2016年11月26日土曜日

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」

善戦」を辞書で調べると「力を尽くしてよく戦い抜くこと。多く、力の弱いほう、負けたほうの戦いぶりにいう」(デジタル大辞泉)となっていた。「多く」となっているので「負けたほうの戦いぶりにいう」とは限らないのだろうが、勝者の戦いぶりを「善戦」と説明するのは違和感が拭えない。しかし、26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「内向く世界(2) 保護主義の誘惑 企業と社会、共生探る」という記事では「(勝者である)トランプ氏が予想を覆して善戦」との記述が出てくる。
日本女子大学(東京都豊島区) ※写真と本文は無関係です

問題の部分は記事の最初の方に出てくる。

【日経の記事】

「北米自由貿易協定(NAFTA)が壊れる」。米政治コンサルタント、スコウクロフト・グループのトム・ギャラガー氏は、米大統領選の開票結果を見て恐れた。

トランプ氏が予想を覆して善戦し、次期大統領に導いた地域に根拠はある「ラストベルト(さびた工業地帯)」。自動車の街、デトロイトを擁するミシガン州など、オールドエコノミーを象徴する中西部だ

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まず「ラストベルト」の説明に疑問が残る。梶原編集委員は「ラストベルトミシガン州など、オールドエコノミーを象徴する中西部」としているが、「米国中西部から北東部に位置する、鉄鋼や石炭、自動車などの主要産業が衰退した工業地帯の称。ミシガン州・オハイオ州・ウィスコンシン州・ペンシルベニア州などが含まれる」(デジタル大辞泉)などと「北東部」を含める場合が多い。

それは脇に置くとしても、ラストベルトがトランプ氏を「次期大統領に導いた地域」ならば、この地域でトランプ氏は勝利を収めているはずだ。なのに「善戦」なのか。

この記事には、他にもきになる部分がある。続きを見ていこう。

【日経の記事】

この地域は、2つの不満を蓄積していた。一つは、NAFTAで低賃金のメキシコに雇用を奪われたという不満だ。

う一つが、世界的なハイテク企業が集まる西海岸との格差だ。サンフランシスコの世帯当たりの所得は2015年で9万2000ドルと、10年間で60%も増えたが、デトロイトは2万6000ドルと逆に7%減った。

グーグルなどの西海岸企業は、税率が低い海外に利益を移す問題も取り沙汰される。グローバル化の波に乗る西海岸を横目に不満を強めた中西部の人々は、「NAFTA見直し」という、反グローバル化を象徴するトランプ氏の公約に懸けた

トランプ氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を表明した。発効から23年近くたち経済に組み込まれたNAFTAまで見直せば、内向きはより鮮明になる。

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メキシコに雇用を奪われた」から「『NAFTA見直し』という、反グローバル化を象徴するトランプ氏の公約に懸けた」のは分かる。だが、「西海岸との格差」への不満が「NAFTA見直し」支持につながる構図はよく分からない。関係は薄そうに思える。梶原編集委員が「関係は深い」というなら否定しない。ただ、説明はしっかりしてほしかった。

そもそも「NAFTA見直し反グローバル化」だとは感じない。「反リージョナリズム」ぐらいが適切だろう。

さらにツッコミを入れていく。

【日経の記事】

景気の長引く低迷で人々の不満は世界にまん延し、保護主義の機運を静かに高めてきた。世界の貿易の伸びは今年、経済成長率を下回り、成長のけん引役でなくなる。今露呈しているのは、社会の不満を軽視して成長を追った資本主義の限界に違いない。

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景気の長引く低迷」が引っかかる。米国では景気拡大が7年も続いている。力強さに欠けるとしても「長引く低迷」でないのは明らかだ。中国も統計への信頼性の問題はあるものの、7%近い経済成長率を維持している。世界全体で見てもマイナス成長が続いているわけではない。梶原編集委員はどういう根拠に基づいて「景気の長引く低迷」と言っているのだろうか。

記事の終盤にも疑問を感じた。

【日経の記事】

救いは、社会との共存への模索が始まっていることだ。「試練に直面して不満を抱いている人々の声を聞くべきだ」。米銀大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は選挙後、世界中の社員に訴えた。

同社はデトロイトで不動産開発を指南するなど地域の再生を助けてきた。08年のリーマン危機でウォール街批判の矢面に立ったダイモン氏は、社会を敵に回す経営のもろさに気づいている。

米非営利組織が07年以降、社会に貢献して成長する企業をベネフィット(恩恵)などを表す「B企業」と呼んで認証している。環境保護を社訓とする米パタゴニアなど、2000社近くを認証した。だがその半分は欧州、アジア、アフリカなど米国以外の企業だ。

社会に寄り添う企業は不満の対象にはならない。新しい資本主義の芽は、反グローバルの嵐を突いて国境を越えている。

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デトロイトで不動産開発を指南するなど地域の再生を助けてきた」ことが「社会との共存への模索」ならば、多くの企業は実行済みではないか。銀行であれば「危機に陥った中小企業に経営立て直しの助言をするなど地域経済の活性化を支援してきた」などと言えばいい。JPモルガン・チェースの事例をわざわざ取り上げる意義は感じられない。

そもそも、企業が「社会に寄り添う」と「反グローバルの嵐」を抑えられるのか。「デトロイトで不動産開発を指南するなど地域の再生を助けてきた」JPモルガン・チェースは「ウォール街批判」の矢面に立たずに済むかもしれない。だが「反グローバル」との関係は乏しそうだ。格差が「反グローバルの嵐」を生み出しているのならば、いくら企業が「社会に寄り添う」姿勢を見せても、格差拡大が続く限り嵐は収まりそうもない。

記事に載せたグラフによると「社会派『B企業』は急増している」らしい。なのに「反グローバル」が勢いを増しているのであれば、B企業を増やしても反グローバルの動きは止められないと考える方が自然だ。B企業がさらに増えれば反グローバル化を抑えられるとの主張は可能だが、その根拠が記事には見当たらない。


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠編集委員への評価はDを維持する。梶原編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

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