2016年8月13日土曜日

日経 黄田和宏記者「英国債利回り、一部マイナス」の矛盾

13日の日本経済新聞朝刊国際2面に載った「英国債利回り急低下 量的緩和再開、一部はマイナスに」という記事では、本文の説明とグラフに矛盾がある。これをどう解釈すべきか色々と考えたが答えは出なかった。まずは、記事の当該部分と日経への問い合わせ内容を見てほしい。
浅草寺(東京都台東区) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

【ロンドン=黄田和宏】英中央銀行イングランド銀行が8日から量的緩和策による国債の大量買い入れを再開したことを受けて、英国債の利回りが急低下している。国債の一部は史上初めてマイナス金利で取引が成立し、金融市場は一段の金融緩和を織り込み始めた。英景気が一段と悪化すれば、追加緩和に加えて、財政出動が必要になるとの見方も出ている。

英中銀は今後6カ月間で600億ポンド(約7兆9千億円)の英国債を買い入れる方針。8日に開始した買い入れ入札で11億7千万ポンド分を購入したのを皮切りに10日までに3回の入札を実施した。

金融市場ではすでに量的緩和策の影響が広がる。そのひとつが残存期間が3~4年の国債利回りがマイナスに転じたことだ。英保険大手プルーデンシャル傘下のM&Gインベストメンツによると「英国債の利回りがマイナスに転じるのは初めて」という。長期金利の指標となる10年物国債利回りも過去最低の0.5%台に低下した。

【日経への問い合わせ】

13日朝刊国際2面の「英国債利回り急低下 量的緩和再開、一部はマイナスに」という記事についてお尋ねします。記事では英国債について「金融市場ではすでに量的緩和策の影響が広がる。そのひとつが残存期間が3~4年の国債利回りがマイナスに転じたことだ」と説明しています。しかし、記事に付けた利回り曲線を見ると、グラフのタイトルにもあるように「英国債利回りは幅広い年限で低下」しているものの、低下後の8月11日の利回り曲線は残存期間1年から50年まで全てプラスとなっています。

「残存期間が3~4年の国債利回りがマイナスに転じた」との説明と利回り曲線は矛盾しています。どう理解すればよいのか教えてください。(1)残存期間3~4年の国債利回りは基本的にプラスを維持しているが、11日にごく一部でマイナスの取引があった(2)利回り曲線は11日で、利回りがマイナスに転じたのは12日--といった可能性は考えられます。ただ、記事では利回りがマイナスに転じた時期を明示していませんし、「残存期間が3~4年の国債利回り」について「マイナスなのは一部」とも書いていません。

回答がない場合、記事の説明に致命的な問題があると判断させていただきます。クオリティー・ジャーナリズムを追求していくと宣言したメディアとして、逃げない適切な対応をお願いします。

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英保険大手プルーデンシャル傘下のM&Gインベストメンツによると『英国債の利回りがマイナスに転じるのは初めて』という」と書いているのだから「残存期間が3~4年の国債利回りがマイナスに転じた」のは確かなのだろうとの前提で問い合わせは作成した。

ただ、調べた範囲では「英国債の利回りがマイナスに」と報道しているのは日経のみだった。一方、利回り曲線のグラフは日経以外から得られる情報と基本的に一致する。こちらの調査が不十分なのかもしれないが、どうも「残存期間が3~4年の国債利回りがマイナスに転じた」との記述の方が怪しい気がする。間違いでないとしても、説明に大きな問題があるのは確実だ。

ついでに追加で2点を指摘したい。

◎英国債利回りは「急低下」?

見出しは「急低下」となっているし、記事の書き出しでも「英国債の利回りが急低下している」と言い切っている。しかし、最後まで読んでも「いつと比べてどの程度の低下なのか」は不明だ。これは頂けない。

「それはグラフを見てくれ」と黄田記者は言うかもしれない。確かにグラフでは低下の状況が分かる。しかし、「急低下」しているようには見えない。残存期間10年で見ると、8月11日は3日に比べて0.2%程度の低下だ。8日前と比べてどの程度が「急低下」なのか明確な決まりはないが、誰が見ても「急低下」と思えるほどの動きではない。

◎なぜ「8月3日」と比較?

グラフでは8月11日と8月3日の利回り曲線を使っている。だが、なぜ「8月3日」が出てくるのか謎だ。「英中央銀行イングランド銀行が8日から量的緩和策による国債の大量買い入れを再開したことを受けて、英国債の利回りが急低下している」のならば、大量買入れ再開前の5日(6、7日は土日なので)と比べるのが自然ではないか。

記事からは「なぜ3日と比べるのか」を読み取るのは困難だ。「3日と比べるのが適切」と言える理由があるのならば、グラフの注記で示すべきだ。あればの話だが…。


※記事の評価はD(問題あり)。暫定でC(平均的)としていた黄田和宏記者への評価は暫定でDに引き下げる。日経の体質を考慮すると記事への問い合わせは無視される可能性が極めて高いが、回答があれば紹介したい。

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