2016年6月11日土曜日

日経1面トップ「長期金利、世界で低下」に足りないもの

11日の日本経済新聞朝刊1面のトップは「長期金利、世界で低下 成長期待しぼむ  日本、マイナス0.155% 独も最低」という記事だ。1面と総合2面を使って大々的に解説しているが、内容には不満が残る。1面の記事に絞って問題点を挙げてみよう。
夫婦滝(熊本県南小国町) ※写真と本文は無関係です

◎長期金利は新興国でも「低下」?

 「『経済の体温計』とも呼ばれる長期金利が世界で低下している」と書くのであれば、新興国の長期金利低下にも触れてほしかった。国別の国債利回りに触れた部分は以下のようになっている。

【日経の記事】

英バークレイズ・インデックスの集計では世界の国債の平均利回りは0.73%と史上最低を更新した。日本では国債残高の8割近くがマイナス金利で、ドイツでも10年債は0.0%台前半と過去最低の水準だ。償還までの期間の短い国債ならフランスイタリアなどの欧州でもマイナス金利が相次ぐ。利上げ局面の米国も年明け以降、下がる傾向にあり、10年債は1.6%台と4カ月ぶりの低さだ。

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日本以外で言及しているのは欧米のみ。新興国について調べてみると、インド、インドネシア、マレーシアなどの国債利回りは4月初旬辺りから上昇基調になっている。記事のストーリーに合わないから省いたのだろうが、だったら「世界で低下している」ではなく、「先進国で低下している」にしてほしかった。

記事には「生産性(生産活動の効率)が高まらず、人口も頭打ち。先進国は総じて経済成長のイメージを持ちにくくなっている」との解説が出てくる。「だったら、人口が増えている新興国の長期金利はどうなっているのか」と思ってしまう。しかし、その後には「新興国景気にも不安が根強い。みずほ総合研究所の高田創氏は『世界的に金利が上昇しづらい状況は当面続くだろう』と指摘する」と書いてあるだけで、新興国の長期金利の動向を教えてはくれない。

◎「構造改革が急務」の中身は?

1面の解説記事の見出しは「緩和頼み、回らぬ歯車 構造改革が急務」となっているが、最後まで読んでも構造改革の具体的な中身は謎だ。

【日経の記事】

だが、金利を抑えても、企業が投資に動き出さなければ、成長力底上げは難しい。FRBのイエレン議長がいう「労働生産性の伸びが近年、異常に弱い」状況を打破していけるかがカギになる。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は6月初旬、「すべての国で構造改革が必要だ」と話した。20カ国・地域(G20)は成長力押し上げへ「政策の総動員」で合意したが、具体策はこれから。異例の金融政策で確保した時間を政府や企業が有効に使えなければ、都市部の不動産価格の高騰などといった緩和の副作用を抑えきれなくなる

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構造改革」の具体的な内容を強いて挙げれば「労働生産性の引き上げ」だろうか。しかし、これは「構造改革」の中身というより、それによって実現する果実だろう。「構造改革が急務」と見出しに付けて解説するのであれば、もう少し具体的に書いてほしい。

さらに言うと「異例の金融政策で確保した時間を政府や企業が有効に使えなければ、都市部の不動産価格の高騰などといった緩和の副作用を抑えきれなくなる」との説明も納得できなかった。その通りならば「時間を政府や企業が有効に使えば、都市部の不動産価格の高騰などといった緩和の副作用を抑えられる」はずだ。しかし、改革が功を奏して企業が投資などに動き出せば、不動産バブルを抑えるよりは膨らます方に作用するだろう。言いたいことは何となく分かるが、うまく説明できているとは言い難い。

◎超新星は「これから爆発」?

マイナス金利国債10兆ドル 全体の半分、日本は8割」という関連記事の中での「超新星」の使い方も気になった。科学技術に関する記事ではないので大目に見てもいいのかもしれないが…。

【日経の記事】

いつか爆発する超新星だ」。債券王の異名を持つビル・グロス氏は9日、ツイッター上でこうつぶやいた。マイナス金利はお金を借りる側が利息をもらえる異常事態。中銀が人為的にもたらした面も強く、グロス氏は警鐘を鳴らした。

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ブリタニカ国際大百科事典によると「星の明るさが数日のうちに急激に増大する現象を新星と呼び、その増光の度合いが著しく大きいものを超新星と呼ぶ」らしい。「超新星」は「いつか爆発する」というより、既に大爆発を起こしたものだ。なので「いつか爆発する超新星」とのコメントは引っかかる。

グロス氏のツイッターの引用ではあるが、これを使わない選択は可能だし、補って書くこともできる。記事の作り手としてプロと呼べる水準に達していれば、この辺りは改めて説明されなくても分かっているはずだ。


※記事の評価はC(平均的)。

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