2016年11月6日日曜日

東洋経済 常盤有未記者「フレッシュネス」解説の未熟さ

11月5日付で東洋経済オンラインに載った「牛角がフレッシュネスバーガーを買った理由 3度目の"身売り"は成功するのか」では、筆者である常盤有未記者の書き手としての未熟さを再確認できた。「外食大手チェーンのコロワイド」に買収される「フレッシュネス」について、常盤記者は以下のように書いている。
角島大橋周辺の海岸(山口県下関市) ※写真と本文は無関係です

【東洋経済オンラインの記事】

店舗数は2007年3月の192店がピークだった。ここ10年ほど既存店売上高の減少が続いていたことに加え、不採算店の整理を進めたことが響き、収益面で苦戦。2015年度の業績は、直営店とFC店をあわせたチェーン全体の売上高が78億円、会計上の売上高は51億円、最終利益は赤字だった。現在の店舗数は9月末時点で159店にとどまり、そのうち3分の2がFC店だ。

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不採算店の整理を進めたことが響き、収益面で苦戦」することはあり得る。閉店に伴う一時的な費用が発生するからだ。だが、「不採算店の整理」は中期的に見れば業績改善要因だ。常盤記者の書き方だと「不採算店の整理」をしない方がいいような印象を受ける。

さらに言えば「既存店売上高の減少が続いていたことに加え」にも冗長さを感じる。改善例を示してみよう。

【改善例】

ここ10年ほど既存店売上高が減り続けていた上に、不採算店の整理に伴う費用負担も重く、収益面で苦戦。

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付け加えると「2015年度の業績は、直営店とFC店をあわせたチェーン全体の売上高が78億円、会計上の売上高は51億円、最終利益は赤字だった」と書いても「収益面で苦戦」している様子があまり伝わらない。「最終利益は赤字」ぐらいだ。そこも赤字の額は示していない。

苦戦」を伝えるためには「売り上げがどの程度減っているのか」「利益面での落ち込みはどの程度なのか」を見せた方がいい。また「最終利益は赤字」はお薦めしない。「最終損益は赤字」の方が好ましい。

さらに記事の中身を見ていく。

【東洋経済オンラインの記事】

フレッシュネスは「ハンバーガーカフェ」というコンセプトを掲げており、他社に比べて食事や飲み物の品ぞろえが豊富だ。商品開発でも、「ベーコンオムレツバーガー」や「スパムバーガー」といった独自商品を多く投入している。ただ、課題はこうした独自商品を生かせない「サービス水準の低さにある」(マクドナルドOBで従業員教育に詳しい松下雅憲氏)。

1店舗あたりの年間平均売上高は推計で約5000万円に過ぎない。マクドナルドの1.2億円、モスの7600万円、牛丼チェーンで8000万円ということを考えても、大幅に低い。あるハンバーガーチェーンのOBは「FCオーナーの中には、自店舗で働かずに、他業種でアルバイトをしているという、うわさもある」と明かす。

フレッシュネスもここに来てやっと施策を打ち始めている。2年ほど前から店舗改装を進めたことや新商品投入により、売上高は反転、2015年2月~2016年7月まで18ヵ月間、既存店売上高は前年超えを記録した。今年4月のメニュー改定で一部のメニューを休止し、さらなるオペレーションの改善にも取り組んでいる。「もう1段収益力をあげなければ、大幅に店舗を増やすのは難しい」とフレッシュネスの船曵睦雄・常務取締役は話す。

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上記の部分の疑問点を列挙してみる。

疑問その1~なぜ「サービス水準」が低い?

記事からは「1店舗あたりの年間平均売上高」が低いことが「サービス水準の低さ」につながっていると解釈するしかない。だが、店舗での従業員教育にそれほど多額の資金が要るとは思えない。記事の言う通りならば、モスよりもマクドナルドの方が「サービス水準」ははるかに高いはずだ。しかし、そういうイメージは個人的にはない。


疑問その2~「1店舗当たりの売上高」で比べて意味ある?

マクドナルド、モス、フレッシュネス、牛丼チェーンの店舗の大きさがほぼ同じならば、1店舗当たりの売上高で比べるのも分かるが、かなり差があるのではないか。なぜ単位面積当たりの売上高で比較しないのか。仮にマクドナルドの1店舗当たりの面積がフレッシュネスの2.5倍ならば、実力的には差がなくなる。


疑問その3~「フレッシュネスは厳しい状況」?

記事の冒頭で「運営元のフレッシュネスは厳しい状況に置かれている」と常盤記者は書いていた。しかし「2年ほど前から店舗改装を進めたことや新商品投入により、売上高は反転、2015年2月~2016年7月まで18ヵ月間、既存店売上高は前年超えを記録した」のであれば、それほど「厳しい状況」とも思えない。15年度は最終赤字だったかもしれないが、16年度は黒字化も見込めるのではないか。

次に、業態に関する説明の問題点を指摘したい。

【東洋経済オンラインの記事】

当初は居酒屋を中心にM&Aを進めていたが、若者のアルコール離れなど業界の縮小を見越して、レストラン事業強化に乗り出している。2005年には「ステーキ宮」「カルビ大将」などを運営するアトムを、2012年にはレインズを、2014年には回転ずし「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトを買収した。今回のフレッシュネス買収でファストフード業界への足掛かりを作ったことになる

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今回のフレッシュネス買収でファストフード業界への足掛かりを作ったことになる」と書くと、コロワイドはこれまで「ファストフード業界への足掛かり」を持たなかったように見える。だが、「回転ずし」も一般的には「ファストフード」なので、「カッパ・クリエイトを買収した」時点で「足掛かり」はできている。

最後に記事の結論部分に注文を付けたい。

【東洋経済オンラインの記事】

フレッシュネスについても相乗効果は微妙だ。「コロワイドは買収した会社を、ただ”くっつけているだけ”という印象が強く、M&A戦略にストーリーが感じられない。業態の違いやフレッシュネスの規模を考えると原材料の共同調達によるシナジーも期待しにくい」(外食産業のM&Aに詳しいジェイ・キャピタル・パートナーズの田中博文社長)。

一方でフレッシュネスの期待は膨らむ。「やっと健全な体制になってきた。今後の成長を考えたときに大手外食チェーンであるコロワイドグループ入りはチャンス。食材調達力、不動産やFC運営のノウハウを活用し、今後は400店程度まで増やしたい」と船曵常務は語る。

レッシュネスにとっては、この10年間で3回目の"身売り"となる。今回は外食大手企業の傘下で、期待どおりの効果は生み出せるのか

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結論が「今回は外食大手企業の傘下で、期待でどおりの効果は生み出せるのか」ではダメだ。何も言っていないに等しい。今回の記事には「3度目の"身売り"は成功するのか」との見出しが付いている。そして「常盤有未」と署名入りで執筆している。ならば「3度目の"身売り"は成功するのか」との問題提起に対する筆者としての答えは必須だ。

「成功するか失敗するか断定しろ」とは言わない。だが、どちらの可能性が高そうかぐらいは述べてほしい。記事を通じて何を訴えたいのかを明確にしないまま書いていると、こういう結びになってしまう。常盤記者が経済記事の優れた書き手を目指すのならば、ぜひ改善してほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。常盤有未記者への評価はDを維持する。同記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「孤高のココイチ」書いた東洋経済 常盤有未記者に助言(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_98.html

「孤高のココイチ」書いた東洋経済 常盤有未記者に助言(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_27.html

ミズノへの分析の甘さ目立つ東洋経済 常盤有未記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_11.html

今度はゼンショー? 東洋経済 常盤有未記者の問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_43.html

今度はゼンショー? 東洋経済 常盤有未記者の問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_21.html

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