

解雇規制緩和で生産性が向上? 日経「生産性考」の無理筋

29日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「生産性考~正社員の終身雇用根強く 衰退産業に人材滞留」という記事は、読者に誤解を与えるご都合主義の解説が目に付いた。労働生産性を高めるためには解雇規制の緩和をすべきだと言いたいようだが、論理展開に無理がある。
キリンビール福岡工場(朝倉市)※写真と本文は無関係です

問題のくだりは以下のようになっている。

【日経の記事】

日本総合研究所の山田久理事の試算によると、2000年から15年の間に日本の労働生産性は年率0.5%の成長にとどまった。製造業やサービス業といった各産業内の生産性はプラス0.6%だった。マイナス0.1%と足を引っ張ったのが産業シェアの変化。生産性の高い産業に労働力が移らなかったためだ

年功序列や終身雇用といった日本の雇用習慣は勤続年数が高いほど待遇面で有利になるため、転職が進みにくい。解雇の金銭的解決ルールがない点も雇用の流動性が低下する原因とされる


◎「生産性の高い産業=成長産業」?

衰退産業に人材滞留」と見出しを付け、「生産性の高い産業に労働力が移らなかったた」と書くと、「雇用の流動性」を高めれば「生産性の高い産業」に労働力が移動するような印象を受ける。本当にそうだろうか。
久留米大学前駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

産業を製造業とサービス業に分け、「製造業=生産性は高いが衰退傾向」「サービス業=生産性は低いが成長傾向」としよう。これは日本経済の状況とも符合するはずだ。現状では製造業からサービス業に労働力が流れている。

例えば、生産性の高い工場で働いていた人が、工場の海外移転に伴って生産性の低いサービス業の仕事を始めた場合、労働生産性は低下する。では、上記のような状況下で解雇規制を緩めて、自由に解雇できるようにするとどうなるか。

サービス業から「生産性の高い」製造業に労働力が移って、日本全体の労働生産性が向上するだろうか。製造業は衰退傾向という流れが変わらないのであれば、そもそも解雇規制を緩和しても労働力が製造業に大きく移動するとは思えない。「衰退産業」では労働者への需要が減るからだ。

記事では「生産性の高い産業」は成長性が高く、「生産性の低い産業」は「衰退産業」との前提を感じる。しかし、実際にはそうした関係が成り立つとは限らない。

記事では何が「生産性の高い産業」で何が「衰退産業」かを示していない。それを示すと理屈が合わなくなるからではないかと勘繰りたくなる。


※今回取り上げた記事「生産性考~正社員の終身雇用根強く 衰退産業に人材滞留
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171129&ng=DGKKZO24014020Y7A121C1TJ2000

※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日本の労働生産性は「低下傾向」? 日経「生産性考」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_27.html

「労働生産性」を数値で見せない日経1面「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_28.html

「鍵は経営者」だとデータが物語らない日経「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_36.html

「日本の高齢化は世界最速」? 日経「生産性考」取材班に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post.html

最後まで問題だらけの日経「生産性考~危機を好機に」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html

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